不倫・浮気・差別・不謹慎な言動・ルール違反…
あなたは、どんなときに他人が許せないですか?
この記事では、脳科学者・中野信子さんの書籍「人は、なぜ他人を許せないのか」を紹介します。本書では、人はなぜ他人を許せないのかの理由や、すべての人が陥ってしまう可能性がある“正義中毒”という症状などについて書かれています。
なぜ、許せないという感情が起こるのか。そのメカニズムを学ぶことで、他人や多種多様な価値観を受け入れられる器の大きな人になれます。
それでは、さっそく内容をみていきましょう!
1. 正義中毒という本能
人は他人に正義の制裁を与えることで、快楽を得ることができます。そこから得られる快楽の中毒になった状態を、本書では「正義中毒」と言います。なぜ人は、正義中毒の陥るのでしょうか?
それは、私たちは社会的な生き物であるため、裏切り者を排除する本能が発達しているからです。
私たちはコミュニティを形成することで繁栄し、生き延びてきた社会的な生き物。人にとって集団を作ることこそが生き残る手段であり、重要なことでした。
人類の歴史を振り返ると、そのほとんどが狩猟採集の時代。約250万年もの間狩猟採集の時代があった後、ようやくここ1万年前から農耕をスタートさせています。
その後、たった約250年前に産業革命が起きて現在に至るため、人類史の99%以上は狩猟採集の時代だったと言えます。
ここ数百年のテクノロジーの急激な発達によって、人間社会は激変しています。一方で、生物の進化はとても遅い。社会はものすごく進歩したけれど、私たち人間の身体や脳みそは数万年前からそれほど変わっていないということです。
今でこそ一人で生きていくのも可能な時代にはなりましたが、それはここ最近のこと。人は集団で集まり協力することで、数百万年も生き永らえてきました。
大昔は集団の中に裏切る、ルールを破る、自分の利益ばかりを優先するといったことで集団もろとも餓死するという危険性がありました。その過程で人は裏切り者を排除する仕組みを獲得してきたというわけです。
では、私たちの本能に備わっている、裏切り者を排除する仕組みとはどんなものでしょうか?
それこそが、「他人に正義の制裁を与えることで快楽を得ることができる」という仕組みです。
他人に正義の制裁を与えることから得られる快楽にはまってしまい、過剰に人を許せなくなる症状が正義中毒。
そして正義中毒は、私たちが住んでいる日本でより起こりやすいそうです。
2. 日本社会の特殊性
日本人は比較的、「正義中毒」に陥りやすいと言われています。
なぜ日本人だと陥りやすいのか?
答えは、日本が社会性が強い傾向にあるからです。
社会性が強いというのは、より集団で協力することを重要視するということ。日本人は、外国人よりも他人への気遣いができるという良い側面があります。
一方で、裏切り者には厳しい一面も持ち合わせています。そして、社会性が強くなった理由は、日本は自然災害がたくさん起こる地域であり、昔から集団で協力する必要性が高かったためです。
日本は高温多湿で激しい雨が降り、台風もたくさん通過しますよね。
さらにはプレートの境界に位置するため火山が多く、世界中で起こるマグニチュード6以上の大きな地震の約2割は日本で起きているほどです。
このように、日本は地理的に自然災害が深刻な地域。
もちろんこれは、大昔から変わっていません。
自然災害が深刻である条件下で、日本人はより協力していく必要があったため、社会性の高い民族になっていったというわけです。
3. 多様な価値観を受け入れ、合理的に考える
ここからは、正義中毒への対抗策を紹介します。
正義中毒に陥りやすい人は、どんな人でしょう?
それは、多様な価値観を受け入れられない人です。
一方で、いろんな価値観を受け入れられる人は、許せないという感情を持つのではなく、「まぁ、そういう人もいるよね」という風に考えることができます。
また、人を許すためには合理的であることも大事。
合理的に物事を考えられる人は、他人を許さないことに価値を見出さない場合が多いです。
例えば、芸能人が不倫しようが自分には関係ないし、ポイ捨てしている人に対してそれを注意したところでたぶんその人は今後もポイ捨てし続けるから注意するだけ時間と労力の無駄。
合理的な人はこのように、他人に介入したところでその人の考えを変えることはほぼ不可能に近いと考えます。
他人を許さないことで、得られるメリットはあまりありません。
それどころか正義中毒の人は、なんで自分はこんなに人を許せないんだろう…と自己嫌悪に陥ってしまうことがあるほどです。
とはいえ、母親が子供をしつけるために子供の悪い行いを許さずちゃんと叱ってあげるような、許さない気持ちが必要な場面ももちろんあります。
4. 前頭前野を意識する
全ての許せない気持ちが悪いものではないという前提に立ちつつ、ここからは良くないかたちでの正義中毒に陥らないための対策法を学んでいきましょう。
重要なことは、脳の前頭前野を鍛え、衰えさせないことです。
いきなり難しくなりましたね…。
前頭前野は分析的な思考や客観的な思考をつかさどる場所。ここを鍛えることで、多様な価値観を受け入れたり、合理的に考えられるようになります。
前頭前野が発達している人は、目先の利益よりも長期的な損得を考えて選択ができ、社会的地位や経済的地位が高くなる傾向があります。
また、前頭前野という場所は比較的発達するのが遅い部分で、7~9歳くらいから発達し始めて30歳くらいまで成長し続けるそうです。
一方で、前頭前野は、30歳を過ぎていくと徐々に衰えていく部分でもあります。そのため、20代の人はなるべく前頭前野を鍛えられるように、30代以降の人は前頭前野をなるべくは保てるように意識する必要があるんですね。
歳をとればとるほど前頭前野が衰え、より断固になったり人を許せなくなっていき、嫌なおじさんやおばさんになってしまわないように注意しましょう。
5. 前頭前野を若く保つ方法
ここからは、前頭前野を鍛えたり、若く保つための方法を3つ紹介します。
新しい経験を積極的にする
まず1つ目は、新しい経験を積極的にすること。積極的に新しい経験をすることで、脳に良い刺激が入って脳が活性化します。
新しい経験と言っても大げさにとらえる必要はありません。
例えば、
- いつもと違う道を通ってみる
- いつもと違うお店を選ぶ
- いつもと違うメニューを選ぶ
などの小さな新しい経験でも大事だと、中野先生は言っています。
以前脳の教科書という本の解説で、脳は部分ごとに主に8つの役割を分かれていて、これらをまんべんなく使ってやることで脳全体が活性化し脳全体としての生産性が上がるということを書きました。
慣れ親しんだ行動の方が楽だし合理的ではありますが、そればかりだと脳への刺激が少なくなって脳は衰えてしまいます。
不合理を選んだ方が合理的な場合もあるということです。慣れ親しんだルーティーンの行動と、何か新しい体験にチャレンジすること。
この2つのバランスが大事だということです。
余裕を持つこと
2つ目は、余裕を持つことです。生活に余裕を持っておくことが前頭前野をちゃんと働かせるためには必要です。
当たり前ですが、寝不足だったり仕事や人間関係でいっぱいだったりすると、脳のパフォーマンスは落ちてしまいます。
そのため、生活に余裕を持つこと、きちんと休息の時間を持つこと、やるべきことを溜めすぎないことということが大事になってきます。
とはいえ、ストレスや困難な状況というのが適度にはあったほうが脳が活性化するのもまた事実。
これはヤーキーズ・ドッドソンの法則として知られていますが、人はストレスが多すぎても少なすぎてもダメで適度なストレスがある時にこそ最高のパフォーマンスを発揮できます。
自分なりのストレス解消法を編み出すとか、ちゃんと休息の時間をとるなどして生活に余裕を持つことが大事です。
食事と睡眠を整えること
3つ目は、食事と睡眠を整えることです。体や脳にとって食事と睡眠はとても重要な役割を担っています。
食事については、もちろんバランスよく食べることが大事。さらに脳のために取るべき栄養が、オメガ3脂肪酸という脂質です。
これは、脳が肥大化し発達するための原料で、サケ・マグロ・イワシ・サバ・サンマなどのいわゆる青魚に多く含まれています。
オメガ3脂肪酸は前頭前野の発達や老化防止のために必須の栄養素。
青魚以外にもカキなどの貝類、クルミなどのナッツ類、えごま油や亜麻仁油などにもたくさん含まれているので、これらの食品を積極的に摂ることが有効です。
睡眠については、個人によって理想的な睡眠パターンがだいぶ異なってくるので一概には言えませんが、少なくとも毎日6時間、できれば7時間摂るのがいいと言われていますよね。
日中にお昼寝もとても有効です。お昼寝は、夜の睡眠の10~20倍の回復効果があるという研究成果もあるほどです。
10~20分くらいするのが良いという研究報告が多く、少ない時間でも回復効果はとても大きいということが言われているのでぜひ取り入れてみてください。
睡眠不足は一時的なものも慢性的なものも、脳の生産性を愕然と落とします。
睡眠不足にならないようにすることは何をするにしても超重要な課題だといえるのでぜひ意識してみてください。
今回紹介した中野信子さんの書籍「人は、なぜ他人を許せないのか」には、なぜ他人を許せないのかについてまだまだ紹介できていない部分がたくさん載っています。ぜひ本書を手にとって読んでみてください!