この記事は、橘玲(たちばなあきら)さんの書籍「もっと言ってはいけない」の紹介・後編です。前編では、才能や身体的特徴だけでなく精神的な部分も遺伝による影響が大きいことを解説しました。
遺伝的に直すことが難しいことも、後天的に努力で何とかなるという“環境決定論”的な考えが多い日本。今後、単純労働と言われるものがどんどん自動化されていく中でも、人が無意識に行なっている単純化できない部分もあるという話まで進めてきました。
後編では、その無意識の例からみていきましょう!
1. 人には「暗黙知」という機能がある
人間が無意識に行なっていることの具体例として、以下の実験があります。
テーブルの上にカードの山が4つ置かれ、参加者は何の情報も与えられずにそこから順番にカードを引いていく。AとBのカードの束は、ゲームを続けていれば全体として大儲けするか大損するかのいずれかに。CとDのカードの束は儲けも損も小さいが、続ければ確実に儲けられるという設定になっていたとします。
この実験結果は驚くべきことに、ほとんどの参加者は4つの束すべてを引いているうちにCとDの束からカードを引いて、Aと Bの束を避けるようになったのです。“なぜ自分がそのような選択をしたのか”を、説明することができないにも関わらず。
そこで、被験者の皮膚電動反応(指先などのわずかな発汗)を調べたところ、参加者がAとBの束からカードを引こうか迷っている時に、皮膚電動反応に顕著な増加が見られたのです。これは緊張や恐怖の合図が、何らかの方法で脳から指先に「この選択は間違っている!」という信号が送られたことを示しています。意識がトランプの魂の違いに気づく前に、無意識はAとBの束が危険であるということを、直感によって知らせていたのです。
私たちは生きのびるために、進化の過程でこのような直感を獲得しました。この無意識の知能を「暗黙知」と呼びます。昔ながらの家内工業的ものづくりにおいても、多数の労働者が複雑な連携作業を行う中で、この意識できない職人の暗黙知的なものが重要な役割を果たしていたはずです。
2. 単純労働者はどこにいくのか?
知識社会が高度化するにつれて職人の知恵はマニュアル化され、アルゴリズムに置き換えられていきます。マニュアルさえできれば、労働者はそれに従って作業すればいいだけで、人件費の安い新興国に工場を作った方が利益は大きくになります。さらにプログラム化が可能な仕事は、そもそも人間を使う必要がなくなり、機械に24時間365日にやらせればよくなります。
今後、今まで暗黙知に頼っていた仕事が機械化されることによって、直感に頼っていた職人の仕事がなくなっていきます。AIなどのテクノロジーの急速な発展によって労働者に要求される知能のハードルは上がり続けており、字が読めない、パソコンが使えないといった人たちに仕事がなくなることは避けられません。
私たちが今生きている日本の超高齢化社会において、知識社会に適用した人は成人人口のおよそ13%しかいないことが調査により明らかになっています。残りの87%は程度の差はあれど、適用に何らかの困難を生じていることになります。大半の労働者は、知的作業が要求するスキルを満たしていない。これが、私たちの生きている世界の事実です。
ではこの悲しい現実に私たちはどのように対処していけばいいのでしょうか?
実は、解決策がまだ見つかっていません。世界中の国が格差をなくす努力や政策を試みていますが、格差は広がり続けています。
3. ラテン系の人たちは、なぜ明るいのか?
ここからは、日本人は“ひ弱なラン”という話をします。私たち日本人は、アフリカ系やヨーロッパ系の人々と比べて、不安感が強いイメージがありませんか?
アフリカ系やヨーロッパ系の人って、何か底抜けに明るい感じがしますよね。なぜこのような違いがあるかというと、セロトニン運搬遺伝子に違いがあるからです。
この運搬遺伝子はセロトニンの量を決める遺伝子で、LL型とSL型、SS型の3種類があります。そしてLL型が最もセロトニンの量が多く、SL型が次に多く、SS型は一番少ないということがわかっています。
セロトニンの量が多ければ多いほど楽観的になり、少なければ不安感が大きくになります。そして日本人はSS型が65.3%、SL型が30.7%、LL型はわずか4%しかいないです。SS型というのは一番セロトニンの量が少ない、そしてセロトニンの量が少なければ不安感が大きくなります。これが日本人はアフリカ系やヨーロッパ系と比べて、不安感が大きいと言われる理由です。
そして日本人の大半が持っているSS型のセロトニンの遺伝子は不安感を強めるというよりも、ポジティブな刺激に対してもネガティブな刺激に対しても強い感受性を持つ遺伝子だということが最近分かってきました。要するに日本人は敏感で、ヨーロッパやアフリカ系の人たちは鈍感であると言われております。
4. 日本人はひ弱な蘭
現在の進化論では、セロトニン運搬遺伝子の違いを蘭(ラン)とたんぽぽの比喩で説明しています。アフリカ系ヨーロッパ系の人々はたんぽぽで、日本人は蘭です。タンポポはストレスのある環境でもたくましく育ちますが、その花は小さく、目立ちません。一方で蘭は、ストレスを加えられるとすぐに枯れてしまうものの、最適な環境下では大輪の花を咲かせます。
つまり、日本人は特定の環境下では大きな幸福感を得ることができるが、それ以外の環境ではあっさりと枯れてしまうメンタルということです。このことから、私たち日本人がとるべき行動が分かります。それは、不要なストレスを避ける場所に移ることです。
合わない上司やブラックな環境にいると、日本人は敏感だからすぐに枯れてしまいます。私たちはひ弱なラン何だということを認識して、辛すぎる環境を我慢してうつ病や自殺するといったことになる前に、自分が花を咲かせられる場所に移るのが得策です。
以上、橘玲さんの「もっと言ってはいけない」を簡単に解説してきました。今回も、世間的にはタブーな話や発見がありましたね。より詳しく内容を知りたい方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。