“時間が存在しない”と言われたら信じますか?
この記事では、「時間は存在しない」という衝撃的なタイトルが話題の本を紹介します。著者のカルロ・ロヴェッリさんは、理論物理学者として量子重力理論の研究に取り組む一方、一般向けにも多くの著作を持つ人気作家。
本書は、イタリアで18万部を超えたベストセラーで、原題は「L’ordine del tempo (時間の順序)」。その名のとおり、時間の順序について掘り下げた内容になっています。
“物理学的には、過去も未来も区別がない”という内容とその解説に、驚かされること間違いありません。この記事を読むことで、時間の捉え方について新たな視点を得ることができます。
ぜひ最後まで、ご覧ください!
1. 時間の流れは場所によって違う
まずは、前提となる事実を確認しましょう。
時間の流れは山では速く、低地では遅く進みます。
…この事実に驚きですよね。その差はほんのわずかで、正確な時計を使えば実際に測って確認をすることができます。この事実は、私たちが日々感じている感覚からはかけ離れていますよね。
しかし、現実が思っていることと違うことは、よくあること。地球が平らに見えて実際には丸かったり、太陽は空を回っているように見えて回っているのは私たちの方だったりと、時間も見かけとは違ってどこでも同じように流れているわけではないのです。
ちなみにアインシュタインは、時間差を測定できるくらい精度の高い時計ができる100年も前から、時間の流れは均一ではないという事実に気づきました。
2. 時間に過去や未来の区別はない
次に驚くべき事実としては、時間には方向がありません。過去と未来を区別するものは、物理法則のどこにも存在しないのです。有名なニュートン力学の世界(万有引力)でも、過去と未来を区別することはできません。
例えば、ボールは落ちることができるだけでなく、跳ね返ることによって戻ってくることもできますよね。方程式に従ってある出来事が起こるのであれば、同じ出来事でも時間をさかのぼって逆に進めることもできます。
人は老いを感じるので、時間に方向があると信じがちですが、それは老いるようにプログラムされているからで、老いのない世界や若返りの技術が実現したら、それらは過去にさかのぼったと言えるでしょうか?
そう考えると、時間に方向がないことも想像しやすいかもしれません。
時間の方向に意味を持たせるもの
ただしそんな中でも唯一、時間の方向に意味を持たせるものがあります。
“熱”です。
熱は温かいものから冷たいものに一方向にしか移らず、逆に冷たいものから温かいものに移ることはありません。これを別の言葉で表現をすると、
「エントロピーは常に増大していく。」
と言います。難しい言葉が出ましたが、規則がある状態から不規則な状態へと進んでいくという法則のことです。この法則は、時間の方向を定めるために、利用できそうな気がします。
例えば、コーヒーに牛乳を混ぜて、コーヒー牛乳にできても、それをまたコーヒーと牛乳に戻すことはほぼ不可能です。これを、低エントロピーから高エントロピーに増大したと言います。
規則的に思えることは、本当に規則的か?
しかし、ある状態に規則があるかどうかは、そう見えているだけで厳密に定義できるものではなく、結局人間の思い込みや勝手な判断によるものでしかありません。
…ちょっと何言ってるのか分からないと思うので、1つ例を挙げます。
例えば、52枚のトランプを無作為に選んだ時に1~26枚目まで全て黒で、その後の26枚がすべて赤だったら、 そのカードの並び方には規則があるように見えますよね。
ところが、見た人がたまたま色に注目をしたからそう見えただけで、他の要素を見ると数字やマークはバラバラであり、その並び方は不規則だとも言えます。
そう考えると、物理的に時間の方向を定めることはできないし、一見そう見えるだけという結論にたどり着くのです。
3. 量子力学における3つの発見
著者のカルロ・ロヴェッリさんの専門は、量子重力と呼ばれる分野です。この学問は、量子力学の視点から、空間や時間の性質を研究しています。
その量子力学は、今日までに次の3つの発見をもたらしました。
- 物事は粒状である(粒状性)
- 物事は不確定である(不確定性)
- 物事は他との関係に依存する(関係性)
粒状性を分かりやすく例えると、時計は “15時46分36秒” というように特定の値を示しますよね?これは時間を連続的なものではなく、粒状のものとして扱っています。
量子というのはもともと基本的な最小の粒のことで、あらゆる現象に最小の規模が存在します。
最少の時間は「プランク時間」と呼ばれており、1秒の1億分の1の10億分の1の10億分の1の10億分の1。つまり10の−44乗秒という長さになります。…途方もなく小さな単位と思ってください。
要するに、この世界はごく微細な粒からできており、連続的ではないということ。
神はこの世界を連続的な線では描かず、スーラの絵のように無数の点描として描いたのです。
4. 世界は出来事の集まり
量子力学から分かった単純な事実は、この世界は絶えず変化している出来事のネットワークであるということ。つまり世の中はものではなく、出来事の集まりということです。
いかにも“物質”らしいものでも、長く続く出来事であるに過ぎません。
例えば、固い石でも最小単位で見れば、量子場の複雑な振動でしかなく、複数の力の相互作用の結果、石としてまとまった塊として存在しています。
しかし長い時間でみれば、崩れて再び砂に戻るまでのごく短い姿でしかありません。
物理学では長年、この世界を何か実体があるものとして理解しようとしてきましたが、調べれば調べるほど、そこに「在る」という観点では理解できないように思えてきています。
出来事どうしの関係として捉えた方が、遥かに理解しやすい構造になっているのです。
ここまでを踏まえると、過ぎ去った過去も、これからの未来も、人がそう感じているだけで、そこに常にあるのは関係性だけだというや達観した結論になります。
以上、カルロ・ロヴェッリさんの「時間は存在しない」 の内容について解説をしました。世界は物ではなく出来事の集まりであるという説明は、なかなかシビれますね。
この本は物理学者が専門的なことを語っているにもかかわらず、数式がまったく登場しません。
詩や哲学からの引用が多く、全く理系の知識がない読者に対してもわかりやすくなっています。興味のある方は、ぜひ実際に読んでみてください!