消費することこそが、私たちの生きる動機のすべてとなってしまった。この世界で、衝動的に何かを過剰摂取してしまうことを、どうやったらやめられるのか。その事前方法を本書で提供できればと願っている。
この記事では、アンナ・レンブケさんの書籍「ドーパミン中毒」を紹介します。本書は、
- 食べ物、ゲーム、動画サイトなどにハマりすぎてしまっている
- 依存症のメカニズム治療法について知りたい
という方におすすめです。
現代は、かつてないほどモノが溢れています。依存症というと薬物アルコールがパッと思いつくでしょうが、現代の依存症の原因はそれだけではないです。
ゲーム、SNS、動画サイトなど薬物のように私たちにドーパミンを運んでくるものを現代におけるドラッグだと著者は言います。この依存症の時代に、私たちはどう向き合っていけば良いのでしょうか?
依存からの脱却には、セルフ・バインディングが有効で、徹底的な正直さが人をガラリと変えると著者は言います。
一体どういうことなのか、さっそく中身を見ていきましょう!
1. 3つのセルフ・バインディング戦略
依存症から脱却する方法は、いくつかありますが、有効な方法の一つに「セルフ・バインディング(自分を縛る)」というものがあります。
これは、衝動的な過剰摂取をしないで済むように、自ら進んで自分とハマっているものとの間に壁を作る方法です。
自分を縛れるかどうかは、意志の問題ではありません。効果的にセルフ・バインディングを行う秘訣は、まず強力な“衝動”の魔法にかかっている時は、自発性などが失われるものだと、意思の限界を率直に認めることです。
だからこそ、自ら選択する能力が残っている間に実行する必要があります。
一度衝動を感じてしまうと、快楽を求めよう、苦痛を避けようとする反射的な力に逆らうことはほとんど不可能になります。欲望の発作の中では、選択はできないです。
タバコの税金、アルコールの年齢制限、コカイン処方を禁止する法律など、外的にルールや処罰を定めるは大切ですが、それらへのアクセスは事実上無制限。そこで行うセルフ・バインディングの戦略は、大きく3つに分けられます。
物理的、時系列、ジャンルの3つ戦略です。
物理的なセルフ・バインディング戦略
まずは、物理的なセルフ・バインディング戦略について。
本書では、ギリシャ神話の例がわかりやすいので紹介されています。
ホメロスのオデュッセイヤで、オデュッセウスがトロイア戦争に勝利し、帰国する旅の途中で出会った最初の危機が、上半身が女性で下半身が鳥の姿をしたセイレーンでした。
セイレーンはその歌声で船乗りたちを魅惑し、近くの島の岸壁に誘い込み、彼らを死に至らしめます。船乗りが無傷でセイレーンをやり過ごすには、彼女たちの歌を聞かないことしかありません。
オデュッセウスは船員たちに耳に蜜蝋を詰め、彼自身を帆船のマストに縛り付けるように命じました。そした、もしも解いてくれと頼んだら、あるいは抜け出そうとしたら、さらにきつく縛るようにと付け加えました。
この有名なギリシャ神話が示すように、セルフ・バインディングの1つの方法は、自分自身とハマっているものとの間に物理的に障壁を作り、近づけなくすることです。
著者の患者の例としては、
- テレビのケーブルを抜いて、クローゼットに仕舞った
- ゲームのコントローラーをゴミ箱行きにした
- クレジットカードは使わなず現金だけにした
- 事前にホテルに電話をしてテレビを撤去してくれるように頼む
といったようなものがあります。
物理的に遠ざけるのは、一工夫すれば誰でも可能です。自覚があるうちにやってみましょう。
2. 時系列的なセルフ・バインディング戦略
次は、時系列的なセルフ・バインディング戦略についてです。
これは、時間制限とゴールを設けるもの。欲望の対象を摂取するタイミングを決まった時間だけに制限することによって、摂取する時間の幅を狭め使用量を減らす方法です。
例えば、自分にこんな風に言い聞かせます。
休日だけは使っていい、週末だけは使っていい、木曜よりも前はダメだ、17時前はダメだ…など、時間そのものではなく、節目や成果をもとにセルフ・バインディングを行います。
誕生日まで、仕事が終わったら、資格を取得したら…
また、時計の針が決めた時間を過ぎれば、あるいは自分が決めたゴールに達したら、自分の好みのものが報酬としてやってくるように制限をかけます。
摂取できる時間、幅を狭くする
神経科学者のアハメドとジョージ・キューブは、1日に6時間コカインに無制限に摂取できるようになったラットは、徐々にレバーを押す回数が増えていき、体が疲れきるまで、レバーを押し続けるようになると発表しています。
長時間アクセスできる条件下では、コカイン以外にもメタンフェタミン、ニコチン、ヘロイン、アルコールでも自己投薬が増えていくことが観察されています。
そして、1日に1時間しかコカインにアクセスできないラットは、一定量のコカインをずっと使用し続けます。何日経とうとより多くのコカインを得ようとする振る舞いを見せないのでした。
この研究は、ドラッグを摂取できる時間、幅を狭くすることによって私たちも使用量を抑えることができるかもしれない。無制限アクセスにしなければ、衝動的な接種、行動がエスカレートさせずに済むかもしれないことを示唆しています。
3. ジャンル的なセルフ・バインディング戦略
最後のジャンル別のセルフ・バインディング戦略は、ドーパミンを種類ごとに分けることによって、摂取量を制限するもの。こういうタイプのものは使っていい、こういうタイプのものはダメと区別します。
この方法では、ハマっている対象そのものを避けられるだけでなく、そのものを欲するきっかけも避けることができます。
この戦略は、例えば食べ物、セックス、スマートフォンのような、私たちが完全には生活から排除できないようなもの、健康的に摂取しようと思っているものに対しては特に有効です。
ジャンル全体から離れる
著者の患者の一人であるミッチさんは、スポーツ賭博の依存症でした。
40歳になる頃までに、ギャンブルで100万ドルを失っていましたが、GAギャンブラーズアノニマスという自助グループに参加することで、回復することができました。
彼はGAでの関わりの中で避けなければならないのは、スポーツ賭博だけではなく、テレビでスポーツを見ること、新聞でスポーツ欄を読むこと、インターネットでスポーツ関連の検索をすること、スポーツラジオを聴くことすべてだと学びます。
彼は自分のエリアにあるカジノのすべてに電話をかけ、自分を出禁リストに入れてくれるように頼みました。
自分がハマっているものだけにとどまらず、関連するものや行動を避けることで、ジャンル全体で自分を縛り、スポーツ賭博を再発するリスクを減らすことができたのです。
4. 人は自然に嘘をつく
主な宗教や倫理規範では、大抵その道徳的容赦の中で、正直になることを不可欠としています。
依存症から回復した状態を、長く保てている著者の患者たちも、みな真実を語ることで、精神と身体の健康を維持してきたそうです。
そして、著者自身も徹底的に正直になることが、衝動的な過剰摂取を抑えるのに役立つだけでなく、人生をより良く生きるための核心だと確信するようになったそうです。
私たち人間は、人生の最初期から嘘をつくようにデザインされており、それを認められるかどうかは別として、みんな嘘をつくもの。子供は2歳くらいで嘘をつき始めます。
その子が賢ければ賢いほど嘘をつきやすく、上手に嘘をつきます。そして3歳〜14歳の間で、嘘は減っていく傾向があります。
他方、大人になると、物事の計画力・記憶力が高くなるために、子供よりも洗練された、社会に害をなす嘘をつくことになります。平均的な成人は、毎日0.59回~1.56回の嘘をつくそうです。
嘘も方便
進化生物学者は、人間の言語の発達が、嘘をつく優れた能力をもたらしたと考えています。
ホモサピエンスの進化は、大きな社会的グループを形成して頂点に達しました。洗練されたコミュニケーション方法が発達したからこそ、この高度な協力が可能となり、大きな社会的グループが形成できました。
協力するために使われていた言葉は人を欺き、誤った方向に導くためにも使われるようになっていたのです。
言語が高度になればなるほど嘘も洗練されていき、少ない資源を競う際には嘘は適応的で有利なところがありました。
5. 正直さの効果
著者の患者の一人にマリアさんという方がいました。
マリアさんは、AAアルコホーリスクアノニマスに参加していました。これは、飲酒問題を解決したいと願う人たちの自助グループです。
彼女はこの会の世話人達と問題に取り組んでいくことで回復し、その後で著者のところにやってきて教えてくれたことの一つが、真実を語ることが回復の基礎であるということでした。
小さな頃、マリアさんはその反対のことを学んでいました。彼女の母親はよくお酒を飲んだそうです。倒れるまで飲んだり、マリアさんが同情しているのに酔っ払って運転したりすることがありました。
弟や妹たちの面倒を見るのは、まだ小さなマリアさんの役目でしたが、外の世界に対しては家庭がうまくいっているように見せかけていました。そして、20代半ばにマリアさん自身もアルコール依存症になってしまったそうです。
正直さと依存の関係
ある日、仕事から帰ってくると弟のマリオが注文していたAmazonの小包が届いていました。マリアさんは自分に届いたものではなかったのに、それを開けることにしました。
以前開けてしまった時に怒られたこともありましたが、“弟の名前と自分の名前を見間違えた”という前に使った言い訳を使えばいいと思ってしまったのです。
数時間後、マリオさんが帰ってきてすぐに開けただろうと、マリアさんを攻めました。しかし、マリアさんは開けてないよと嘘をつきました。
もう一度聞かれても、もう一度嘘をつきました。
マリアさんはその夜はほとんど眠れなかったそうです。そして次の日の朝、弟に「マリオ、私があの小包を開けた。あなたのだってわかっていてやった。それから開けていないように偽装した。それから嘘をついた。ごめんね。許して」と告白しました。
このエピソードは、一見アルコール依存とは関係なさそうですが、著者はマリアさんに対して、「あなたが回復するために、なぜ正直になることがそんなにも必要だったのか話してくれますか」と聞きました。
するとマリアさんは、「お酒を飲んでいた時は、真実を認めることができませんでした。当時の私は、あらゆることに嘘つき、決して自分がしたことに責任を取らなかった。本当にたくさん嘘をついて、その半分は意味すらなしていなかったと思います。」と言いました。
徹底的な正直さ、特に自分の悪癖が現れ、深刻な結果を伴う時にこそ真実を言うことは、依存症から回復だけではなく、この報酬のあふれる生態系の中で不可欠のものかもしれません。
私たちは嘘に無自覚
実際、嘘をつく習慣は容易に陥ってしまうものです。
私たちはみんな定期的に嘘をつくことに励んでいるのに、そのほとんどに気づいていません。日々の嘘はあまりにも小さく知覚しにくいので、真実を言っていると自分で錯覚してしまうのです。
また、徹底的な正直さは、
- 自分の声についての自覚を促す
- 親密な人間関係を育む
- 正直な自分の物語ができる
といった効果があります。今現在の自分にだけでなく、未来の自分にも説明責任が果たせるようになります。
著者は「真実を語ることは伝染するため、将来の自分や別の誰かが依存症を発症するのを防ぐことにもなり得る」と言います。
今回紹介した、アンナ・レンブケさんの書籍「ドーパミン中毒」についてまだまだ紹介できていない部分が多いです。おすすめの本ですので、ぜひ読んでみてください!