この記事では、現代社会のいびつな労働環境を、上手く言語化している名著「ブルシット・ジョブーークソどうでもいい仕事の理論」を紹介します。
ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)とは、やりがいを感じない仕事や、ムダで無意味な仕事のこと。職場にひそむ精神的暴力や封建制・労働信仰が、ブルシット・ジョブを蔓延させています。
本書ではブルシット・ジョブの説明のほか、仕事の「価値」の再考、週15時間労働やその先の道筋を示すについて書かれています。今回は、それらについて簡単に解説していきます。
ちなみに、著者のデヴィッド・グレーバーさんは、2020年9月に滞在先のヴェネツィアで急逝されたため、これが遺作となっています。
- みんな自分の仕事がクソどうでもいいと分かっている
- クソどうでもいい仕事は、意義の欠如で人を不幸にする
- クソどうでもいい仕事の増加で得をするのは誰か
- ユニバーサル・ベーシックインカムが、クソどうでもいい仕事から人々を解放する
1. みんな自分の仕事がクソどうでもいいと分かっている
現代社会は、自動化や機械化により、多くの仕事がなくなり、農業や家事に従事する人の数は激減しました。それにも関わらず、経済学者・ケインズがかつて提唱したような、週15時間労働の世界は訪れることなく、それを補うように、管理職・事務職・サービス職に就く人の数は1910年から2000年の間に3倍に。
現在のアメリカの仕事のうち、75%がこれに当たるとされています。これらの仕事は、本当に必要なのか。著者は、ほとんどがクソどうでもいい仕事だと提唱します。
多くの人が、自分の仕事から精神的ダメージを受けている
本書で紹介しているイギリスとオランダでの調査によると、一国の労働人口のうちの37%から40%が自分たちの仕事をブルシット(なんの影響も及ぼしていない)と感じているそうで、その仕事からは体力的のみならず、精神的ダメージも受けています。
2. クソどうでもいい仕事は、意義の欠如で人を不幸にする
ブルシットジョブとは、具体的に何か。分かりやすいものが、顧客に必要のない金融商品を人々に売りつけて、ノルマを達成しようとする営業の仕事です。
例えば、少し前にかんぽ生命が何度も売買を繰り返すことで、元本を棄損させて問題になっていましたよね。セールスマンも “心からそれを勧めたくて、売りつけているわけではない” ことは想像がつきます。
彼らが悪いのではなく、上司や会社の権威の言うことは絶対!といった体育会系の上下関係を生み出している社会構造が問題なのです。
そして、セールスマンを苦しめているのは罪悪感だけでなく、生活費を稼ぐこと以外に意義を見出せない、ブルシットジョブの「意義の欠如」です。
ブルシットジョブ(クソどうでもいい仕事)の5類型
本書では、ブルシットジョブ(クソどうでもいい仕事)を5つに類型しています。
- 取り巻き(flunkies)
誰かを偉そうに見せたり、偉そうな気分にさせたりする存在
例:受付、ドアアテンダント - 脅し屋(goons)
雇用主のために他人を脅したり、欺いたりする存在
例:セールスマン、企業弁護士、広報の専門家 - 尻拭い(duct tapers)
組織の中に存在してはならない欠陥を取り繕う存在
例:荷物が届かない乗客を落ち着かせる航空会社のデスクスタッフ - 書類穴埋め人(box tickers)
組織が実際にやっていないことをやっていると主張する存在
例:社内報ジャーナリスト - タスクマスター(taskmasters)
他人に仕事を割り当てるためだけに存在
例:中間管理職、リーダーシップ専門家
なぜ、これらの意義なき仕事に従事する人が、これほど増えてしまったのでしょうか。
3. クソどうでもいい仕事の増加で得をするのは誰か
クソ仕事が増えて得をするのは、1%の支配者層です。本来の経済原則によれば、無駄は排除すべきですが、ブルシット・ジョブは存在します。なぜでしょうか?
その理由は、一生懸命に長時間働くことが尊いことだというコンセンサス(社会的同意)により、従業員にストライキや政治的闘争を起こさせなくさせるためだと著者は言います。また、プロテスタントの教えのように、長時間労働そのものが人々の心の支えになっているという側面もあります。
労働や努力に対する美徳が、人々をクソ仕事から開放させない
日本はどうかと言うと、学指導要領によって、愚直に直向きに努力することは尊いという努力信仰の価値観が形成されていますよね。本来、週15時間労働で済む時代が来ているにも関わらず、週40〜80時間までかさ増しして労働することで、人としての尊厳を保とうとしてしまっているのです。
効率化は管理職の仕事を奪う
労働の美徳化の具体例として、あるシステムエンジニアが、企業のシステムエラーを修正するソフトウェアを開発した話があります。
彼はそれを社長・取締役にプレゼンしたところ、反応がよくなかったそうです。なぜかというと、プログラムが効率的すぎて、取締役など多くの人々の仕事を奪ってしまうものだったから。
こんな理由で、なかなか “効率的 = すぐ導入” にならない現実があります。ならばどうしたら、ブルシット・ジョブを効率的に無くせるのでしょうか。
4. ユニバーサル・ベーシックインカムが、クソどうでもいい仕事から人々を解放する
解決策として本書では、ユニバーサル・ベーシックインカムが、従業員と雇用主の主従関係を逆転させると提言しています。これは、基本的な生活費を賄える資金をすべての成人に配布するという考えです。
本書の場合、このインカム(収入)は、“機械やAIの自動化によって利益を得る、企業に課せられる税金” によってまかなわれる想定をしています。
結果、人々は “経済的な不安で、クソどうでもいい仕事をやめられない” という現実から解放され、個人はより意義の感じられることに時間を使えるように。それは芸術活動でもいいですし、ボランティア活動でもOKです。
ベーシックインカムは人を堕落させない
「ベーシックインカムを導入したら、みんな堕落するのでは?」と思う方もいますよね。しかし、本来もう少し堕落しても良い時代が来ているにも関わらず、より多く働いている現代社会をみれば、“何か活動を続ける人が多く残る” ことは容易に想像ができますよね。
実際、ベーシックインカムを試験的に導入している都市もいくつかあり、それなりの結果が出てきています。もしこんな世界が訪れたら、雇用主は資本を持っていても、労働者に働いてもらえるだけの意義を説かなければ働いてもらえなくなります。
この時、「魅力はないが、必要な仕事(看護師などのエッセンシャルワーク)」はどうなるかというと、人を集められるところまで賃金が上がるようです。
お金のための労働から、自己実現のための貢献へ
ベーシックインカムの導入により、仕事に対する価値観は、お金のための労働から、自己実現のための貢献へと変化していきます。
本書、デヴィッド・グレーバーさんの「ブルシット・ジョブーークソどうでもいい仕事の理論」は、私たちが日々仕事に悶々と感じていることを言い当ててくれる一方、努力主義的な社会システムからなかなか抜け出せないことを気づかせてくれます。
ベーシックインカムの導入を待つのもよいですが、稼ぎ口を複数探すなど、個人的なベーシックインカムを模索するのもよいのではないでしょうか。