資本主義はオワコンか?【山口周×波頭亮】文化・アートをRethink!GDPの成長って必要?

時代を生き抜く考え方・哲学

 

“いまの私の仕事は、価値を生み出しているのか” と考えたことはありますか?

「給料もらってるし、生み出してるでしょ?」と単純に思いたいですよね。

その一方で、この仕事に意味あるのかと、モヤモヤを抱えている人も多いのではないでしょうか。この記事は、そんな “日々の仕事の価値を見直す” という点で、すごく参考になった番組の紹介です。

 

それが、Newspicksという経済メディアのオリジナルコンテンツ、Rethink Japan。第2回「文化・アート」が、神回でした。

経営コンサルタントの波頭亮さんが、「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか」の著者・山口周さんをゲストに迎え、文化・アートの側面から日本の未来を見つめ直す内容となっています。

発言を議事録的に要約していくので、これを読めば番組のエッセンスをサクッと知ることができます!

<山口周さんの書籍はこちらでまとめて紹介しています>

 

1. 先進国の経済は飽和状態

group of people walking on the stairs

 

まずは “経済” という大きなテーマについて、山口さん、波頭さん、両名の考えを箇条書きでまとめていきます。

 

  • 日本は、戦後に経済的にアメリカに追い付こうとする、キャッチアップ式の政策を進めてきた。1970年代いっぱいくらいは、高度経済成長が人々の生活の豊かさに寄与していたが、先進国ではある一定の需要の飽和状態が起こっている
  • 経済学者のトマ・ピケティ21世紀の資本の著者)は先進国では経済成長が1%くらいに落ち着くだろうと言っているが、今の日本は1%の成長すらおぼつかない状態。IMF(国際通貨基金)はコロナ後は以前の経済成長に戻ると言うが、コロナ以前から世界の先進国の経済成長はほとんどしていない。
  • 現代は資本主義と民主主義が社会を回す2つの方法論だが、これらはたかだか200~300年の歴史しかない仕組み。しかし、この2つの主義から生まれた市場経済は、いかに豊かに暮らすための手段であるはずなのに、今ではいかにも専制君主的に絶対的に扱われている。

    3人の主婦が掃除・洗濯・料理を分業して市場に取り込むことで、GDPは上がるが、それによって子供の近くに居れずに働くことが、果たして豊かと言えるのか。

  • 多くの事が、GDPを極大化するために上手に経済システムに取り込まれてきたが、資本主義と民主主義が賞味期限切れになってきている。これからは、安全に生きられる世の中から、生きるにたる世の中にする必要がある。どんな世の中にしたいかという議論がされていない。

 

こう言われると、今の経済システムのいびつさが垣間見えてきますよね。では飽和した経済の中では、私たちはどんな世の中にしていくのが良いのでしょうか。

 

2. GDPは破壊によってもたらされる


soldier walking on wooden pathway surrounded with barbwire selective focus photography

 

衝撃的な題目ですが、どうもそうらしいです。山口さんは以下のように提言します。

 

5分で学ぶ『ブルシット・ジョブ』要約(クソ仕事を辞めるべき本当の理由)

  • では、GDPを増やすにはどうすればいいか。それは簡単で、戦争を起こすこと。
  • GDPを計り始めたのは1950年代であるが、当時は戦争敗戦国のイタリア・ドイツ・日本が上位3位を占めていた。破壊によってGDP成長率は5〜7%ほどに簡単に上がってしまう。東日本大震災後の福島県の県内のGDPは、軒並み上がった。
  • しかし、戦争、自然破壊を意図的に起こすことはインモラルなことで、モラル的に破壊を生み出すために生まれたのが消費その消費を促す仕組みのことを、マーケティングと言う。
  • 消費はゆっくりとした破壊。破壊・環境・文化を考えた時に、経済成長を追い求めることに欺瞞が生まれているにも関わらず、みんな目を伏せている状態。

 

GDPが破壊を前提として成長していると知ると、当たり前のように行っている消費活動が、本当に必要なのかと考えさせられますね。

 

3. 教育と偏差値について

boy writing on printer paper near girl

 

私たちが日々当たり前と思っていることは、いつから当たり前となったのでしょうか。社会をつくるための根幹とも言える “教育” についての発言に触れておきたいと思います。

 

  • 今の世の中は偏差値で測られて、良い悪いが判断されている。
  • 明治時代の頃は、泣けなしの外貨で留学してきた大先生が、1年に40人くらいしか教えられず、その希少資源を分配するために、ポテンシャルのある人を選んで教えるということに価値があった。 

    しかし、今は動画に残したりして、誰でも大先生の恩恵に預かれる世の中であるのに、入試という選別する仕組みだけが残っている状態。

  • 今の世の中は、GDPにどれだけ寄与できるかということを押し付けられていて、偏差値の高い大学を卒業することがオプション・フリー(安定性・生涯年収)に繋がっている
  • 子どもたちは友情が大事と口では言いつつ、最後は偏差値で決まるということを知っているため、いい大学に入るかどうかが大事で、それまで他に何をしても建前になってしまうこと気付いている。これからはこうした経済合理性以外で、人生の組み立て方が必要。

 

当たり前のように受けてきた教育も、市場経済の成長を前提に進められてきたことが見えてきましたね。

もしかしたら、私たちはそのことを分かっていながらも、どんどん社会システムに巻き込まれていくうちに、どこかで疑問に思うことを辞めてしまっているのかもしれません。

 

4. 炭素を排出しない価値の創造

white smoke coming out from building

 

前述のように、経済成長は破壊を前提としていると紹介しました。では、破壊に頼らない価値の創出は不可能なのでしょうか?

ここでは、それを可能にした事例を紹介します。

 

  • 江戸時代の茶碗(油滴天目茶碗)が海外の有名なオークションで3億円で落札されたことがある。この茶碗ように、意味的な価値を生み出すことで、経済と環境のトレード・オフ(一得一失)を解消しながら経済を回すことができる。
  • 注目すべきは、同じ3億円の価値を生み出すときに車や建築では多くの二酸化炭素を排出するが、この茶碗が時間をかけて生み出した価値は炭素を全く出していないこれは、難解な多元連立方程式を一気に解くようなもの。
  • 今までは破壊することで価値を生み出してきたが、欧州の大聖堂のように、今後は真逆で、如何にちゃんと残していくかによって価値を生み出していくことが大事。
  • 他方で、このような無形資産をGDPに計量すれば名目的にGDPを上げることができるという議論がある。これは手法論の話で、そんなことをしてまで、何のためにGDPを測る意味があるのだろうかと考える必要がある。
  • 健康診断は数値を良くするために頑張っているかというとそうではなく、自身の健康のために数値を把握することに意味があるのに、数値のために頑張っているようなものではないか。無形資産のGDPへの計量は、まさにこれに当たる。

 

“残し続けることで新たな価値が生まれる”という良い事例が出ましたが、それをそのまま経済指標(GDP)に持ち込むことの危険性も提言されていますね。

メルカリなんかも、価値があると思えるモノをそれを同じように評価する人に届けるという意味では、油滴天目茶碗のような見立ての経済はどんどん広がっていると言えるかもしれません。

 

5. 応援経済が価値を創造する

開化堂の茶筒。使い込むほど味が出ます。出典:Kaikado blog

 

  • 世界の長者番付の上位2位(ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ)は便利の帝王だが、3位のベルナール・アルノーLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)のCEO)は意味の帝王。 

    これは、オリジナリティーにとにかくこだわれば、世界に売り出せるという成功事例だが、そこには民度も関係してくる。

  • ブルネロ・クチネリというイタリアのブランドは、羊から育てて服を作っている。通常であれば、資本の圧力で合理的で経済的な科学繊維に移行してしまうが、その企業理念に共感する人たちがそれを買うといった応援経済になっている。
  • 京都の茶筒の開化堂も、戦後の経済成長の中で経営的に苦しく、工場生産へのシフトを考えたが、京都のお茶屋から買うからそれはやめてくれと言われて、伝統が守られてきた経緯がある。
  • この事例のように、日本は小さなアメリカを目指すのではなく、オランダや北欧諸国のように、アメリカ的な経済価値とは違う。例えばIKEAのように文化的な価値観を売りにするべき
  • 日本的なモノの価値や憧れを認識して、無形資産が残っているうちに、小さなアメリカという見せ方ではない、かつてマッカーサーが言ったような“東洋のスイスたれ”というブランディングが大事。

 

資本経済社会の中にも、こんな事例があるんですね。

最近クラウドファンディングをはじめとした“ファンビジネス”が増えてきたことは、この事例と似たようなことが起きやすい状況を作り出しているので、いい方向に向かっていますよね。

 

6. テクノロジーと物語の時代

woman browsing on the internet

 

ここからは、いよいよ「アート・文化」の回の核心に迫っていきます。

  • 経済や政治的な合理性ではなく、これからはテクノロジーと物語が時代をつくる。世の中の軸に置かれるのは、定量的なものでロジックで妥当性が固められたものは扱いやすいが、理性ではなく情感をつかむような普遍性のある物語性が大事。



    自分なりの物語が掴める人が増えていけば、GDPを名目的に増やすことが意味ないと言えるようになる。

  • 単線的なものさし(GDP、血糖値)でパフォーマンスを測るということは、キャッチアップ式の成長を目指していた時には役立ったが、これからは複数のものさしを持つことが豊かさに繋がる時代。自分にとってはこれが大事というものを自信を持って選べる自己効力感、自己肯定感が大事。
  • あなたはどう自分らしい人生を生きたいのか、ということを問われる時代大切なのは、どういう生き方が自分にとってハッピーで、生きるにたる人生かを見つける能力。

 

自分の物語を生きる。すごく難しい話になってきました。

「みんな自分勝手に生きたら社会が崩壊するから、我慢する必要があるんじゃないの?」と思われた方、どうやらそうでもないようです。

 

7. 経済から解き放たれた未来とは


 

  • 仮に月20万円くらいのベーシックインカムが導入されたときに人は何をするか。まず、ブルシット・ジョブはやらない。かといって人間は休まない。

    イノベージョン、クリエーション、他者への貢献といった共感をつっつくことを積極的にするようになる。

    これらはボラティリティが高い。ほとんどの人は失敗するがその差は運でしかない。

  • しかし対数の法則が働き、トライアルの数は増えれば成功する確率は上がるはずで、国民全員が好きなことをやるとトータルのアウトカム(価値の創造)は増えるのではないか。ただし、多様性は広ければ広い方がいいが、個人にできることは有限であるため、興味のあることを食い散らすだけにはなってほしくない。
  • もっと豊かに生きていくには、食・酒・家具・絵画・植物・ファッション…といったすべての文化的な活動によって心が動く感覚に素直に反応すること。ウィリアム・モリスは、自分が心地いいと思えるもの以外部屋に置くなということを言っている。
  • 安い、便利ということではレベルの高い消費経済は難しい。資本という主人が、市場を使って再分配しているところから逃れることが大事。楽しいと思える仕事をやるということと、残って欲しいと思えるものにできるだけお金を使うこと

 

言われてみれば正論ですが、「そうしたいのはやまやまだけど、実際はそんな風にはできない!」と思われた方もいますよね?

最後に、自分らしく生きるための心構えについて触れておきます。

 

8. アーティストのように生きろ


man wearing white shirt painting a wall 

 

  • 自分らしい人生を生きる上で、2つの立場の取り方が大事。全てのビジネスマンはアーティストの気持ちで、消費するときはパトロンになった気持ちで。
  • 今はまだ人の生活が、経済活動の生産性を向上させるための部品にされているが、これからは文化的な要素を重視して仕事や住む場所を決めるべきで、“ハッピーに暮らすためには経済も大事だから、資本主義や企業を使って財を生産している”という気持ちに転換すればいい。 

    市場経済の中で削ぎ落としてきたものを、もう一度包摂して人としてのライフを作る。

  • アートのいいところは、答えが一点に修練しないところ。何がいいと思えるかは多様。日本のアートへの投資は、アメリカの1/7以下、寄付も1/15と低い。日本は文化的なものを楽しむ余裕が少ない。こうした行動は、追加で100万円年収を上げるよりはずっと幸せになれる可能性が高い。
  • アートに心が動かない人も、ランニングを始めてみたらどんどん走りたくなるかもしれない。何をした時に心が動いたか、セルフ・リフレクションをきちんと心に留めること。高級車、高級マンションなどの成功モデルを追っても幸せにはなれないし、人も世の中も変化していく。
  • 答えは内側にしかない。頑なにならずに、しなやかに自分と向き合い、定量と収益あるいは効率から離れること。
  • 経済に衝動を。絶対に儲からないということをやっても仕方ないかもしれないが、みんながやらずにいられないことをすれば世の中が面白くなるのでは。

 

以上、疲弊した資本経済からの脱却と、アート・文化での価値創造、その心構えについて山口周さん、波頭亮さんの考えを要約してきました。

この記事の内容が、みなさんの生き方・暮らしを見直すきっかけになれば幸いです。興味のある方は、本編もご覧ください!

登壇者紹介

出典:brain.co.jp

山口 周(やまぐち しゅう)
電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、独立研究者、著作家、パブリックスピーカーとして活躍。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』などの著書がある。

 

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