この記事では前編に続き、成毛眞(なるけ まこと)さんの著書「2040年の未来予測」を紹介してきます。後編の内容は、私たちの生活に最も直結している経済についてです。
2040年に私たちは、果たして年金はいくらもらえるのでしょうか?
税金はどれくらいで、公的医療費はどうなっているでしょうか?
現状をきちんと把握しながら、“私たちは未来に何をするべきか”を考えるきっかけにしましょう。
1. 相対的に貧しくなり続ける日本
まず著者は、“これからの日本がますます貧しくなるのは間違いない”ということを認識せよ、と言います。2020年のいま、日本はすでに先進国の中では貧しいですが、みなさんは貧しいという感覚を持っていないかもしれません。しかし、日本は10年前から物価がほとんど上がっていないのです。「え、それでもよくない?」と思うかもしれませんが、そうでもないようです。
確かに私自身、以前に山口周さんの「ビジネスの未来」の解説記事では、私たちの暮らしは明るい高原にあり、経済成長を追う必要はないと書きました。
では物価が上がらないと、どういうリスクがあるのでしょうか。
近年よく海外から観光客が押し寄せるのは、日本の観光キャンペーンが上手いわけではありません。単純に自国より日本で買うほうが、圧倒的に安いからです。私たちの物価が変わらない間に、他の国々は所得が増えてリッチになり、相対的に日本は貧しくなったということです。
そして悲しいことに、日本は経済成長がこれからもほとんど見込めません。GDPの成長率も、2030年以降はマイナス成長やほぼゼロとの予測が支配的です。日本の土地や不動産が他国から買われ、所有されるお買い得な国にどんどんなっていくということです。
2. GDPは減り、医療費は増え続ける
日本は世界1位の借金大国です。なぜこの状況が続いているかというと、単純に日本の財政の歳入よりも歳出が多い状態が続いているからです。税金の収入だけでは賄えず、国債を発行して、それを中央銀行である日銀が実質ほとんど買い上げています。しかも、その借金を減らそうにも高齢者が増えて、更なる医療介護費などの増大を避けることができないのです。
医療・介護や年金などの社会保障費は、将来的にどれぐらいまで膨らむのでしょうか。これには様々な試算がありますが、2019年に124兆円だった社会保険関係の総支出額は、2040年には190兆円に拡大すると予測されています。その中でも、医療介護費は現在の2倍近い90兆円を超える水準まで跳ね上がる可能性も指摘されています。
もちろん若年層の人口が増えていれば、これを支えることはできるでしょうが、人口というのは予測しやすく、2040年の労働人口の減少はほぼ確定しています。10年後に出生率が上がったところで、赤ちゃんがすぐに大人になることはないので、もう食い止めることはできません。歳入を増やす方法として、まず考えられるのは消費増税でしょう。
一部の専門家からは、2030年以降に消費税率を20%以上に倍増せざるを得ないという指摘があります。また、国際機関の眼差しも厳しく、OECD(経済協力開発機構)は最大26%、IMF(国際通貨基金)は段階的に15%まで引き上げることを日本に提唱しています。
もし消費増税に踏み切らなければ、財源確保のためには社会保険料を上げるしかないです。しかし、現状の社会保険料というのは既に上昇の一途を辿っており、賃金の上昇を上回るペースで、すでに社会保険料の負担が上昇しています。
10年前に比べ、社会保険料の負担率は1人当たり26%増えていますが、賃金は3%しか伸びていないのです。ここから更なる負の循環に陥れば、経済成長は落ち込み、国の財政はより厳しくなるでしょう。
3. テクノロジーの進歩は未知数
暗い話が続きましたが、ここからは少し前向きな話をしていきましょう。先ほどまでの多くの経済予測が、見落としているものがあります。それは、技術の進歩です。
医療や介護の暗い見通しも、あくまで既存の技術の延長線で予測されています。国全体の医療費や介護費を下げるには、受診回数や利用回数を下げるか、提供するサービスにかかるマンパワーを減らすことが考えられます。後者は、テクノロジーを使えばそんなに難しくはありません。
例えば、医療はAIや遺伝子治療の導入により、大きく変わるということは前編で紹介したとおりです。介護もロボットの導入で人手不足は緩和し、コストも下がるでしょう。もう少し深掘りすると、患者の将来の健康状態を予測する遺伝子検査の精度が高まり、病気の予防や進行を抑えて元気な高齢者が増えます。やや楽観的かもしれませんが、技術の進歩により医療費は自ずと下がるでしょう。
4. 日本は今後40年でGDPが25%以上減少するのか
さらに、テクノロジーが日本のGDPに与える影響について見ていきましょう。高齢社会白書によると日本の人口は、2045年には1億1,000万人を割り、2055年には1億人を下回るそうです。
65歳以上の高齢者比率は、2035年にはほぼ3人に1人、2065年には2.6人に1人になります。これにより、日本は今後40年でGDPが25%以上減少するという分析まであります。
数字だけ聞くと驚くでしょうが、GDPは言うなれば日本全体の給料の総和で、人口減少社会で減ることは自然ですし、年率にすると0.7%程度です。逆に言えば0.7%程度でも、今後40年で25%減になります。
ただこの前提には、大きな欠陥があります。さきほど同様、日本の技術の進展が一切加味されていないのです。40年間、日本にはイノベーションが起きないのでしょうか。年0.7%程度の減少であれば、テクノロジーの活用で十分補える範囲だと筆者は言います。テクノロジーはこれらの未来を解決してくれるかもしれない希望の星となっているのです。
重要なのは、これらの事実を知った上でどう行動するかということです。未来にどのようなことが起こるのか、まず知ることが大切。そしてそれを知った上で、自分はどのように行動するのかということを、私たち一人ひとりがしっかりと考えなければならない時代にあるということです。
本書、成毛眞(なるけ まこと)さんの「2040年の未来予測」には、この記事では紹介しきれない内容がたくさん詰まっています。興味のある方は、ぜひ手にとってみてください!

出典:https://www.sankei.com/
成毛眞(なるけ まこと)
書評サイト「HONZ」代表。
アスキーなどを経て1986年にマイクロソフト株式会社入社。
1991年よりマイクロソフト代表取締役社長。
2000年に退社後、同年5月に投資コンサルティング会社インスパイアを設立。
元早稲田大学ビジネススクール客員教授。