画像引用:https://breakzenya.art/
鮮やかなスライムをドバッと被った、すごくリアルでどこか恍惚な表情を浮かべる人物画。この作品の作者は、友沢こたお。2021年10月時点で東京藝術大学の絵画科油画専攻に通う大学生です。
そんな彼女の作品は、その独特な表現と面白い人物背景から飛ぶ鳥を落とす勢いで人気を高めています。この記事では、こたおさんの生い立ちや、なぜこのような作品スタイルになったのかを紹介していきます!
1. サブカルにどっぷりハマった美少女
友沢こたおさんは1999年フランス・ボルドー生まれの日仏ハーフ。2021年10月時点で22歳の大学四年生です。幼少期をフランスパリで過ごし、漫画家・イラストレーターの母の影響もあり、自然と絵を描くことを親しんでいたこともあり、高校では日本の芸術を専門とする学校に進学しています。
その頃から独特の作風で異彩を放っていたようで、「エクトプラズム博士」という、長靴から幽霊らしきものが出ているシュールな作品を残しています。
画材は乾くことのない油絵具でしか描けないとのことで、過去のインタビューで、
高校生の時からずっと油絵具です。
アクリル絵具は乾くのが早いので、「なんで私を待ってくれないの?」と発狂しそうになります(笑)。
それに、アクリル絵具は乾いたら全然違う色になるんですよね。
私は色へのこだわりが強いので、混ぜている間に乾かず、色が変わらない油絵具の方が性分にあっているんです。
2021年02月26日 FASHIONSNAP インタビューより
と語っています。また、アーティストとしての活動のほかに、高校〜大学1年生の頃までは、アイドルグループ「あヴぁんだんど」に参加しており、“小鳥こたお”という芸名で活動していました。
その頃は可愛らしい見た目とは裏腹に、大のプロレスオタクでお気に入りの選手は、デスマッチのカリスマ、FREEDOMSの葛西純選手。血だらけになった選手の顔を愛でていた当時のこたおさんを想うと、スライムで覆われた顔に繋がるものを感じさせられます。
2. ぶっ飛び具合はお父さん譲り?スライム誕生
ここで、こたおって本名なの?という疑問がありますよね。こたおは本名で、タイの南部に「コ・タオ」という島からとったそうです。こたおさんが生まれる前にこの島を訪れたご両親が、島の美しさに感動し、お父さんが「この島のような子が生まれるといいね、名前をこたおにしよう!」と言って決まったそう。お父さん、クセ強めですよね。
昔から何を描いても自然とヌメヌメしてしまうのがコンプレックスという彼女。冒頭のようなスライムを描くようになったのは、東京藝術大学に入ってからだそうです。大学入学後に絵があまり描けなくなり、自分の所在がない感じの日々に追い詰められたときに、気づいたら自らスライムを被っていたそうです。
なかなか、ぶっ飛んだ誕生背景ですが、こたおさんの心の中は、基本的に壊したいという欲求があるそうです。一方で、”綺麗”や”かわいい”といったものを、ただぐちゃぐちゃに壊すのも違う。
自分の肉体をすべてスライムで覆うことで想起される、理性の超えた生物としての自分に帰りたいという思いや神秘的な世界。こたおさんにとって、まさにベストなモチーフがスライムだったのです。
その時感じるヌメヌメ、冷んやり、息苦しいといった感覚を、丸ごと作品に刻み込む。刻々と形を変えるスライムと、そこにいる変わらない自分の2つが交わった一瞬にこそ感じられる、彼女にとっての本質がそこにはあります。
3. ありのままの自分の表現と色へのこだわり
こたおさんは現在、東京・天王洲にある寺田倉庫というスペースにアトリエを借りています。朝と夜も関係なく3週間続けて描くこともあるそうで、その時間が何よりも幸せを感じるそう。
作品のモデルはこたおさん自身であることがほとんどで、実際に起きていることしか描いていません。また、本人以外で度々登場する赤ちゃん人形は「ルキちゃん」と言う名前で、我が子のように可愛がっているようです。
また、被るスライムは自家製。薬品の配合を変えるだけで全然違う質感になるそうで、こんにゃくなどの異なる素材も用いながら、様々な粘度のスライムを作っているようです。
絵を描き始めたら完成までは早いそうですが、時間がかかるのは、こだわりの唯一無二の色をつくるための調合。チューブから出したままの色を愛せないそうで、調合に1〜2時間は余裕でかかるとのこと。
それだけ時間をかけて作った色は、描いたときに油絵具と身体が一体となった感覚があり、スライムの絵を描き上げた時は、ありのままの自分がドバーっと表現できた爽快感があるそうです。こたおさんは、自身の作品について、
私の絵は難しく考えないでほしいですね。
これを伝えたいんだよ!と、ピンポイントに絞ったものは特になく、そこに滲み出た何かが真理だし、それを見てみんながそれぞれ受け取ったことが真実。
ブレイク前夜 インタビューより
と過去のインタビューで語っています。
4. 多忙な個人活動のみならず、親子でも活動
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今や人気アーティストの仲間入りをしたこたおさん。それでも個展の1ヶ月前くらいからは、緊張と不安で毎日吐きそうになるそうです。
「購入してもらえる」というのはとてもありがたいと思っているんですが、「作品に値段が付く」とか「売れること」を意識しすぎてしまうと作品を描く手が止まってしまうので、制作する際はあまり考えないようにしています。
もっとサバサバ描けたらいいんですけどね。やっぱり展示会の前日は緊張してなかなか眠れないです。
2021年02月26日 FASHIONSNAP インタビューより
また2019年には、お母さんの友沢ミミヨさんと親子アートユニットとして「とろろ園」結成しています。とろろ園では、作品の原案はミミヨさん、その下絵にこたおさんが色を付けています。
こたおさんは子どもの頃から母が描く世界観が大好きだったそうですが、ミミヨさんは「私、美術の勉強してきてないから」と言って全然絵を描いてくれないそう。そこで、こたおさんが作品の仕上げを担当する提案し、親子アートユニットの誕生に至ったそうです。
「FOAM CONTEMPORARY」のこけら落とし
銀座 蔦屋書店に新たなアートスペースとしてオープンした「FOAM CONTEMPORARY」のこけら落としとして、個展「Monochrome」が2022年7⽉3⽇〜26⽇に開催されました。
この個展はタイトルどおりモノクロ作品のみ。光沢をただキラッと綺麗に描くのではなく、光沢のヌルヌルが動く感じや、左右の目の焦点がうまく合わずに飛び出てくるように見えたときのドキッとする感覚を“原始の五感”とこたおさんは呼んでいます。
普段から色へのこだわりが強いこたおさんだからこそ、黒という色に限定することで、さまざまな“黒”の表現に挑戦しました。
また、初の作品集の発売を記念して、渋谷PARCOでの個展開催も決定しています。
「Kotao Tomozawa Solo Exhibition SPIRALE」
2022年9月16日(金)〜 10月3日(月) 11:00-20:00
PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F) 入場料:一般 500円
友沢こたおさんは、幼少期からの興味深い生い立ちと、個性的なモチーフが多くの人を魅了しています。スライムの質感や透け感、かけ方などで、まだまだ表現に可能性がありそうですし、今後の作品の方向性にも期待されます。人気に合わせて作品の市場価格も上昇していくことでしょう。
私自身、こたおさんの作品を1つ所持していますが、作品の資産性よりは手元に置きたいということを大切にしているので、価格の高騰・下落には一喜一憂せずに長く所有したいと思っています。今後も作品発表が楽しみな作家です。