『13歳からのアート思考』要約【後編】(デュシャン、ポロック、ウォーホル)

pile up of Campbell's tomato soup cans ハッとさせられる考え方・哲学


この記事では、前編中編に引き続き、末永幸歩(すえなが ゆきほ)さんの「13歳からのアート思考」という本を紹介します。

中編では、20世紀のアート史を考察をするための6つの作品のうち、マティス、ピカソ、カンディンスキーの代表3作品を簡潔に解説しました。この後編では、その続きでデュシャン、ポロック、ウォーホルの代表3作品をざくっと解説していきます。

 

1. コンセプシャル・アートの祖!マルセル・デュシャン

泉 (セラミック製男性用小便器 61 x 36 x 48 オリジナルは消失、レプリカ複数あり) 出典:https://muterium.com/

マルセル・デュシャン 出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/

 

具体も抽象も描ききったアートの世界に、いよいよ登場するのがマルセル・デュシャン(1887年 – 1968年)です。彼の1917年発表の作品が、「泉」です。はい、ただの便器です。それにサインが書かれているだけ。ぶっ飛んでますね。

デュシャンはこれを、偽名を使って自身が運営する展覧会に出展します。しかし、この作品は選定委員全員からものすごいバッシングを受けて、展示されることはありませんでした。そこで、デュシャンはこの作品の写真に撮って、展示されなかった作品群としてアート雑誌に載せます。

そこから、こんな表現方法があり得たのか!と話題になります。しかも、展示されなかったことも物議を醸し、これはアートなのか?アートじゃないのか?という大事件になります。

 

これが、今でも続く現代アートの表現技法の1つ、コンセプシャルアート(概念の芸術)のはじまりです。デュシャンは、“アートは美しさを表現する”という固定観念を取り払うために、あえて大抵の人が美しいと思わない便器(既製品=レディメイド)を選び、“これもアートである!”と見立て、アートとは何か?と考える人々の「脳=観念」を芸術として表現したのです。

既製品に美を見出すのは、日用品を茶器と見立てた千利休と通じるものがあります。

 

2. 無意識すら表現してしまう!ジャクソン・ポロック

ナンバー1A(1948 キャンバス・油彩 172.7 × 264.2 Moma(ニューヨーク近代美術館)所蔵) 出典:https://www.musey.net/

ジャクソン・ポロック 出典:http://bummei-harada.jugem.jp/

 

自ら手を加えない表現まで出て、いよいよ煮詰まったと思われるアート界。その間をかいくぐるかのように登場するのが、ジャクソン・ポロック(1912年 – 1956年)です。ポロックの作品は、アート・オークションで過去最高額で落札されたこともある非常に人気の高い作品です。その特徴としては、床にキャンバスを置いて、絵の具を無軌道に散らしまくる“ドリップ・ペインティング”があります。

これまでは、便器にしろ、音楽にしろ抽象的なモチーフで表現してきましたが、その時に“あること”忘れているとポロックは言います。それは、絵画が“キャンパスに絵具が付着したもの”ということです。

 

確かに、鉛筆で描かれたリンゴをみて、「これは、黒鉛です。」と答える人は、万に一人もいませんよね?

“何かを描いても、何も描かない”。これを実行したのが、ポロックです。何か適当に描いても、例えばニョロニョロの線だけ描いても、「これはヘビですか?」という感じに、何かに見えてしまうものです。一方で、絵具で何とも言い難い画面を絶妙に作り出すのが、ポロックのすごさです。意識的に描かないということを突きつけたアーティスト、それがジャクソン・ポロックです。

5分で学ぶ、ジャクソン・ポロック【なぜその絵画の価格は高いのか?】作品の特徴や死因も

 

3. アートに境界線はあるのか? アンディ・ウォーホル

ブリロ・ボックス(1968 木の板 175 x 175 x 175 Moma(ニューヨーク近代美術館)所蔵) 出典:https://media.thisisgallery.com/

アンディ・ウォーホル 出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/

 

ついに、無意識まで作品にしてしまいましたね。もう表現はやり尽くした、そんな中でも人は新たな表現を見つけてしまいます。第二次大戦を挟んで、ポロック以降はアートの中心はパリからニューヨークへと変わります。そこで生まれた大量消費社会、これを作品にしたのが、アンディ・ウォーホル(1928年 – 1987年)です。

まず余談ですが、彼の銀髪はカツラです。

1964年、ウォーホルはブリロ・ボックスという作品を発表します。箱にポップな絵柄。実はこれ、当時のアメリカでは誰もが知る食器洗いパッドの箱です。それを、木の箱で模したものを作品として発表したのです。このほか彼はシルクスクリーンという印刷技法で、マリリン・モンローやスープ缶といった誰もが知るものを大量にプリントし、展示会に出展しました。

 

ここで問題です。以下の4つの中から、アートであるものとアートでないものを選んでください。

  • a モナリザ
  • b ダビデ像
  • c ノートルダム大聖堂
  • d 日清のカップラーメン

 

これらを、アートとアートでないものに分けようとした時に、大半の人はノートルダム大聖堂まではアートに含めますが、カップラーメンは違うんじゃない?という回答をします。a〜cは1点もののアートと言えるが、大量生産で市販されているものをアートとは言えない。そんな先入観を持っている人もいるかもしれません。

しかし、ウォーホルは、洗剤にしろスープ缶にしろ、モノに何かを印刷して、メッセージとして発信されていることそれだけでアートとは言えないのか?と問いかけます。もちろん発表当時は、そんなものがアートなはずないだろ!と酷評されます。

そこから、“アートとアートではないものに、境目はない”というウォーホルの考えは多くの物議を醸し、アートの固定観念を見直すきっかけとなりました。この社会の反応こそが、ウォーホルのやりたかったことなのかもしれません。

5分で学ぶ、アンディ・ウォーホル【シルクスクリーンからファクトリーまで】

 

作者が伝えたいメッセージや価値観は何か?
それに自分なりの解釈や答えを導き出すことが、“アート思考”の入り口です。

アートは金にならないとか、意味ないなどと侮ることなかれ。アートの鑑賞や理解を通して“アート思考”を養うことで、自分なりに“こんなやり方もあるんじゃない?”とか、当たり前だと思っているものに、“絶対じゃないよね?”と言えるようになります。

“アート思考”は生活や仕事における様々な場面で、多面的で柔軟な思考を手に入れることができる素晴らしいものです。さっそく次の週末は、どこかのギャラリーや美術館に出かけてみましょう!この記事を読んで興味を持った方は、ぜひ本書「13歳からのアート思考」も読んでみてください。

 

 

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』要約(意思決定の新たな方法)山口 周

person taking picture of man wearing brown hat painting

アート思考とは?『13歳からのアート思考』要約【前編】(アートとは何なのか?)

 

著者紹介

出典:https://qonversations.net/

末永幸歩(すえなが ゆきほ)
美術教師、東京学芸大学個人研究員、アーティスト。
東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部卒。東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。
東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立ってきた。子ども向けのアートワークショップ「ひろば100」を企画・開催。
著書に『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』。