AIは人間を侵略するでしょうか?
この記事では、新井紀子さんの書籍「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」を紹介します。本書は来るAI時代に向けて、AIとはどんな存在なのか、人間にとって代わる存在なのかを教えてくれます。
著者の新井紀子さんは、
- 国立情報学研究所教授同社会共有地研究センター長
- 一般社団法人教育のための科学研究所代表理事所長
- 2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトディレクター
を務めてきたAIのスペシャリストです。
AIとは、Artificial Intelligence の略で人工知能という意味。人工知能とは、人間の脳が行っている知的な作業をコンピューターで行うことを指します。定義は未だ定まっておらず、何をもってAIとするかが正確ではない現状ではあります。
そんなAIですが、この記事を読めば、その基礎知識をざっくり知ることができます。
さっそく内容をみていきましょう!
1. AIは神になるは誤解
Deep Learning (機械学習)などの発達で、最近ではAIの活躍が世間をにぎわせていますよね。一方でAIが神になる、AIが人類を滅ぼす、AIが仕事を奪うなどの噂も多く出回っています。
著者はそうしたAIのイメージに対して、「AIはまだどこにも存在していない」と主張します。
いまコンピューターが行っているのはただの計算で、AIではありません。
いま巷で言われているAIの開発目標は、人間の知的活動を四則演算で表現するか、表現できていると感じる程度に近づけることで、人間の脳そのものにはならないのです。
では、なぜここまでAI論争が起こっているのでしょうか?
AI ≠ AI技術
その理由は、私たちがイメージする「AI =人類の脅威」と、AI技術が混同して使われているからです。
AI技術とは、AIを実現するために開発されているさまざまな技術のこと。音声認識技術や自然言語処理技術、画像処理技術などがそれに当たります。
近年この技術が格段に発達したことと、これらAI技術を総称して“AI”と呼ぶようになったことが重なり、「AIはついに誕生した!」という噂が広まってしまったのです。
神になるAIは遠い未来ならともかく、近い未来において誕生することは原理的に無理な話だったのです。
2. シンギュラリティは来ない
AIが神になるというのは、噂でしかないことが分かりました。
さらに、もう一つAI論争で必ず話題になるのが、シンギュラリティは来るのか?来ないのか? 問題です。
シンギュラリティとは日本語では、“技術的特異点”と訳します。これは、AI技術ではない真の意味でのAIが人間の手を借りずに、自分自身よりも能力の高いAIを作り出すことができるようになった地点のことを指します。
言うまでもなく、今のAI技術ではそんなことできません。ではなぜ今の時点で、シンギュラリティの論争が独り歩きしているのでしょうか。
脳が認識すべてを数式に置き換えられない
その原因は、シンギュラリティ到来の不安を増幅させてしまった出来事があったからです。AIがチェスの世界チャンピオンに勝ったことや、プロ棋士が囲碁のゲームソフトに負けたというニュース。耳にしたことありますよね?
シンギュラリティが到来する!という言説が、このニュースによって世間にリアルに受け止められてしまったのです。
著者はこの現象についても、「シンギュラリティは来ない!」と断言します。なぜなら今のAIの延長では、真の意味でのAIが誕生することはないからです。
AI技術は所詮コンピューターの計算に過ぎないということに尽きます。
現段階で計算できることは、
- 論理的に言えること
- 統計的に言えること
- 確率的に言えること
の3つだけです。今のコンピューターでは、私たちの脳が認識している情報を全て計算可能な数式に置き換えることは不可能であり、シンギュラリティは到来しないのです。
3. 中高生の読解力が低下している
AIは存在しないし、シンギュラリティも来ないことが分かりました。ならば、ホッと一安心。とはいかないかもしれません。
ここからは、本書のタイトルにある、“教科書が読めない子供たち”について解説していきます。
著者は、日本の中高生の読解力は、危機的状況にあると言います。彼らの多くは中学校の教科書の記述を正確に読み取ることができていません。
これは著者が実施した“基礎的読解力調査”から判明した事実で、全国2万5千人を対象にしたリーディングスキルテストの結果です。
このテストは、
- 係り受け(言葉と言葉の関係性)
- 照応(別々の部分の互いの対応)
- 同義文判定
- 推論
- イメージ同定(図形やグラフを比べて内容が一致しているかを認識)
- 具体的同定(定義を読んでそれと合致する具体例を認識)
の6つの分野で構成されており、これらが理解できているかで読解力が分かります。
3割の子どもに基礎的読解力がない
テストの結果としては、中学生62%、高校生72%が正解できました。しかし、見方を変えると中学生の3人に1人、高校生の10人に3人は基礎的読解力の問題に正解できなかったことを意味します。
このテストが行われたのは全て進学校であり、受験を控えた生徒たちが対象だったにもかかわらずです。
一方で、係り受け(言葉と言葉の関係性)問題に関しては、AIでも正解率が80%を超え、照応(別々の部分の互いの対応)も急速に研究が進んでいると言われます。
これを踏まえると、読解力を必要とする分野において、AI技術に取って代わられる時代がすぐそこまでやってきていると考えられます。神になるAIは存在しなくても、私たちの能力の一部を補完するAIは出てきているのです。
4. AIに奪われる仕事は存在する
読解力以外では、AIに取って代わられる具体的な事柄はあるでしょうか?
著者の考えるシナリオの1つとしては、“ショールーミング現象”があります。ショールーミング現象とは、商品購入の際に実店舗に訪れて現物を確認し、その店舗では買わずにオンラインショップで購入すること。
例えば、家電。家電量販店に行って販売員から商品の説明を受けて購入する商品を決め、その店では買わずスマートフォンで最安値の店を探して通販で購入することは、一度は身に覚えにあるのではないでしょうか。
リアル店舗が淘汰される
現在、このようなショールーミングで購入する消費者が増えており、この状況が続けば販売店は最安値の店に価格を合わせなければなりません。そして、実店舗を持っている方が、テナント料などで不利な立場になります。
ショールーミングにより、自由市場において同じ値段になっていく“一物一価”にたどり着く時間が短縮されてしまうのです。2017年にアメリカのトイザらスが破綻した原因はショールーミングが一因と言われており、駅前などに構える販売店は不利にしかならないのです。
AI技術に基づく社会になるとすべてにおいてこうした最適化が急速に進むので、このような現象に拍車をかけてしまう恐れがあります。
著者は、AIによる最適化によってホテル・航空・運賃など、数多くの企業が淘汰されると懸念します。みなさんが想像する神になるAIはすぐに現れなくても、AI技術によって奪われる仕事は着実に増えていくのです。
今回の内容は以上です。本書、新井紀子さんの書籍「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」の内容に興味を持たれたら、ぜひ一度手に取ってみてください!