ノーマ(noma)という北欧・デンマークにあるレストランを知っていますか?
食材や手法の研究を通した新たなイノベーションにより、「世界のベストレストラン50」で4度も世界一に輝いたことで有名なレストランです。ノーマの料理は北欧の自然から得られる食材で作られていますが、彼らが人々を魅了する理由はそれだけではありません。
この記事では、食事の総合演出で世の中を常に驚かせる、ノーマの魅力をお届けしていきます!
1. レネ・レゼピという開拓者
ノーマ(noma)はデンマーク語の「nordisk(北欧の)」と「mad(料理)」の造語を名前にもつ、日本から遥か遠くおよそ8,700kmも離れたデンマークの首都コペンハーゲンのレストランです。オーナーシェフであるレネ・レゼピ(René Redzepi)氏によって2003年に開店しました。
冒頭で書いたように輝かしい経歴のあるレストランですが、初めから全て順調だったということもなく、北欧の自然から得られる食材で作られた料理を提供していることから、一部からは“アザラシ野郎”と揶揄されたり、過去には多くのノロウイルスの感染者を出してしまったりしたこともあったそうです。
季節を感じられる料理
それでもブレずに、4度も世界一のレストランに輝いたのは、自分たちの提供する料理に信念を持って取り組み続けるレネ・レゼピ氏の人間力があってのことでしょう。レネ氏はマケドニアからの移民で、その生い立ちのせいで人種差別を受けていたことから、北欧生まれの人以上に北欧について深く考える北欧人になったそうです。
しかし、ただ北欧の素材にこだわればいいと言うことではないとレネ氏は言います。北欧に限定すること自体は無意味で、なぜ北欧の素材を選ぶのかは、いまどこにいて、どの季節か感じられる料理を提供したいという想いからからきています。
人がその料理をおいしいと感じるのは、その料理と強い結びつきを感じる、その時期にしか味わえないご馳走だからだ。
北欧の食材じゃないとダメだと制限したいわけではない、大切なのは食材と向き合うことだ。
ーー レネ・レゼピ
自然をそのまま伝える
ノーマでは山や海からシェフたちが食材を直接採って来たり、選び抜かれた生産者と直接やり取りする中で生まれる、自由な発想とアイデアによって、新たな料理を生み出しています。国籍も年齢も実力も異なる彼らが共に協力し合い、高め合い、夢中になって料理に打ち込める環境があるのです。一見シンプルで奇抜な料理も、素材1つ1つに強い味わいと個性があり、自然の濃さをダイレクトに味わえるそうです。
なお、ノーマのこれまでの輝かしい経歴については、もし三ッ星レストランになれれば嬉しいけれど、それがないといけない訳ではないとレネ氏は言います。名声が要らないわけではないが、優先順位は納得のいく食体験の提供で名声はその手段でしかないということが伺えますね。
これらのノーマの歩みについては、ドキュメンタリー映画「ノーマ、世界を変える料理」でより詳しく観ることができます。
2. ノーマと日本の密接な関係
ノーマは2015年に東京・日本橋に期間限定の「ノーマ・アット・マンダリン・オリエンタル・東京」を開いています。
この開催には並々ならぬ意気込みがあったらしく、開店のために7回に渡り来日し、北海道から沖縄まで、日本各地へ食材探しに奔走。日本でも本店同様に、その土地の食材を使用した料理を作るというコンセプトを貫き、スタッフ77人とコペンハーゲンの本店を休業して挑んだそうです。
こちらもドキュメンタリー映画「ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た」として過去に公開されています。
日本のノーマ
また、このポップアップ店から3年の時を経て、東京・飯田橋にはINUA(イヌア)というノーマのDNAを引き継いだ常設のレストランが2018年にオープンしています。ふらっと行けるようなお店ではないですが、いつか行きたいものです。
日本といえば麹、みそ、醤油といった発酵食品が伝統的にある国ですが、日本での経験も踏まえた発酵のレシピを書籍にした「ノーマの発酵ガイド」という本があります。発酵の仕組みから丁寧に解説された充実した内容となっているので、興味のある方は手にとってみてください。
3. ノーマの今後の展開
2020年の5月、コロナ対応措置により休業していたノーマは、オープンエアなワインバー兼テイクアウトの新しい営業モデルでお店を再開しました。
ロックダウン生活で自分自身いちばん何がしたいか考えたとき、レストランでのファイン・ダイニングは、特に欲していないなと思いました。
気軽に出かけて、友人たちと再会して、ワインバーで1杯飲む。そしてまた別のバーへ行く。自分自身がそういう気分なので、これまでのノーマとしていま再開するのは違うなと思いました。
ーーレネ・レゼピ
コロナの休業前は、世界各地の美食家たちが半年前から予約し、コペンハーゲンまでわざわざ足を運び、ようやく料理を楽しむことができるとても特別なレストランでしたが、再開後は手軽にノーマを楽しんでもらうため、予約制をやめ、テイクアウトも可能に。
ノーマがオーガニックや地産地消といった食に関する新しいライフスタイルを広めたように、このワインバーも、地元の人々やコミュニティを最優先するという、新しい食と空間の楽しみ方を提示しています。
食体験を通した新たな価値観
ノーマは前例のない、食べたことのない体験を作り出すことをとても大事にしています。
例えば、高級レストランにテーブルクロスがないことがありえなかった時代に、テーブルクロスを使わないスタイルを取り入れ時は、抵抗感を露わにするお客もいたそうですが、今ではそのスタイルは北欧に浸透しています。
今後も私たちに食体験を通して、新たな価値観や世界観を魅せてくれることでしょう。