セレンディピティ・マインドセットは圧倒的な成功と幸福を手にした人々が、有意義に生きるための支えとしてきた人生哲学であると同時に、私たち一人一人が身につけることのできる実践的能力でもある。
この記事では、クリスチャン・ブッシュさんの書籍「セレンディピティ点をつなぐ力」を紹介します。本書は、
- なぜあの人には幸運が多く訪れるのかを知りたい
- 一流の思考法を知りたい
という方におすすめです。
本書では、あらゆる人が活用できる、幸運を育む科学について解説されています。想定外をポジティブに捉えて点と点をつなげることで、私たちの人生とビジネスに圧倒的な違いをもたらします。
運と努力を正しく相互作用させて結果を出す、最強メソッドを科学的に明らかにしているので、ぜひ最後までご覧ください!
1. セレンディピティを生み出す最大の目的
著者は自身の交通事故をきっかけに、死んでいたら失われたはずの機会について考えるようになったそうです。そして、持てるエネルギーを全て学業・人間関係・仕事に注ぎ込んだ結果、セレンディピティを実感するようになったと言います。
セレンディピティとは、予想外の事態での積極的な判断がもたらした、思いがけない幸運な結果のことです。実は、最高のチャンスの多くはセレンディピティによってもたらされると著者は主張します。
私たち人間は、とにかく計画を立てたい生き物です。未来をコントロールしたがったり、目標や野心を遂げる方法を知りたがったりします。
しかし、私たちがどれだけ計画を立てて戦略を作ったとしても、人生は完全に計画通りにはいきません。
そこに予想外という別の要素が絡みます。偉大なビジネスや世界を変える科学的発見も、予想外がつきものです。では、成功は運だけで決まるのかというと、そうではありません。
幸運は準備と好機が重なった時に生まれる
人生において、重要な転機や人生を変えるようなチャンスが、他人よりも頻繁に巡ってくる人、結果的により多くの成功や喜びを掴む人は確かにいます。
古代ローマの分筆家で政治家であったセネカは、幸運は準備と好機が重なった時に生まれるという言葉を残しました。
セレンディピティが、単なる偶然ではなく、私たちの内に秘めた本当の可能性を解き放ち、自分に何ができるかを探求する手段だとすると、予想外は成功し続ける原動力となります。
あらゆる人が最高の自分を見つけられるようにすることこそが、セレンディピティを生み出す最大の目的です。
2. セレンディピティの3つの類型
セレンディピティには種類があり、研究によって主に3つの類型がに分けられます。いずれも最初に“予想外の何か”というセレンディピティのトリガーがある点では共通しています。
しかし、最初の意図と最終的な結果で異なります。それぞれ簡単に紹介していきます。
アルキメデス型
すでに知っている問題、あるいは困りごとが解決するが、その解決策は予想外のところで生まれるのが特徴です。
最たる例は、古代ギリシャの数学者アルキメデスのエピソード。
ある時アルキメデスは王様から、王冠造りを任せた者が金の代わりに銀を使っていないか確かめたいと言われ、それを確かめる方法がなかなか見つからず悩んでいました。
そこで、息抜きに出かけた公衆浴場の湯船で水位が上がって、縁から湯が溢れていく様子を見てあることに気づきます。
銀は金より軽いので、銀の混じった王冠は、同じ重さの純金製の王冠よりも体積が大きいはず。ならば、水に沈めたときの溢れる水の量は、純金製より多いはずだという気づきです。
このタイプのセレンディピティは、私たちの日々の生活の中だけでなく、様々なところで起きています。
ポストイット型
問題を解こうとしていて、全く違うもしくは存在すら認識していなかった問題への解決策を偶然見つかることが該当します。ここでも、その名前のとおりのポストイットの例を紹介します。
1970年代の末、消費財メーカー3Mの研究者だったスペンサー・シルバー博士は強力な糊を開発しようとしていましたが、結果として発見したのはまるで逆のあまり粘着力の高くない物質でした。この弱い糊が、実は当時新発売されたポストイットに使われています。
このように、ポストイット型は計画していたルートとは全く違った方向に進むことにはなりますが、到着するのが素晴らしい場所であることに変わりはありません。
サンダーボルト型
サンダーボルト型は、問題の解決策を探してもいない意識的努力が、まるで行われていない状況で起きるものです。そこから新しい機会が生まれたり、それまで誰も認識していなかった、あるいは解決しようと思っていなかった問題への解決策が生まれたりします。
例えば、恋愛は往々にしてこのパターンで起こります。また、この種のセレンディピティから、新たなアイディアや方法が生まれることも多いです。
3つの類型のうち、複数の要素を兼ね備えた場合もあります。一方で著者は、もしセレンディピティが起きても、どの分類に当てはまるのか判断することに時間をかけないでほしいと言います。
なぜなら、それらを分類しようという思いが、セレンディピティの目をつぶすことも多いからだそうです。
3. セレンディピティの3つの特徴
セレンディピティには、いくつかのはっきりとした特徴があります。また、その一つ一つは、意識的に育むことのできるものです。
ここからは、これまでの研究で明らかになった、セレンディピティの中核的な3つの特徴について解説していきます。
セレンディピティ・トリガー
まず1つ目の特徴は、ある人に何か予想外あるいは普通ではないことが起こること。
それは、物理現象のこともあれば、会話の中でたまたま出てきた話題であることもありますが、これがセレンディピティのはじまり、セレンディピティ・トリガーになります。
バイソシエーション
特徴の2つ目は、それまで関わりのなかったことと結びつけることです。
例えば、点と点を結びつけて、一見偶然のような出来事や出会いに、価値があるかもしれないと気づくといったことです。それまで無関係と思われていた事実や出来事を結びつけることを、バイソシエーションと言います。
アップル創業者のスティーブ・ジョブズが、大学の頃にカリグラフィの講義を受けていたことをきっかけに、アップルのコンピュータに美しいフォントが生まれたことも、このバイソシエーションの事例と言えるでしょう。
偶然の発見を理解する
特徴の3つ目は、実現した価値です。
例えば、洞察やイノベーション、新しい手法や問題への新たな解決策は、もともと期待されていたものでも、誰かが探していたものでもなく、完全に予期せぬものです。
サプライズや偶然という要素は重要ですが、それは最初のステップに過ぎません。そこにもう一つ必要なものが、偶然の発見を理解し、使いこなす能力を持った人の存在です。
そのためには、複数の出来事、観察したこと、断片的情報の間に意外な価値のあるつながりを発見し、クリエイティブに融合させていくことが必要。その時には、それまで無縁と思われていた2つのアイデアを結びつけることが、ヒントになることが多いです。
つまり、セレンディピティで重要なことは、予想外の出会い情報の価値を認識し、活用する能力です。その一つ一つのステップは、学習できたり、後押しすることもできたりします。
後で詳しく見ていきますが、組織・人脈・物理的空間を見直すことなどによって、セレンディピティが生まれやすい状況を生み出すこともできます。
このように、セレンディピティ・マインドセットと適切な状況を組み合わせることで、セレンディピティの育つ「セレンディピティ・フィールド」は、豊かになると著者は言います。
4. セレンディピティの可能性を封じる4つのバイアス
セレンディピティの最大の障害は、私たち自身の世界に対する先入観。つまり、無意識のうちに思考を操作し、セレンディピティの可能性を封じてしまうバイアスです。
もし、自分にはバイアスがないと思っていても、それが最大のバイアスであるということを認識してください。
一度染みついたバイアスは、セレンディピティの瞬間が訪れた時にそれを見えなくするだけでなく、すでに起こったセレンディピティへの解釈を誤る原因になります。
例えば、自分が成功した理由を説明してほしいと言われると、大抵の人は努力と入念な計画、長期的視野に立ったビジョンや戦略が栄光に結びついたと考えます。
もちろん、時にはそれが正しいケースもありますが、大抵は違います。人生の重要なターニング・ポイントの多くは、単にツキに恵まれただけかセレンディピティがもたらすものです。
つまり、そこに私たちが後付で解釈を加えているということになります。バイアスには様々なタイプがありますが、セレンディピティの妨げとなる基本的なものは4つあります。それぞれ掘り下げます。
予想外の要因の過小評価
予想外のこと、ありそうもないこと、とんでもないことはしょっちゅう起きます。
重要なのは、それを過小評価せずに、有益な時に気づくことができるか、それを掴んで育むことができるかどうかです。
多数派への同調
同調圧力は、セレンディピティの芽を積むこともあります。
それが予想外の出来事を無視、もしくは軽視する姿勢、権力争いなど、不健全な集団力学の原因になるなら尚更です。
事後合理化
事後合理化とは、すでに起きたことに、どのように意味付けするかのプロセスのことです。端的に言うと、“過去に対する捉え方”ですが、私たちは過去の出来事をストーリーとして組み立てるとき、モデルを作って、細部や偶然性は無視してしまいます。
ある過去の出来事について、考えてみてください。
過去に起きたランダムな出来事は今となっては、もはや予測不可能ではないです。そのため、私たちは過去を振り返るとき、それを過小評価したり無視したりしてしまいます。
むしろ後から振り返ると、過去の予想不可能な出来事も必然だったように思えてきます。そして、その時点では入手不可能だった情報を使い、都合よく全てを説明できるようなストーリーを作り上げてしまうのです。
機能的固定化
機能的固定化とは、あるツールを日常的に使う人、あるいはそのツールを特定の方法で使うのには慣れている人は、それを全く別の方法で使うことを想像することに、心理的ブロックがかかりやすいこことです。
見慣れたツールを全く新しい視点で見ようとする心理的機敏さ、あるいはオープンな姿勢は、セレンディピティ・マインドセットを習得する上で不可欠なものです。
5. 潜在的トリガーの種をまく
たくさんのセレンディピティを経験する人がやっていることは、潜在的トリガーの種をまくことだと言えます。そして、点をつなぐことで、トリガーが好ましい結果につなげています。
これらはどちらも重要で、順番に起こることもあれば同時に起こることもあります。
例えば、ロンドンを拠点に複数の企業を立ち上げ、人脈作りの達人でもあるオリバレット氏は、新しい人と出会うと共通点を見つけるためにいくつもの種をまきます。
相手から何の仕事をしているのかと聞かれれば、
- 人と人を結びつけるのが好きだ
- 教育分野の会社を立ち上げた
- 最近は哲学に興味が出てきたけれど、本当に好きなのはピアノを弾くこと
と答えるそうです。活動的な人の定型的な回答に感じるかもしれませんが、実はこの回答には、少なくとも4つの潜在的なセレンディピティ・トリガーが含まれています。
人と人をつなげるという好きなこと、教育事業を立ち上げたという仕事の説明、哲学という関心があること、そしてピアノ演奏という趣味の4つです。
種は他人起点で芽吹く
もし、起業家だとだけ答えていたら、相手が点と点をつなぐ余地がかなり限られてしまいます。しかし、オリバレット氏のように4つ、5つのセレンディピティ・トリガーの種をまくことで、
「私も最近ピアノを買おうと思っているのだけど、おすすめある?」
といった反応が返ってくる可能性があります。つまり、相手が自分の人生と関わりのある種に気づき、選択する余地を与えること。
それによって、大小様々なセレンディピティが起こりやすくなります。
トリガーがなければ、セレンディピティは始まりません。突き詰めればセレンディピティ・トリガーの種をまくのも、点と点を結びつけるのも大抵は他人です。
未知の状況に進んで足を踏み入れる
ではどうすれば、彼のように上手にトリガーの種をまけるのでしょうか?
まずは、難しいことは考えず、未知の状況に進んで足を踏み入れる必要があるということ。
誰もが自分の居心地のいい場所でチャンスを探そうとしますが、セレンディピティは思いがけない外部要因との出会いから生まれることが多いです。
それは、新たな情報であったりリソースであったり人やアイデアであったりと、様々な形で現れます。本や新聞映画などから得られる情報であることも多いです。
6. インキュベーション期間
セレンディピティには、大抵インキュベーション期間があります。
インキュベーションとは“培養”という意味です。
インキュベーション期間をくくり抜けるためには、粘り強さと知恵が必要です。セレンディピティは1回限りのサプライズだと思われがちですが、実はそうではありません。
当初はつながりに気がつかない、心の準備ができていない、あるいはそのアイデアに重要性を見出せないという場合もあります。
突然の気づきのために
インキュベーション期間とは、何かを意識の片隅に置いてから、「突然の気づき」までの時間と言えます。
ありふれた行動が、それまで意識的に考えたことのなかった現象に注意を向けるきっかけとなり、何の脈絡もなくひらめきがパッと頭に浮かぶその瞬間、抱えていた問題の解決方法が突然完全なかたりで降りてきたりします。
それはシャワーを浴びている時に起こることもあれば、夜中に素晴らしいアイデアがひらめいて飛び起きたりすることもかもしれません。
インキュベーション期間は大抵5分~8時間ですが、それよりもはるかに長くなることもあります。
いずれにせよ、ひらめきやつながりの起源はよく忘れられている、あるいは追跡不可能なものだということです。
寝ている間に無意識のうちに検討できるように、検討すべき問題は夜寝る前に読むという人も多いです。熟睡するのには好ましくないかもしれませんが、インキュベーション期間を置くことで、ひらめきの瞬間が訪れる可能性があります。
今回紹介した、クリスチャン・ブッシュさんの書籍「セレンディピティ点をつなぐ力」についてまだまだ紹介できていない部分が多いです。おすすめの本ですのでぜひ読んでみてください!