人生が運ゲーの一種なのは間違いない。とはいえ、特定のスキルさえ身に付ければ、ゲームを有利に進めることは不可能ではないのです。
ーー鈴木祐
あなたは運がいい方ですか?
この記事では、大人気サイエンスライターである鈴木祐さんの書籍「運の方程式」を紹介します。本書は、運を良くして人生で成功をつかみたいという方におすすめです。
近年の研究では、成功は大半が能力よりも、運で決まると言われています。それなら、頑張っても無駄だと思うかもしれませんが、運はスキルを伸ばすことによって、掴みやすくなることが分かってきています。本書は、まさにその方法について解説されています。
それでは、さっそく中身をみてきましょう!
<鈴木祐さんの書籍はこちらでまとめて紹介しています>
1. 幸運=(行動×多様+察知)×回復
まずは、幸運の方程式について、本書から2つのポイント、
- 成功率1%を99%に上げるには?
- イノベーションを起こす人ほど観察に時間を費やす
に焦点を当てて解説します。
成功率1%を99%に上げるには?
本書で示されている“運の方程式”は、
幸運=(行動×多様+察知)×回復
です。本書はこれを基に、それぞれの要素、行動・多様・察知・回復を高めるためにできることを紹介しています。
ここでの行動とは、人生の中で実行した具体的なアクションの量と質を意味します。人生の幸運は、思考回数で決まります。いい運をつかもうと思ったら、人生におけるチャレンジの回数を増やすしかない。
物事の成果は「試行回数×成功率」で決まるので、納得できますよね。ただし、いくら思考回数が大事だと言っても、むやみにチャレンジを増やしてもあまり意味がありません。
例えば、年末ジャンボ宝くじで1等が出る確率は、2000万分の1。試行回数を増やせば当たると信じて買い続けたところで、まず大儲けは期待できません。シンプルな思考回数が人生の成功に結びつきにくい事実は、カイザースラウテルン工科大学などの研究でも確認されています。
プロになるには幼い頃から1つに絞るべきか
これは世界15カ国から集めた6000人以上のアスリートを対象に行われたメタ分析で、スポーツの世界で成功するには、小さな頃から一つの競技に特化すべきか?というテーマを調べたものです。トップレベルのアスリートは、果たして幼少期から特定のスポーツに取り組んできたのでしょうか?
幼い頃から特定の種目にコミットし続けたアスリートは少なくありません。
- 2歳からゴルフを始め、8歳でジュニア世界選手権を制覇したタイガーウッズ
- 3歳9ヶ月から卓球のラケットを握り続けた福原愛
- 4歳からフィギュアスケート1本で技術を磨いた羽生結弦
トッププレイヤーの存在は、特定の種目で試行回数を重ねることの重要性を表しているように見えます。しかし、分析の結果は違いました。実際には、世界レベルのアスリートであるほど、10代のうちに複数のスポーツに時間を使い、一つの種目に狙いを定める時期が遅かったのです。
逆に子供の頃から特定の種目に絞った選手は、ジュニアレベルでは成功を収めやすかったものの、成人後にはトップになれない傾向が見られました。幼い頃からの英才教育は、どうやら長期的な成功に結びつきにくいようです。トップアスリートであるほど、複数の種目を経験していた理由は大きく3つあります。
- 複数の種目を体験することで、メンタルが燃え尽きにくくなる
- いろいろな種目を試せるおかげで、自分の才能を見極めやすくなる
- 多彩な経験を積むことで複数のスキルが身につく
の3つです。一つのスポーツに打ち込めば、練習時間を長く取れるものの、その分だけ気分の切り替えが難しくなります。同時に、自分の才能が他でも通じるのかどうか検証できません。さらには、ライバルが新たな戦術や攻撃を編み出してきた際に、うまく対応できなくなってしまいます。
一方で、複数の種目を経験しておけば、自分の才能に適した競技を選びやすくなりますし、いろいろなスキルが身につくおかげで、予期せぬ変化への対応力も上がり、練習のバリエーションが増えたことによって、燃え尽き症候群も防ぐことができます。
競技によって違いはありますが、子供時代に様々なスポーツを経験した方が良いのは間違いないでしょうここまで説明してきたことが、運の方程式における2つ目の要素である多様です。変化の激しい現代において、多彩な体験の役に立つのは当然の話。
私たちは一つのことに打ち込む人を持ち上げがちですが、試行回数の作用を十分に活かすには同じことを繰り返すのではなく、ご存知のバリエーションも増やす必要があります。
2. イノベーションを起こす人は観察に時間を費やす
行動の量を予期せぬ幸運に変えるためには、方程式の3つ目の要素、「察知」が必要になります。これは身の回りで起きる小さな変化に気づく能力のことで、試行回数によって呼び込んだ、良い偶然を開花させる働きがあります。
その大事さを理解できる、ブリガムヤング大学のジェフリー・ダイヤーらの研究があります。研究チームは、過去に斬新なプロジェクトを開発した経営者や発明家たち約3500名にインタビューを行い、全員の仕事ぶりをチェックしました。
その研究わかったことは、イノベーションを起こす人ほど観察に時間を費やすこと。優れたイノベーターたちは、いずれも身の回りに起きる小さな変化を察知し、それによって前例のない発明を生み出してきたのです。
例えば、イントゥイット社の会長スコット・クックは、妻の日常に細かく意識を向け続け家計簿を記入する際には、いつも機嫌が悪くなるという事実を察知しました。この気づきをもとに、家計簿ソフトを作ったところ、初年度に財務ソフト市場の5割を占める大ヒット商品となりました。
Twitterは社内向けツールだった
より近年のケースとしては、オデオ社という小さなIT企業が、社内だけで動作する短文のメッセージ交換ツールを作った事例も有名です。このツールは、技術者が遊びで作ったものでしたが、やがて会社の上層部は社内における使用率が異様に高いことに気づきます。驚いた上層部は、ツールを新型のSNSとしてリリースすることに。これが、みなさんご存知、Twitterです。
もしオデオ社が社内で変なツールが流行っているとしか思わなかったら、Twitterは世に出なかったかもしれません。たまたま従業員が作ったツールの影響力を察知できたからこそ、斬新なSNSを世に出すことができたのです。
データによると、優れたイノベーターはそうでない人よりも、観察に1.5倍の時間をかけていました。斬新な発明を生む人ほど身の回りの偶然に注意深く目を向け、そこで得た発見を幸運に変えられます。
失敗を前提条件として受け入れ回復力を養う
そして行動・多様・察知という3つの要素をした上で、最後にもう一つ欠かせないのが回復のスキルです。
これは文字通り、失敗から立ち直る能力のことで、挫折の痛みから速やかに抜け出し再び新たなチャレンジを挑めるメンタリティを意味します。一つや二つの失敗でめげていたら、幸運の大前提である行動量と多様性を増やすことができません。
行動が増えなければ、良い偶然が舞い込むこともなく、察知力を活かすチャンスも失われてしまいます。言うまでもなく、人生に失敗は付きもの。死ぬまでに一度も挫折を経験しない人は、生涯で何もしなかった人だけです。ならば、失敗を前提条件として受け入れ回復力を養うしかないことがわかると思います。
3. 行動・多様を高める方法
幸運の方程式が理解できたところで、ここからは「行動」と「多様」を高める方法に絞って、本書から2つのポイント、
- 行動の鍵は好奇心
- 成功者は薄くて広い人間関係を持つ
を具体的に解説していきます。
行動の鍵は好奇心
行動に関しては、好奇心を身につけることが必要です。ただし、好奇心がない、または弱い場合はどうするのか。実は好奇心とはスキルであり、意図的に身につけることが可能だと著者は言います。好奇心を得るための最大のポイントは、「うまくいくまで、うまくいっているフリをせよ」です。
これは、もし何者かに生まれ変わりたいと思うなら、その人物の思考と行動を真似ることで、やがて思い描いた通りの人間になれる。そんな大衆知を端的に表した、英語圏で定番のフレーズです。
仕事ができる人間になりたければ、パフォーマンスが高い人の働きぶりを真似し、スポーツが上手くなりたければ、その競技が得意な人のフォームを真似るように、目指す人物の思考と行動を模倣してみた経験は、誰でも一度はあると思います。何の手がかりもなく事故の改善を図るよりは、明確なロールモデルがいた方が格段に成功に近づきやすいです。
好奇心は後から身に付く
またこのフレーズは、好奇心を身につけるときにも有効です。南メソジスト大学の心理学者、ネイサン・ハドソンらは、こんな実験をしています。実験チームは、複数の大学に通う大学生を400人以上集め、「それぞれに自分の性格で、変えたいところを考えてください」と指示しました。
その上で研究チームが事前に作っておいたアクションリストの中から、好きなものを選んで、週に1つから4つずつこなすように命じます。このアクションリストには参加者が行うべき具体的な活動が記されており、個人の要望に沿ったミッションが与えられます。
例えば、社交的な性格になりたい人には、昔の友人に連絡する初対面の人に挨拶するなどのミッション。陽気な性格を目指す人には、友人に心配事を相談する不安になったら深呼吸するなどのミッションを実行せねばなりません。要するに、全ての参加者に対して、各自が望む性格をすでに手に入れたかのように振る舞わせたのです。
そして4ヶ月後、ミッションを着実にこなした参加者ほど、性格テストの結果が変わり、実際に本人が望んだキャラクターに変わっていたという結果が得られました。この結果について、研究チームは「自分が目指す行動を積極的に実行できれば、性格特性は変えられる」とコメントしています。
つまり、人生の探索スキルを身につけるための好奇心を養うには、好奇心を備えた人物のふりをし続ければOKということです。行動を何度も繰り返すことで、少しずつ脳に新たな神経パターンが刷り込まれ、やがて自身の内側に異なるパーソナリティが根付きます。簡単に言えば、好奇心はインストールできるということです。
好奇心をインストールするための行動リスト
また、私たちの中に好奇心をインストールする際、先の実験と同じように特定の行動を繰り返すのがベストなのか、南メソジスト大学のチームが開発した具体的なアクションリストの一部を紹介します。
リストの使い方は簡単で、以下のリストの中から好きなチャレンジを選び週に1~4つずつのペースで実践しましょう。最初は何の変化も感じられないかもしれませんが、日々のチャレンジを積むうちに、自分の中には確実に好奇心の芽が育ちます。リストは以下ようなものです。
- 海外のニュース記事を読む
- 最新の科学的知見や技術に関するニュース記事を読む
- 今まで見たことがない新しい映画を見る
- 今まで見たことがない新しいドラマを1話見る
- 新しいポッドキャストに登録して最初のエピソードを聞く
- 人生の目標や価値観について5分間考えてみる
- 好きなレストランに行き、今まで食べたことがない新しい料理を試す
- 行ったことがない博物館や美術館を訪れる
- 自分とは異なる政治信条に関するニュース記事を読む
- もしタイムトラベルができたらどこに行って何をするか5分間考えてみる
ぜひこれらの中からいくつか試して、自分の中の好奇心の芽を育ててみてください。
4. 成功者は薄くて広い人間関係を持つ
次は、多様についてです。先ほどの行動のリストのように、好奇心を向けるべき対象はいくつも存在します。新しい趣味や仕事、新しい住居やアイディア、全てを並べ出したらキリがありませんが、ここで最も重要なのは新しい人です。
運をつかむために人間関係が欠かせないことは直感的にわかりますが、旧友から思わぬ情報が手に入ったり、飲み会の出会いが新たな仕事に結びついたりと、予期せぬ幸運の大半は、他者からもたらされます。
つまり、運には社会的ネットワークが大切です。そう言われても、新しい人との出会いがない、自分には狭い交流しかない、コミュニケーションが下手などど落胆する人もいるかもしれません。人間関係が重要だと言われて、そう簡単に改善できるなら苦労はありませんよね。
幅広い付き合いの大事さは分かっていても、つい馴染みの仲間とばかり時間を過ごしてしまうケースは多いでしょうが、気落ちする必要はありません。なぜなら、社会的ネットの幅を広げる能力も、トレーニングで伸ばせるスキルだからです。
社会性を高めるアクションリスト
具体的にはここでも、「うまくいくまで、うまくいっているふりをせよ」の精神が役に立ちます。私たちの脳は同じ行為の繰り返しによって神経パターンを刷新し、生まれ持った性格をある程度までなら変えることができるからです。
社会的ネットワークにおいても、その考え方は同じで、現時点で幅広い人間関係がないなら、コミュ力が高い人の行動を真似すればいいのです。内向的な人が完全な社交家に生まれ変わるのはさすがに不可能ですが、社会的ネットワークが広い人の思考と行動をシミュレートし続ければ、脳は確実に変化していきます。
こちらも、本書で紹介されている具体的な社会性のアクションリストから一部を紹介します。行動のリストと同じように、実際に試してみましょう。
- 寝る前に日中に経験したポジティブなコミュニケーションを振り返り、その中で何が良かったかを考える
- 自分が喜びを感じる物事を全てリストアップしてみる
- よく行くお店のレジの人に挨拶する
- キャンパスや家の近くにいる初対面の人に笑顔で手を振ってみる
- 初対面の人に挨拶をしてみる
- イベント紹介サービスに行き、行ってみたいイベントを1つか2つ探してみる
- お仕事は何をしていますかのようなよく聞かれる質問に対して、簡単な回答をいくつか事前に考えておく
- 誰かのSNSの投稿に肯定的なコメントをする
- よく行くお店のレジ係にその日の調子を聞いてみる
- 初対面の人に挨拶し共通の環境についてコメントする
やや欧米寄りな内容ですが、ぜひこれらの社会性アクションリストから、自分が興味あるもの、できるものから試してみてはいかがでしょうか。
今回紹介した鈴木祐さんの書籍「運の方程式」については、紹介しきれていない部分が多いです。おすすめの本なので、運に興味のある方はぜひ読んでみてください!