縦横に区切られた線で作られた箱。
これはアートもしくは建築?
この不可解な彫刻の作者は、ソル・ルウィット。1960年ごろに、コンセプチュアルアーティストとして活躍した芸術家です。
彼はコンセプチュアルアートの他に、ミニマルアートの作品も制作しています。彫刻と壁画を使ってコンセプチュアルアートの作品を制作し、彫刻のことを彼は「Structure(構造)」と呼んでいました。
この記事では、そんなソル・ルウィットの生い立ちと、美術界での立ち位置、作品を紹介していきます!
1. コンセプチュアルアートのパイオニア
まずは簡単に、ソル・ルウィットの生い立ちを紹介します。
ルウィットは、1928年9月9日、アメリカのコネチカット州ハートフォードに生まれ。ロシアからのユダヤ人移民である両親のもとで育ちました。
彼の母親は、ルウィットが幼少期から美術教育を受けることを重視し、彼を地元ワズワーズ・アテネウムの美術教室に通わせます。この経験は、ルウィットの芸術への情熱を育む経験となりました。
シラキュース大学で芸術を学んだルウィット青年は、1949年に美術修士号を取得。大学卒業後、彼はヨーロッパを旅し、多くの芸術品に触れる機会を得ましたが、その後朝鮮戦争のために兵役を経験することになります。
兵役を終えた後、ルウィットはニューヨークに移住し、アトリエを設立。この時期、彼はスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツで学びながら、セブンティーン・マガジンでデザイナーとして働きました。
1955年から56年にかけては、後に国際的な名声を得る建築家I.M.ペイの下で、グラフィックデザインの仕事にも従事しました。
コンセプチュアルアートへの展開
1960年代初頭、ルウィットは彫刻を用いたコンセプチュアルアートの制作を開始します。
彼は立方体などの三次元形状を用いた作品を通じて、自身の作品を「Structure(構造)」と称し好んで使用しました。このこだわりは、彼の作品が単なる物理的な形状を超えた、思考と概念の探求であることを提示しています。
ルウィットの作品は、見る者に対して視覚的な体験を超えた深い思索を促し、アートがどのように概念化され、受け取られるかの議論を刺激し続けています。
2. 革新的なアートワークと晩年
もう少し、ルウィットの特徴と晩年を深掘りしていきましょう。
1966年、ルウィットは立方体の基本構造を探求する「シリアル・プロジェクト」シリーズを開始しました。
このシリーズは、システマティックなアプローチによって視覚化された作品群で、彼のコンセプチュアルアートへの深い関心を反映しています。
1967年には『アートフォーラム』誌に「コンセプチュアル・アートに関する断章(パラグラフ)」を、1969年には『アート&ランゲージ』誌に「コンセプチュアル・アートのセンテンス」を発表。
これらのエッセイでは、「芸術の最も重要な要素は概念であり、作品制作の計画・方法・実行は形式的なものに過ぎない」という彼の理念が述べられています。
ウォール・ドローイングと作品制作の方法
1968年からは、「ウォール・ドローイング」シリーズも展開。
このシリーズでは、ルウィット自らが関与せずに指示書に従って第三者による制作を委ねています。
壁に描かれた作品は、グラファイト、クレヨン、色鉛筆、墨汁、ペイントなど様々な材料を使用。この手法は、立体作品にも応用されます。
ルウィットが同時代のアーティストと比較して特異な点は、コンセプチュアル・アートに出発し、構造面を重視するミニマル・アートの形態をとったこと。
双方の特性をもついずれの作品においても一貫して根底にあるのは、作者の意図を排除し、鑑賞者に思考をもたらすことでした。
芸術教育への貢献と晩年
またルウィットは、1960年代後半からニューヨーク大学やThe School of Visual Artsなど、ニューヨークにある複数の大学で芸術指導にあたり、次世代のアーティストに大きな影響を与えました。
その後、彼はコネチカット州チェスターに移住し、2007年4月8日に78歳で癌の合併症によりこの世を去ります。
彼の残した作品は、今日もなお多くのアーティストや批評家によって高く評価されています。
3. ソル・ルウィットの代表作品を紹介
ここからは、ルウィットの代表的な作品をいくつか紹介します。
Standing Open Structure Black (1964年)
この作品は、ルウィットの「Structure(構造)」という概念を体現しています。
中央に空間を持つことで、作品の三次元性が強調されており、素材の継ぎ目が見えないことから、特殊な加工技術が用いられていることが推測されます。空間と形の関係性を探求する、ルウィットの試みを象徴した作品です。
Serial Project #1 (1966年)
「Serial Project #1」は、一連の形の変化を通じて、三次元オブジェクトへのルウィットの解釈を視覚化した作品です。
この作品は、形の進化の過程を追うことで、ルウィットの「Structure(構想)」へのアプローチを理解するヒントになります。
Buried Cube Containing an Object of Importance but Little Value (1968年)
直訳すると「重要だが価値の少ないオブジェクトを含む埋められたキューブ」となるこの作品は、コンセプチュアルアートの理解に挑戦する作品です。
作品の意味や目的が直接的には明らかでないことから、観る者に深い思索を促します。
Wall Drawing #439 (1985年)
「Wall Drawing #439」は、壁に描かれたカラフルな配色のオブジェクトが特徴的な作品です。
二次元の平面に三次元の概念を閉じ込めることで、ルウィットは視覚的な錯覚を生み出し、平面と空間の関係を再解釈しています。
ルウィットが二次元と三次元の境界を探る中で、どのような創造的なアイデアを思いついたかを示しています。
ソル・ルウィットの作品は、アートの形式と概念に関する深い洞察を提供し、視覚芸術における新たな可能性を提示しました。
彼のアートワークは、形と空間、概念と実行の関係を探求することで、観る者に対して独自の視覚的な体験を今なお与え続けています。