みなさんは、日々合理的に生活している自信がありますか?
何かを行動するとき、出来る限り合理的に判断したいと誰もが思うものの、つい衝動買いしてしまったり、ダイエット中にお菓子を食べてしまったりするものですよね。
しかし、それで自分がダメだと悲観的になる必要はありません。なぜなら、人間は不合理に行動するようにできているからです。そんな人間の不合理さを教えてくれる本が、ダン・アリエリー教授の「予想どおりに不合理」です。
ダン教授は今や行動経済学研究の第一人者で、その研究のユニークさは、2008年度にイグ・ノーベル賞を受賞したことでも証明されています。
人は不合理に行動するものだと知ることで、そうならないように行動を振り返ることもできるし、そういうものだと素直にもなれます。この記事では本書の中から、特に役に立つと感じた部分をピックアップして紹介していきます。
1. 人は本当に相対的に物事を判断しているのか
まず押さえておきたいことが、私たちは日常において意識的に物事を比較できていないということです。分かりやすい例として、オタサーの姫があります。属する集団によってその人の立ち位置や扱われ方が変わるように、意識的に物事を比較できていると思いがちです。しかし、よく思い出してみると、無意識に不合理な比較をしていることもあるのです。
例えば、遠くのスーパーのチラシが、近くのスーパーより3円安く野菜を売っているとき、それを目的に遠くのスーパーまで行ってしまうことがあります。一方で、10万円のパソコンを買うときには5%の割引を8%の割引にすることにはそこまで熱心にならないことが多いのではないでしょうか?価格とそれに費やす時間を比較したら、パソコンを値切る方が圧倒的にお得であるにも関わらず。
これはアンカリングという心理効果が働くことにより、閉じた環境の中で比較していることが原因です。アンカリングとは初めに提示されたものを基準として、今後の決断に影響を及ぼすことを言います。上の例で言うと、パソコンは10万円が相場という感覚が身についてしまうと、そこからある程度安くなると“十分安い”と感じてしまい、値切ることを諦め、満足してしまいます。
特売の野菜を買う時と同じ熱量をもって値切れば、もう数千円は安くできるかもしれない可能性を、この満足感から捨ててしまっているのです。定価はある程度こうしたアンカリングを見込んだ価格設定になっていることを意識することで、本当にそれに払うべきコストかを閉じた環境で比較するのではなく、冷静に判断できるかもしれません。
2. 衝動買いをやめる面白い方法
次に紹介するのは、あったら面白いと思ったダン教授からの提案です。クレジットカードを持っている人ならば、一度は衝動買いして後で後悔した経験ありますよね?
衝動的に判断力が鈍るのは、人間の性質として避けることが難しいです。クーリング・オフ制度という払い戻し期間がありますが、どれほどの人が利用しているでしょうか。
そこでダン教授が提案するのが、すぐに使えないクレジットカードです。物理的に氷の中に保存して、溶けるまで使えない期間を設ける。文字どおり頭を冷やす期間をつくることで、冷静になれるという冗談めいた提案です。本当に凍らせないにしろ、物理的になかなか取り出せないようにすることで、使う額が抑制されることはありそうです。
カードにはすでに限度額があるじゃないかと思うかもしれませんが、限度額は引き上げようと思えば引き上げられますし、毎月上限まで使うことなんてまずないですよね。それよりも、自身の衝動を抑える方が結果的にお金を使わないし、後悔もないです。
あとは制度として、自制クレジットカード(項目別にあらかじめ設定した支出予定額を超えないように制限)をつくるという案もあります。生活必需品は買えるけど、嗜好品の購入には厳しい上限があるといったことができるのではないかという提案です。
これならメリハリのある限度設定で、抑止になるかもしれません。これらの案は実際にクレジットカード会社に提案されたそうですが、実現はされなかったそうです。実現できたら面白そうですよね!
3. お金で人は動かない、タダのほうが嬉しいこともある
最後に紹介するのは、「報酬」についてです。これは身に覚えのある人も多いと思います。例えばプラモデルを作るとき、完成したときには少なからず達成感や喜びがありますよね。
しかし、ある人から“このプラモデルを1つ500円で買い取るから、もう1回作ってくれ”と言われた瞬間、つくる作業を頭の中でお金の価値に換算していまい、やる気が失せませんか?
これは、社会規範(誰かのために行動したくなる奉仕の心など)が市場規範(お金による相対的なコスト)に変換されることによる心理現象です。達成感や満足感、喜びといったものをお金という“比較できるものさし”に変えられた瞬間、こんな程度だったのかと落胆してしまうのがこの現象ですね。
もし誰かが何かを手伝ってくれたり、もてなしてくれたときに、あなたがこの市場規範を持ち込むと、かえって関係が悪くなることもあるので注意が必要です。誕生日を祝ってくれた友人に、「いくらかかったの?払うよ。」なんて言わないですよね。
アメリカのテキサスの砂漠で9日間行われる“バーニングマン”というお金での売買を禁止し、相互に助け合うことで過ごすイベントがお金持ちの間で流行っているのは、こうした市場規範から解き放たれた非日常を味わえるからです。
以上、「予想どおりに不合理」について、簡単に内容を紹介をしました。まだまだ面白い内容が盛り沢山なので、気になる方はぜひ本書を手に取ってみてください!