ビジネスや対人関係の交渉、得意ですか?
この記事では、犬塚壮志さんの書籍「頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術」を紹介します。本書は、
- 対人関係がうまくいかない
- 頭のいい人の振る舞いをしたい
という方におすすめです。誰とでも対等に渡り合える頭のいい人が、あなたの周りにもいると思います。著者は、こうした人たちを“対人的知能が高い人”と表現します。彼らは頭のいい交渉術を使い、よい対人関係を築いています。
頭のいい交渉術を身に付ければ、人生の問題のすべてを解決できると主張する著者。本書では、その交渉術を教えてくれます。それでは、さっそく中身を見ていきましょう!
1. 交渉のマインドセット
まずは、交渉前のマインドセットについて解説します。本書のタイトルにもなっている頭のいい交渉術を身につける上で、最短の道はマインドセット、心構えから始めることです。これは単なる精神論ではありません。
交渉と聞くと、話し方や相手の心を読むテクニックにばかり意識が向いてしまいがちで、本書でも55もの交渉的には紹介されています。しかし、最も重要なのは心構え。交渉に挑む際のマインドセットができているだけで、軸がしっかり定まり、自信を持って相手と対峙することができます。
どこに着地すべきか、そのためにどう話を持っていくか。このような自分の軸が定まっているだけで、交渉の結果は180度変わっていきます。一方で、自信がないままに不安定な精神状態で交渉に挑むとどうなるでしょうか?
その場合、相手に自分の心を見透かされたり、相手に都合よく話を進められてしまったりする可能性が高くなります。
日本人は交渉が苦手
交渉において、自分の考えをはっきりさせ自信を持ちながら相手に自分の思惑を悟られないような精神状態で臨むことは何より重要です。特に、日本人は交渉に対して、以下のような意識を持ちがちです。
- 周囲の人との間で波風を立てたくない
- 交渉術とはブラフなどで相手を騙したり欺いたりするような行為
- 面倒な駆け引きをするくらいなら交渉せずに済ませたい
- 交渉よりも察し合って進めていくのがスマートな大人のやり方
このような苦手意識、潜在意識があるからこそ、交渉に臨む心構えが大切になります。
2. 交渉前の5つの準備
では具体的に、どのようにマインドセットすれば、相手と対等に交渉できるのでしょうか?
それには、次の5つの“準備”が必要だと著者は言います。
自分の譲れないものは何であるか、明確にしておく
交渉前に大切な価値観や条件をはっきりさせておきます。すると自分の軸がしっかりし交渉中もブレなくなります。
例えば、仕事の依頼がきたときに、プライベートの時間確保を重視するのか、それ相応の評価や金銭的な対価を重視するのかを、自分の価値観に照らし合わせてはっきりさせておく。そうすることで、強い芯を持った精神状態で交渉ができるようになります。
その交渉で手に入るものの重要度を明確にしておく
交渉を始める前にその交渉で何が得られて手に入るものが、自分にとってどれだけ重要かを明確にしておきます。
例えば、オークションのような競売においても、交渉のマインドセットは必要です。
- 競り落としたいものがどれだけ大事であるか
- 金銭を支払う価値があるか
といった点をはっきりさせておかないと、途中からオークションで競り勝つこと自体が目的になってしまうことがあります。
特に、オークションのような交渉の場面では、脳からアドレナリンが出て冷静さを欠いてしまい、本来の目的をふと見失ってしまいがちです。だからこそ、交渉が始まる前に必ず交渉によって手に入るものが、自分にとってどれだけ意味のあるものかを明確にしておきましょう。
敵は交渉相手ではなく、生じている問題である
交渉で戦う相手は、人ではありません。話し合いはそこで生じている問題や悩みを解決するために行うもの。交渉相手は敵ではなく、問題や悩みを一緒に解決するための仲間でありパートナーです。
もし相手を敵視しながら交渉すると、どうしても感情が先に立ち、勝敗にこだわったり、相手を陥れようとしたりと、最良のゴールにたどり着きません。
「この人、自己主張ばかりでイライラする。どうにかして黙らせてやろう!」などと感化するのではなく、感情は切り離して、なんでこんなに自己主張ばっかりするんだろうと生じている問題にフォーカスをしましょう。
交渉相手を敵視せず、その場で議題になっている問題や悩みの解決だけに照準を合わせることが、ゴールへの近道です。
交渉の余地や素材はあると思えば必ず見つかる
まったく交渉の余地がなさそうな状況も、必ず糸口は見つかります。交渉はできると思えばできるし、できないと思えばできません。交渉の余地が十分にあったり、本当は交渉材料を持ち合わせているにも関わらず、それに気づけない人がたくさんいると著者は言います。
気づけないままでいた結果、相手の都合のいい形で交渉が落ち着いてしまうことも珍しくないです。それを防ぐためにも、交渉の余地は必ずある、相手の出してくるアイデアや選択肢が全てではないと察しておきましょう。
自分を交渉の達人であると思い込む
1971年、アメリカのスタンフォード大学で行われた有名な研究に「スタンフォード監獄実験」があります。これは、大学内にリアルな刑務所を作り、標準的な性格の若者21名を監視役11名、囚人約10名に分けて行われた実験です。
当初は罪悪感すら覚えていた看守役11名の言動は、日に日にエスカレートし、2週間を予定していた実験は、6日目で打ち切られることに。この実験は様々な点で物議を醸しましたが、少なくとも役割を演じきることで人は変わるという結果が得られました。
つまり、自分を交渉の達人という光に設定することで、交渉の達人のような振る舞いや思考ができるようになります。頭のいい交渉術を身につけるためには、まずはマインドセットから始めていきましょう。
3. 人はコストをかけたものを選ぶ
ここからは、交渉のセオリーについて、解説していきます。今までに、これだけお金と時間をかけてきたから今更中止にできない。これまで一生懸命尽くしてきたから、今更別れられない。このような感情から、物事の判断や意思決定をした経験はないでしょうか?
過去に費やしてきた時間お金行動などの物事にこだわって、何らかの判断や意思決定をすることをサンクコスト理論と言います。サンクコストは直訳すると、埋没費用。すでに支払ってしまったコストという意味です。ここでいうコストとは、金銭的なものだけでなく、費やした時間や労力なども含まれます。
この先のコストだけを考える
サンクコスト理論の問題点は、これまで費やしてきたコストを基準に意思決定することで、判断から合理性が欠けてしまう点。
収益性が上がらない新規事業の撤退の是非について、立ち上げ段階ですでに5,000万円以上のお金を投資し、すでに2年間も費やしたから今更撤退できない。もうしばらく続けてみよう。全く働かないダメ彼氏だけど、これまで5年間も尽くしてきたし、今更別れ話を切り出すのはちょっと…。合理的に判断すれば、事業からの撤退もダメ彼氏との別れ話も、この先のコストだけを考えて決めるべきです。
ちなみにこの先のコストとは、損失が増えるのか、どれくらいの期間をかければ黒字になるのか、彼氏は改心して働き出すのか、いつまで耐えるのかなどです。本来すでに費やしたコストは事業撤退や別れの判断とは関係ありませんが、人はサンクコストに囚われ、もったいないといった感情から、非合理的な判断をしてしまいます。
それとなくサンクコストを伝える
交渉においては、これだけの時間をかけて交渉してきたから、遠路はるばるここまで来たのだからなどのサンクコストが影響し、合理的な判断を邪魔しがちです。交渉の場面では、自分はサンクコストに陥らないようにしつつ、こちらからは巧みにサンクコスト理論を相手に仕掛け、話し合いを優位に展開させましょう。
交渉でサンクコスト理論を有効に活用するためのコツとしては、交渉前に相手がこれまでにかけたコストを割り出しておくことがあります。その上で、相手に対してあなたはこれだけのコストがかかっていますとそれとなく伝えます。
返報性の原理を使う
また自分のコストも割り出しておき、返報性の原理と合わせて使うことで、一層効果的です。私はこれだけのコストをあなたにかけているんですよ、この交渉にはこんなにもコストがかかっているんですといったことをしっかり相手に伝えましょう。
サンクコストはすでに埋没してしまっている分、気づきにくいもので、相手にとっても自分にとっても同じこと。両者のサンクコストを見つけ掘り起こし、交渉材料にしましょう。交渉の余地はあると思えば、必ずあるものです。
4. 人は与えてくれる人を選ぶ
これまでに、こんな経験をしたことはありませんか?
スーパーの食品コーナーで試食をした後、何か買わなくちゃ申し訳ないと思い、予定になかったものを買ってしまう。同じ取引条件の2社のどちらかを選ぶ際、打ち合わせの時に手土産でいつも何かしらスイーツをくれる担当者の会社を選びたくなる。
このように他者から恩恵を受けたら、似たような形でそのお返しをしなくてはならないというような心理を返報性の原理と言います。この原理に従うと人を与えてくれる人を選ぶつまり先に相手に与えることで、相手から選ばれやすくなります。
また、与えるものには食品や化粧品手土産など、物質的なものだけでなく、相談に乗る仕事を手伝うなどの行為も含まれます。恩恵となるものも金銭的な価値が明確なものだけでなく、笑顔で接する情報を提供する。何らかの機会を与えてあげるなど、様々な種類があります。
率先して貸しをつくる
例えば、自分のSNSで相手の商品サービスを紹介してあげても、返報性の原理は働きます。自分の時間や労力はもちろんのこと、自分の信用も使っていますよね。相手は〇〇さんはこんなにもしてくれた、自分も何かお返ししないとと感じ、その後に交渉があった場合はこちらの提案する条件を受け入れてくれる可能性が一気に高まります。
返報性の原理を交渉で活かす最大のコツは、自分から率先して貸しを作りに行くこと。交渉前に何かをあげたりすることももちろん効果的ですが、交渉中に何か物を渡したりすることは難しいでしょう。そのため、早い段階で譲歩することが大切です。
自分にとっては大事でないポイントを譲る
自ら条件面を譲るとして、自分にとって大事な条件をいきなり譲歩する必要はありません。自分にとっては大して重要でないけれど、相手にとっては重要なポイントを探しましょう。
例えば、著者は学校など的な教育機関で講演をする際の条件で、公演料を重視していません。予算がなかなか取れないことを知っているからです。そこで、依頼する側にとっては頭の痛い問題である公演料の少なさ、つまり相手にとっては重要な条件についてはすぐに譲歩してしまいます。
すると、著者が大事にしたい講演のテーマについては意見が通るようになるそうです。もし、自分が譲歩するものが何もなければ相手の話をよく聞いてあげるだけでも、返報性の原理は働きます。基本的に人は自分の話をするのが大好きな生き物。相手は自分の話をちゃんと聞いてくれたことを、恩義を感じます。
交渉中はたとえ取るに足らない話の内容だったとしても、メモを取る姿をアピールするなど、相手の話をよく聞く姿勢を示しておくことが重要です。これは1円も発生せず相手に恩義を与えることができる行為なので、交渉中でぜひ意識的にやってみましょう。
5. 人はリスクをコントロールしてくれる人を選ぶ
プロスペクト理論
ここでひとつ、問題です。コインを投げて表が出れば2,000円、裏が出たら1,500円支払わなければならないゲームがあったとします。このゲームに参加したいですか?
期待値は+250円、つまりゲームに参加した方が得する可能性が高いです。ところが、行動経済学の研究によると多くの人はゲームに参加しません。合理的な得する選択をしないのです。
その原因は、私たちは利益と損失の可能性を比較するときに、損失することを回避したいと感じるからです。このように、得することへの期待や、得をした嬉しさよりも損する怖さや後悔を大きく感じる感じ方の不思議をまとめた理論を、プロスペクト理論と呼びます。
同じ金額分を得た時の喜びの感情よりも、損した時のがっかりを強く感じます。だからこそ、非合理的でも損を避けるような選択行動をしてしまいがちです。これを交渉で活かすコツとしては、相手に条件を提示するとき得られるメリットよりも、ユニットが避けられることをアピールすることが挙げられます。
損しないことをアピールする
例えば、経営者向けにシステム導入を検討してもらう交渉で考えてみましょう。システム導入による利得と防げる損失の額がともに1,000万円程度であれば、売り上げが伸びることよりも人材採用を抑えることをアピールします。
「このシステムを導入することで、御社社員の皆様のやる気が高まります結果、売上が1,000万円伸びたという事例があります。」
とアピールするのではなく、
「このシステムを導入することで、御社社員の皆様の離職率が下がります。結果、人材採用コスト1,000万円抑えることができたという事例があります。」
とアプローチをする。特に、利得と損失の金額がほとんど同じなる場合に有効です。逆に、メリットをアピールした方が効果的になるのは、金額ベースで利得の額が損得の1.5~2.5倍程度になってからという研究報告もあります。
基本的には「得しますよ」と言うよりも、「損しませんよ」という選択肢の方が交渉を優位にしてくれます。本書では、細かい交渉のテクニックについても書かれているので。ぜひ本書を手に取って読んでみてください。
今回紹介した、犬塚壮志さんの書籍「頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術」ついて紹介できていない部分は多く、おすすめの本ですので、ぜひ読んでみてください!