本書には私が実践している読む力のノウハウが全て書き尽くされている全てを会得すれば、みなさんも必ず“知の王者”になれると確信している。
ーー佐々木俊尚
この記事では、佐々木俊尚さんの書籍「現代病「集中できない」を知力に変える読む力 最新スキル大全」を取り上げます。
本書は、
- 読み方のスキルを身に付けたい
- 現代だからこそできるスキルを知りたい
という方におすすめです。現代は集中することが難しい時代と言われます。例えば、本を読もうとしても、すぐにスマホが気になってしまい、全然集中できないというのはよくある話。
著者は本書の中で、集中力が続かないことを前提とした新しい本の読み方、アウトプットのやり方を示してくれています。
それではさっそく中身をみていきましょう!
1. 現代の知的生産に必須の前提
まずは、現代の知的生産に必須の前提について、本書から3つのポイントを解説します。
- アウトライン、視点、全体像の流れ
- 読むことの大きな目的は多様な視点を獲得すること
- 読むことで得た知識視点を血肉にするのが最終目的
アウトライン、視点、全体像の流れ
世界や日本では、今この瞬間にも様々な出来事が起き、ネットや新聞、テレビから流れてきます。私たちは、目にするニュースになんとなく流されてしまいますが、本当にそのニュースを理解できているでしょうか?
どんな出来事でもすぐに全様を理解するのは難しいもの。それができるのは、その分野の専門家だけだと言っていいでしょう。
しかし、ニュースを読み解く流れを知っておけば、それに合わせてニュースを読んでいくだけで、全体像が理解できるようになります。
ある出来事について、一つのニュース記事を読んだだけでは、その出来事を理解することはできません。ある出来事の全体像は、完成したジグソーパズルのようなものです。
とはいえ、本物のジグソパズルのように、何百ピースもあって、完成させるのに何週間、何ヶ月もかかるわけではありません。
ピースの数はせいぜい数枚、多くても10枚くらいです。大事なことは、たった1本記事を読んだだけで、全てわかったと満足しないことです。
1本の記事を読んでもまだ断片でしかないと、自分に言い聞かせましょう。いくつもの視点を知ることで、全体像が見えてきます。全体像を知るための流れは、次のとおりです。
❶ まずニュースアプリなどのメディアで、ニュースのアウトラインを得る
5W1Hという言葉を知っているかと思います。誰が・いつ・どこで・何を・なぜ・どのように。この6つの疑問をまとめたものです。
ニュースアプリのようなメディアで5W1Hはだいたい分かります。この5W1Hこそがアウトラインです。
❷ ブログ専門誌などでの専門家の知見で、いくつかの視点を用意する
アウトラインだけでは、そのニュースが起きた背景事情や構図までは分かりません。この背景事情や構図はただ一つに定まらないことも多いものです。
いくつかの視点からそのニュースを見ることによって、だんだん分かってきます。そのため、視点はいくつも用意する必要があり、それを教えてくれるのがブログや専門誌などです。
❸ いくつもの視点を知ることで、ニュースの全体像をつかむ
いくつもの視点を知ることによって、ようやくニュースの全体像が見えてきます。
1本の記事を読んだだけでは、一つの点に過ぎなかったニュースが、いくつもの視点から見ることで立体のように見えてきます。
これこそが、本物の全体像です。アウトライン、視点、全体像という流れを作ることを忘れないようにしましょう。
2. 読むことの大きな目的は、多様な視点を獲得すること
読むことの大きな目的の一つは、たくさんの視点を獲得することです。何か出来事があった時に、一つのニュースや記事だけで知った気になるのが一番危ういと著者は言います。
本当の”知る”ということは、その出来事についてたくさんの視点を獲得し、全方位から見ることです。
一つの視点だけが正解だという単純な出来事は、この複雑な社会には存在しません。
一つの視点を学び、なんとなく知った気になっていても、別の視点で学び直すと、そうだったのか!と新鮮な驚きがあり、さらに深みが増します。
視点を増やせば増やすほど、新しい視点を獲得すればするほど、視野は広く深くなります。
また、現実社会では、算数の問題を解くような正解はほとんど期待できません。
私たちにできることは、正解はない、様々な見方があるという原理原則をきちんと押さえておくことが必要です。
起きている出来事や事態について、こんな見方もある、こんな考え方もあるという複数の視点の存在を確認し、それらを守ることで、ようやく全体像が見えるようになります。
ニュースは大きなゾウのようなもの
ニュースは大きなゾウ。
大きすぎて、小さな人間には全体がどうなっているのかなかなか理解しにくいです。視界の下の方では、象の足は沼だらけなものにしか見えませんが、実際のゾウはもっと偉大な存在です。
一方で、高台のような高い視点から見ても、ゾウの背中だけを見ているに過ぎません。
ゾウを俯瞰してみるためには、前足や後ろ足など様々な視点で見て、皮膚の感触を手で触れて確かめ、ゾウの体の全体を学ぶ必要がなります。
それでもまだ、全体像は漠然としか認識できていない可能性もあります。ある視点で見たところで「自分はゾウの全体像をまだ知らない」という謙虚な姿勢を持ち続けることが、とても大切です。
3. 読むことで得た知識・視点を“知肉”にするのが最終目的
様々なものを読むことの最終的な目標は、血肉ならぬ“知肉”を育てることだと著者は言います。
読むことから様々な知識や視点を獲得すれば、そこから物事を立体的に把握し認識できるようになり、さらにそこから一歩踏み込んでいくことができます。集めた様々な情報や視点から、様々な概念を学んでいくのです。
ここからは、ゾウ(ある出来事、ニュース)の全体像を、掴む流れを押さえていきましょう。
ゾウの足や鼻、皮膚をバラバラに見ているだけでは分かりませんが、様々な部分を横断的にたくさん見ることで、だんだんと全体像が見えてきます。
それぞれバラバラな情報でしかなかったものが、自分の頭の中でまとまっていくと、ゾウ全体の姿が、ひとまとまりとなって理解できてきます。それが、ゾウという動物の概念です。
ゾウからサバンナの世界観を知る
概念とは、簡単に言えば、様々な情報や視点を順にまとめて、一つの物語や全体像にしたもの。
この概念を掴んでいく作業を日々行うと、自分の脳の中に様々な概念が溜まっていきます。たくさんの概念がたまっていくと、今度は世界観を頭の中でスケッチできるようになります。
では、世界観とは、どのようなものでしょうか?
またゾウの例で説明すると、ゾウはアフリカのサバンナに住んでいて、そこにはたくさんの動物がいます。
さらに色々な情報を集めていくと、生えている植物や丘や川、草原土地の形状も分かってきます。
そうして様々な知識や視点を獲得すれば、ゾウの概念だけでなく、ライオンの概念、シマウマの概念も理解できるようになります。
さらに深めると、ゾウやライオンやシマウマが住んでいるアフリカのサバンナという草原が、どんな場所なのかという概念、サバンナのある熱帯がどんな気候なのかという概念も理解できるようになります。
概念をたくさん組み合わせることで、サバンナがどんな世界なのかがだんだんと分かっていき、サバンナをイメージして画用紙にスケッチできるようになるのです。このスケッチが、サバンナの世界観です。
世界観を学んだら、それを自分の仕事に活かしたり、生きる指針にしたり、自分の行動原理にしたり、人生の目標にしたり、色々なことへ還元していきましょう。
そうすることで、せっかく学んだ世界観を、自分の心と頭の中にしっかりと定着させられます。
血肉という言葉は文字通り、血液と肉という意味。自分の体を形作っている血肉と同じように、世界観を学んだら自分の血肉にしていく。
これこそが、読むことの最終的な目標です。
現代において、読書をするときには、常にこれを意識して、知識ロードマップを思い描きながら読み進めましょう!
4. 名著・難解の本を読むコツ
ここからは、名著・難解の本を読むコツついて、本書から以下の3つのポイントを解説します。
- ネットで記事書評レビューを読む
- 入門書・解説書を読む
- 漫画版や映画版を探す
ネットで記事書評レビューを読む
本書には、様々なメディアの活用法やジャンルごとの本の読み方が紹介されていますが、この記事では、名著・難解の本を読むコツを、ロシア文学の名作「罪と罰」を読むことを例に紹介します。
まずは、読み始める前に、Googleで情報を検索し概要を押さえていきましょう。
Wikipediaには、ドストエフスキーも罪と罰もどちらの項目も掲載されています。まずWikipediaの罪と罰の項目を読み、ドストエフスキーがなぜこの小説を書いたのかという背景事情を学びます。
罪と罰は貧しい大学生ラスコーリ・ニコフが、金貸しで強欲なおばあさんを殺害する物語です。
なぜラスコーリ・ニコフが殺人に至ったのか簡単に紹介すると、それが世のためになる善行だとを信じたからでした。
殺人は法的にも倫理的にも許されませんが、彼は選ばれた人間が社会のために行うことであれば、社会や道徳を踏み外す権利を持っているという、ゆがんだエリート意識のようなものを持っていました。
ところが、おばあさんを殺しに行ったラスコール・二コフは強欲とは関係のない、彼女の妹まで一緒に殺害してしまいます。
これに彼は苦悩し、さらに自己犠牲的なソーニャが登場し、彼女の生き方に心打たれ、最後には自首してシベリアの監獄へと送られます。
Wikipediaには、この本のコンセプトが短く書かれています。
惨憺たる生活を送る娼婦ソーニャの家族のために尽くす徹底された自己犠牲の生き方に心を打たれ、最後には自首する人間回復への強烈な願望を訴えた、ヒューマニズムが描かれた小説である。
こうした背景知識が、Google検索したり、Wikipediaを呼んだりするだけで分かります。
Amazonレビューも参考になる
Google検索だけでなく、書籍の場合にはAmazonの商品ページにあるカスタマーレビューも参考になります。
Wikipediaの中には項目によっては、専門家が執筆している難解なものがあるので、Amazonレビューも見ておくのがおすすめです。
正しいレビューの中には、荒らしやステマもあるので、トップレビューと表示されているものを参考にするのがいいでしょう。
ベスト50、100レビューといった優れたレビューのも読むのもよいです。
また、本を購入せず読みもしないでレビューを書く人を避けるため、レビューにAmazonで購入と表示されているかどうかもチェックしましょう。
5. 入門書・解説書を読む、漫画版や映画版を探す
入門書・解説書を読む
ここまでで背景知識を得たら、さらに入門書も探してみましょう。Amazonで検索してみると、色々な入門書が見つかります。
本の説明や読者レビューを見ながら、なるべく分かりやすく書かれていそうなものを探します。
例えば、「罪と罰」についても、Amazonで検索すると色々な入門書が見つかりますが、NHKの「100分で名著シリーズ」があれば特におすすめだそうです。
薄くてコンパクトで、とっつきやすいそのため、分厚い本を読むのに怯んだ人も気軽に手に取れます。
また、書籍版ではなくテレビ番組版をNHKオンデマンドなどで見るのも手です。
テレビ番組ではタレントの伊集院光さんがしていて、伊集院さんのコメントや感想が面白い上に、大変鋭く頭に入ってきやすい番組になっています。
漫画版や映画版を探す
誰もが知っているような名著だと、漫画版が出ていたり、映画化されていることもあります。漫画好きの人なら漫画の方がストーリーがスッと頭に入ってきやすいでしょう。
登場人物も映画や漫画の方が見分けがしやすく、キャラクターが立っているので頭を整理しやすいというメリットもあります。
映像や漫画になっているものは、小説だけとは限りません。
例えば、トマ・ピケティというフランスの経済学者が書いた「21世紀の資本」という学術書は、世界で300万部以上も売れて、今世紀最大のベストセラーとまで呼ばれている名著ですが、日本語訳は700ページ以上もある超のつく分厚さで内容もかなり難しくなっています。
この本を読み通せる人はそう多くはないでしょうが、映画化されています。著者本人が登場して解説していたり、古い映画の映像を使ったりと、分かりやすい内容で若干足らずにまとめられています。
Amazonプライムビデオなどでも配信されていて、これを見るだけでも21世紀の資本の内容はだいたい理解できます。
「罪と罰」も何度となく映画化されていますが、著者がおすすめは漫画版。特に岩下宏美さんの「罪と罰 漫画学術文庫」講談社がすすめられています。
原作に忠実の内容で、しかも1冊で完結しているので、手軽に罪と罰の世界を理解できます。
ここまで、名著を読みこなすコツを説明してきました。最後に名著を読むことの本当の目標を、改めて解説しておきます。
例えば、罪と罰を最後まで読み通したという事実があったとしても、それは単なる記録的なものへの憧れ、自己満足でしかありません。
大事な目標は、罪と罰を素材に世界を学ぶことです。
罪と罰を読み、ドストエフスキーという偉大な文豪の視点を我がものにすることで、文豪が世界をどう認識していたのかを学ぶことができます。
それによって、私たちは世界のアウトラインを文豪の世界観を通して見ることができるのです。名著はそのための素材。私たちの血肉にならないのであれば、それは単なる文字の集まりに過ぎません。
すべて目を通して読破しても、単なる記録に過ぎないです。
また、自分にとって血肉となる本は、世に知られている名著であるとは限りません。
忘れ去られた絶版の本であっても、初版部数の少ない自費出版の無名本であっても、入門書であっても、ガイドブックであっても、それらが血肉となって私たちの世界のアウトラインを学ぶ手助けになるのであれば、十分です。
今回紹介した、佐々木俊尚さんの書籍「現代病「集中できない」を知力に変える読む力 最新スキル大全」についてまだまだ紹介できていない部分が多いです。おすすめの本なので、ぜひ読んでみてください!