【中野信子】『正義中毒』要約(日本人特有の問題?学校・職場の誹謗中傷の本質を探る!)

日々を豊かに、丁寧に暮らすコツ

できることなら他人に強い以上の怒りや不満、憎しみの感情を持つことなく穏やかに生きたい。

心の底でそう思っている読者にとって、本書がその助けになり少しでも気を楽にして生きていくヒントになれば幸いです。

“正義”という言葉は好きですか?

この記事では、中野信子さんの「漫画でわかる正義中毒 人はなぜ他人を許せないのか」を紹介します。本書は、

  • 自分と考えの異なる人を強い攻撃してしまう
  • 普段から憎しみの感情を感じることが多い
  • 穏やかに生きたい

という方におすすめです。人の脳は攻撃対象を見つけて罰せることに快感を覚えるようにできています。本書では、そうした正義中毒や人を許せなくなる脳の仕組みについて、わかりやすく解説されています。

もちろん、正義中毒が脳に備わっている仕組みである以上、誰しもが陥ってしまう可能性がある。なぜ自分の脳は許せないと思ってしまうのか、一緒に学んでいきましょう!

 

1. 正義中毒の3つの特徴

 

SNSの普及により、個人でも企業でもネットで情報を簡単に発信できるようになりました。一方で、その分気をつけなければいけないのが、正義中毒です。これは、主に3つの特徴があります。

  • 間違ったことが許せない
  • 間違っている人を徹底的に罰しなければならない
  • 私は正しくて相手が間違っているだから、どんな酷い言葉をぶつけても構わない

の3つです。これらの思考パターンがやめられなくなってしまうのが、正義中毒です。この時、思いやりや自制心、共感性といったものは消し飛んでいます。

かなり極端な思考に思えるかもしれませんが、そうなってしまうのには理由があります。

私たちは相手を攻撃することで、脳から快楽物質であるドーパミンが放出されます。そして、その快感から攻撃をやめることができなくなってしまい、次々とターゲットを変えて攻撃をしてしまうのです。これは依存症と同じ。

例えば、アルコール依存症の人は、お店を出禁になってもお酒をやめることができません。再びお酒を求めて他のお店に行こうとします。アルコール依存症がお酒に溺れてしまった中毒者であれば、正義中毒は正義に溺れてしまった状態です。

 

なぜ許せないと思うのか知る

こう聞くと、自分はSNSを正義中毒の人を刺激しないように使っているから大丈夫と考える人もいますが、どんなに冷静に見ていても、正義中毒が脳の仕組みからくるものである以上、誰しもがやる側に回ってしまう可能性があります。

つまり、正義中毒者のターゲットにならないように気をつけるのはもちろん、自分自身が正義中毒にならないよう気をつける必要もあります。相手を許せないと思わずに済む一番の解決方法は、誰とも関わらずに生きていくことかもしれません。

あるいは、自分と考えの合う人としか付き合わないことかもしれませんが、社会生活を営んでいる以上、他人と関わらないことは現実的にかなり厳しいです。

それならば、なぜ自分の脳は許せないと思ってしまうのかを知ることこそが、自分の人生そして社会全体にとって大きなプラスを生むのではないでしょうか?

 

2. ネット時代の正義

 

誰かを許せないと思う感情は、どこにでも存在します。

ただし、社会的な立場や損得勘定忖度が働き、それらがブレーキとなってリアルな人間関係の中では、感情を飲み込むことが望ましい態度とされています。

本音は作り笑顔の裏側に隠している人が大半。特に、自分の意見をはっきり言わない人が多い日本人においては、その傾向が顕著だと言えます。

しかし、SNSが急速に普及し、個人の許せないという感情処理の過程に、いくつかの決定的な変化を生みました。

 

例えば、有名人の不用意な発言やスキャンダルに対して、一般人が積極的に言及する状況が生み出されています。

さらに、一般人でさえも、一度もあったことのない人、今後会う機会すらない人からなじられてしまうように。

それがエスカレートして、複数人から人格攻撃を含むやり取りが飛び交うことも珍しくありません。いわゆる、炎上です。

 

SNSでの人格攻撃は議論か?

また、炎上が起こっているとき、多くのケースは匿名のアカウントが使われます。攻撃者は自らに直接危害が及ぶことがなく、事実上安全であることが多いです。

こうして、人は自分とは違う意見の人を攻撃したり、聞いてもいないのに自説を他人に自信満々に押し付けるようになってきました。

見方によっては、自分の考えや本音を隠すのが、日本人の悪いところであり、正義中毒の人々の方は考えを主張して、悪いところを克服しようとしているのではないか?と捉えられるかもしれません。

 

しかし、日本人が議論だと思ってしていることは大抵、対立する2つの意見を吟味検討して、より良い結論を導くというものではありません。なぜか大概が人格攻撃になってしまいます。

けなし合いと議論は、全く違います。

正義中毒の人々は、相手の主張のいいところを取り入れることがなかなかできません。結局、正義が一つしかないという前提があるために、正義中毒の人々の発言は議論になっていないのです。

 

3. なぜ許せないのか

 

ここからは、なぜ許せないのかについて、本書からポイントを解説していきます。

内集団バイアス

そもそも人の脳は自然に対立するようにできています。自分以外は全員愚か者、自分以外は全員敵、自分以外は全員優秀、自分以外は全て仲間。これらのどの考えも、理論的にはほとんど同じで、単に基準の取り方を変えただけなので、それでいい気分になったり落ち込んだりするのはかなりバカバカしいことです。

当たり前ですが人はそれぞれ違います。他人を愚かあるいは優れていると捉えようとすることは、異なっていて当たり前の他人に対して自らの基準を無理に当てはめているだけです。それで相手が変わるはずもないので、誰かをバカだとか賢いなどと定義しようとすること自体、意味をなさないことです。

人間は誰でも集団を形成している仲間を、その他の人よりもいいと感じる内集団バイアスを持っています。グループ外の人間に対してバカなどとレッテルを張ってしまうのは、強い意志を持って行っているというよりも、ただの方が手抜きをしてバイアスに乗っ取られているような状態。相手にレッテルを貼り一括りにしてしまうことで、余計な思考や時間のリソースを使わず簡単に処理しているということです。

 

フィルターバブルと確証バイアス

自分は特定の集団には所属していないから関係ないと思うかもしれませんが、気がつかないうちにそのシステムの中に自分も入っている可能性があります。

なぜなら、インターネットの世界では広告効率を上げるためにある仕組み(アルゴリズム)が存在し、個々の検索履歴に合わせて関心のありそうな情報や広告を提供する仕組みになっています。

私たちがネットで新しい知識を得たり新しいニュースを知ったと思っていても、実は非常に限定的な世界かもしれません。

自分の信念や願望を裏付ける情報だけを重視し、それに反する情報を経営し排除する現象を、確証バイアスと言います。この確証バイアスを持たないためにも、日頃から限定的な情報だけを重視していないか意識する必要があります。

 

前頭葉の衰え

できることならグループが違うからという理由で排除したりせず、異なる考え方を尊重しお互いを認めあいたいものです。

しかし脳科学的には難しい問題でもあります。

どんな相手にも共感的に振る舞い人間として尊重し認めていくのは、前頭葉の眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)という場所で行われています。

この眼科前頭皮質は、25〜30歳くらいにならないと成熟しません。さらに、しっかり発達させるためには、相応の刺激となる教育が必要になります。

 

一方で、こんなに大事な部分であるのに、寝不足といった理由で簡単に機能が低下してしまいます。

さらに、衰えはとても早いです。いわゆるキレる老人が相手に有無を言わせずキレてしまうのは、前頭葉の背外側前頭前野という領域が衰えているからかもしれません。

一般的には、加齢とともに思考は保守化すると言われていますが、保守化は確証バイアスが働き、さらに思考が硬直化しているために起こります。

老化とともに自らの所属している集団の論理しか受け付けなくなってしまうということです。

 

4. 正義中毒からの解放

 

では、正義中毒から自らを解放するには、どうしたらいいのでしょうか?

ポイントを解説していきます。

前頭前を鍛えるためのトレーニング

  • 自分は〇〇をしていると分かっている。
  • 自分がこういう気持ちでいることを自覚している。

このような、自分自身を客観的に認知する能力のことを、メタ認知と言います。

これは脳の前頭前野の重要な機能の一つ。正義中毒に陥らないようにするためには、「私は今こういう状況だけど、これでいいのだろうか?」と常に自分を客観的に見る習慣をつけ、メタ認知を働かせることが大切です。

メタ認知能力の高い低いには、もちろん遺伝的な要素もありますが、それよりも環境要因が大きく影響します。

個人差はありますが、小学校低学年あたりから徐々に育ち始め、完成するのに30歳くらいまでの間はずっと周囲の影響を受けます。

 

つまり、メタ認知能力は幼少期から30歳くらいまでの時期にどんな人と出会い、どのような影響を受けてきたのかが非常に大切になります。そこからピークを過ぎると萎縮が始まり、加齢によってその働きが衰えていきます。

ただし、これにも個人差があるので、その部分をよく使っている人とそうでない人には、機能に違いが出てきます。

ここでは、日常生活の中で前頭前野を鍛えるためのトレーニングをいくつか紹介します。

 

慣れていることはやめて新しい経験をする

いつもと違う道で通学や通勤をするなど、またいつもの店いつものメニューをやめてみるこういった日常とは異なる行動が前頭前野の活動を促します。

 

あえて不安定過酷な環境に身を置く

不安定な環境では新たな情報の収集や科学的思考、客観的思考が欠かせません。

予期しないことを乗り切るために脳を働かせることで脳を鍛えることができます。

 

安易なカテゴライズ、レッテル貼りに逃げない

何かの事象にあったとき、すぐにレッテルを貼ると脳は余計な労力を使わなくていいので楽ですが、その分だけ前頭前夜を働かせるチャンスを失っています。

 

余裕を大切にする

寝不足や仕事や人間関係の問題で疲れている時などは、前頭前野が働きにくくなります。脳のためには、小さなことでも余裕を作っていくことが大切です。

 

その他にも当たり前ですが、食事や生活習慣の改善は前頭前夜の働きを良くします。特に前頭前野の働きをできるだけキープするためには、オメガ3脂肪酸の積極的な接種が欠かせません。

鮭やマス、青魚の油に多く含まれ、牡蠣などの貝類クルミなどのナッツ類、ごま油や亜麻仁油にも含まれているので、これらの食材を意識して食事に取り入れていくと良いです。さらに十分な睡眠をとるともっと良いです。

寝不足は、一時的なものでも脳にとっていいものではありません。

忙しくてどうしてもまた睡眠時間が確保できなければ、スキマ時間を見つけて昼寝や仮眠を取り、少しでも睡眠時間を稼ぐことがおすすめです。

 

5. まずは一旦受け止める

 

人はそれまで見てきた自分と矛盾しないように振る舞わなければいけないという、根拠のない思い込みに無意識に縛られています。この現象心理学では「一貫性の原理」と呼びます。

しかし人間である以上変化を伴い、過去の言動に矛盾があるのは当たり前。今は絶対的な真実として信じていることも、いつかその間違いに気づく日が来るかもしれません。

信じていたことを裏切られたと感じ、いざこざに発展するこれを回避する一番の方法は、他人に一貫性を求めること自体を止めること

そして正義中毒から解放される最終的な方法としては、あらゆる対立軸から抜け出し、何事も並列で処理することです。

 

人は不完全なもの

異なる人間同士が集まれば、対立軸はいくらでも発生します。

そして、誰しもがその中でいくつものグループに所属することが可能です。

それぞれに視点や知見があり、議論が生じ、それ自体は健全なこと。もしここで正義中毒にかかってしまうと、どちらかが値を上げるまで相手を攻撃し続けることになります。

自分との違いで何かをすぐ拒絶してしまうのではなく、まずは一旦受け止める。

なぜ相手はそう発信したのか、そこから新しい知見が得られないかを考えてみることで、新しいポジティブな何かが得られるかもしれません。

一度その感覚を体験できれば、自分こそが正義だとは考えにくくなります。人は不完全なものであり、結局永遠に完成しないという意識が人間を正義中毒から解放するのではないかと著者は言います。

 

万人によく効く正義中毒の治療法は存在しません。

著者が本書を通して伝えたかったことは、人間が好きで考えることは楽しいということ。それを多くの人が共有できる時が、是意義中毒から解放され他人を許せるようになるタイミングではないかというのが、著者の意見です。

今回紹介した、中野信子さんの「漫画でわかる正義中毒 人はなぜ他人を許せないのか」については、まだまだ紹介できていない部分が多いです。おすすめの本ですので、ぜひ読んでみてください!

 

【総集編】脳科学者が教える、脳を正しく使いこなす方法!中野信子さんの本要約まとめ

group of children pulling brown rope

努力できないのは誰のせい?『努力不要論』要約(中野信子が語る、努力よりも大切なものとは?)

grayscale photo of woman holding i love you to the moon and back

芸能人の不倫が気になるのは脳の衰え?『人は、なぜ他人を許せないのか』要約【中野信子】

selective focus phot of artificial human skull

努力はいらない!? 『あなたの脳のしつけ方』要約(脳科学的に集中する方法)【中野信子】