多くの人が驚くと思いますが、脳にとって一番良いエクササイズはクロスワードパズルでもナンプレでも、あなたのスマホのアプリでもありません。
体を動かすエクササイズなのです。
この記事では、アンデシュ・ハンセンさんの「最強脳 『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業」を取り上げます。
本書は、自分の能力を上げたい、脳の地頭を鍛えたいという方におすすめです。
著者が本書の前身である「スマホ脳」を執筆した際に、日本で一番質問されたのが「これからどうすればいいの?」でした。
また、子育て世帯からは特に、「うちの子をどうすればいいのでしょうか?」「うちの子の脳に一番いいことは何でしょうか?」という質問が多く寄せられたそうです。
本書は、それらの答えが書かれており、脳の取扱説明書として分かりやすく、かつ科学的研究に基づいた内容です。
本当の脳の鍛え方、この機会に学んでいきましょう!
1. 脳を成長するためにやるべきこと
まずは、脳は変えられるという点について、解説していきます。
脳の成長は止まることがありません。脳はいつでも変えることができるし、成長させることができます。
例えば、ゲームが上手くなったり、集中力を上げたりすることができます。
今より幸せな気分になり心も落ち着く、賢く発想力豊かに、おまけに記憶力も良くなり自信もつきます。しかし、鍛えるのは簡単なことではありません。
自分をレベルアップさせるためには、難しくて大変なことを色々とやる必要があります。
脳を成長させるためにやるべきことは、体を動かすことです。
体を鍛えると脳が強くなる
運動は万能です。
まず大切なのは、頭の中で何が起きるのか理解すること。体を動かすと私たちの脳の中で様々な変化が起きます。
すぐに起きる変化やしばらく時間をかけてやっと起きる変化のどれもが、私たちにとって良い変化ばかりです。
なぜ体を鍛えると脳が強くなるのでしょうか?
脳を鍛えるためには、脳以外の場所を鍛える必要があります。
研究によれば体を動かしたりエクササイズをしたりする方が記憶トレーニングやナンプレ、クロスワードパズルなどよりも脳に良い効果があるそうです。
不思議なことに、体を動かすことで最も強化される部分が脳です。詳しくみていきましょう。
2. 脳の中で起きていること
脳は考えたり感じたり、体の動きをコントロールしたりしてします。体がちゃんと動くように、一日中見張っているのが脳です。
試しに、両手をギュッと握って、左右のこぶしをくっつけてみてください。
私たちの脳は、せいぜいその程度の大きさです。
その中に、生まれてから経験したこと感じたことが、全て詰まっています。性格や個性も含め、今まで学んだことすべてです。
脳の中では1秒ごとに、何億という変化が起きていますが、脳の各部位が何をしているのか、なぜそうなるのかが分かってきたのは、ここ30~40年のこと。
中で最も大切なのが、脳にはどんどん変わってゆける力があるという発見です。
運動で脳細胞のシグナルを強くする
私たちの脳は多数の脳細胞でできていて、様々な役割を担います。
例えば、目で見ているものを理解する細胞、物を想像する専門の細胞など、何かを考えたり感じたりしている時に脳の各部分にある脳細胞が、化学物質を使って互いにシグナルを送りながら連携して働いています。
翻って、なぜ脳を成長させるために運動が必要なのかといえば、運動はこれら脳の働きを助けてくれるからです。運動することで、より多くのシグナルが送られるということです。
そして、正しい指令が正しい場所に届くことで、脳が効率よく機能するようになります。それが自分をレベルアップさせるための基本になります。
まずは、自分の脳をもっとレベルアップさせられるということ、そのために最も良い方法は体を動かすことだということだけ理解してください。
3. 脳と運動の役割
ここからは、脳と運動の関係について、解説していきます。
仮に、脳の中には地下鉄が何本も通っていると想像してください。
地下鉄は様々な方向に走っていき、どの駅でも人が乗り降りしています。仕事に行く人、学校に行く人、友達に会いに行く人など。
それを人の体に置き換えると、各駅が脳細胞、地下鉄の車両がシグナル、乗客はメッセージだと考えられます。
メッセージは脳からのシグナルがきっかけとなり、体中の細胞にこうしなさいと伝えられる指令のこと。
例えば、右手の指を動かしたいと思ったら、右手の指を担当する脳細胞の駅までシグナルの地下鉄が走り、乗客が右手の指を動かしてくださいというメッセージを伝える。
運動は地下鉄運行の強化
この例に当てはめると、トレーニングやエクササイズなどの運動は、何千人もの地下鉄の運行職員に働いてもらうようなもの。
そして地下鉄の乗客たちは、あっちの筋肉を縮めて、こっち側に体を傾けてと、体のあちこちにメッセージを届きます。
また、地下鉄職員は乗客と同じ行動は取りません。地下鉄職員は壊れた設備を直したり、新しいレールを敷いたり、スピードの早い電車を開発したり、必要なところに新しい駅を作ったりします。
このように地下鉄を運行しながら、街は変化し続けます。地下鉄が効率的に走ることで、住んでいる人たちが仕事に行ったり、友達と遊んだりしやすくなる。運動にはそんな効果があるのです。
4. 脳がくれるご褒美
また、脳が成長すると、様々な良いことが起こります。
例えば、もっと幸せな自分になるといったことです。私たちの周りには、いつもご機嫌な人もいれば怒りっぽい人もいます。
しかし、その人たちがいつでもそうかというと、そうではありません。私たちは車両の性格を持ち合わせていて、それ以外にも様々な性格を持っています。
そのバランスはそれぞれ違い、どういう組み合わせなのかも人それぞれです。では、悲しい時や幸せな時私たちの脳の中では何が起きているのでしょうか?
抗うのが難しい脳内物質
脳には感情に関係する、ご褒美をくれる物質があります。その一つがドーパミン。
例えば、美味しいものを食べたり友達と会ったりすると、ドーパミンの量が増えて幸せな気分になり満足を感じます。自分にとって良いことをすると、脳がご褒美をくれるのです。
私たちは、ドーパミンが大好きでいくらでも欲しくなります。そのおかげで、自分にとって良いことをしてしまう。しかし、全く無駄なことをしてしまう時もあります。
例えば、本当は他にやらなければいけないことがいくらでもあるのに、何時間もスマホをいじってしまうのもドーパミンのせいです。私たちはSNSで“いいね”がつくたびに、小さなドーパミンのご褒美がもらえてしまいます。
これは抗うことが難しく、脳がスマホのような技術の進化に追いついていない結果です。
そのため、体にいいことは何もしていないのに、私たちは夢中になってしまう。では体に悪くないドーパミンの出し方はないのでしょうか?
運動でドーパミンを出すメリット
もちろんあります。体を動かすことです。
しっかり体を動かす運動した後には、ドーパミンが出ますが、それ以外にも幸せを感じるエンドルフィンという物質も出ます。エンドルフィンには痛み止めの作用もあるので、運動した後に出るのは好都合です。
なぜ運動するとドーパミンが出るのかというと、人が食べ物を探したり狩りをしていた頃はドーパミンがご褒美だったからだと考えられます。
食べ物を探したり狩りをしたりもっと良い住処を探して移動したりするためには、体を動かす必要があります。
そのため、脳はその人が運動すると、良いことをしたとご褒美をくれるように進化したのです。
また、運動の後にドーパミンの方が、スマホからもらえるよりずっと量が多いということが分かっています。
運動で幸せな気分になるには週3回、最低30分ごとの運動をしましょう。その間ずっと心臓がドキドキして、なるべく何度も息が上がるようにするのが大事です。
最初はバスや電車で学校に行く代わりに、できるだけ歩いていくなど、すでにやっていることややった方がいいと思っていることから始めてみましょう。
5~6週間ほどやれば、違いが感じられるはずです。
5. ゲームでレベルアップする
最後に、ゲームやスマホは敵か?について解説します。
まずはゲームについて。
例えば、運動をすることでゲームだって上手くなることが可能です。一体どういうことでしょうか?
ゲームをしている人ならわかると思いですが、優秀なゲーマープロのゲーマーになるのは簡単なことではありません。常人はあるレベルまでは行けても、そこで止まってしまうのが普通。
しかし、そこから能力を伸ばす方法もあります。
ゲームやeスポーツでレベルアップするには、指を早く動かせる以外にどんな能力が必要でしょうか?
- フロー状態に入るくらい夢中になれる集中力
- 賢い解決策を思いつくための発想力
- 同じ間違いを何度もしない記憶力
- 状況を前向きに明るく捉える思考力
などがありそうです。
プロゲーマーはF1レーサー?
これらを踏まえ、ゲームにも運動が関係あると聞くと、大げさだと思う人もいるかもしれませんが、ドイツ国立ケルン体育大学のインゴ・フローベージュ教授の調査によると、プロゲーマーの心臓は1分間に160~180回も脈打っているそうです。
静かに座っている時で1分間に100回。また、プロゲーマーの体は、F1レーサーと同じくらいのストレスホルモンであるコルチゾールが出ています。
これは体も心もF1レーサー並みのスピードで、作戦通り動かなくてはいけないということになります。
また、プロのゲーマーは1日に少なくとも8時間は練習しています。心も体も負担が大きいはずです。今ではeスポーツに高額の賞金がかかるようになり、小さなズルやごまかしもできません。
つまり、高いレベルを目指すならゲームのトレーニングだけをしていては足りないということで、体のトレーニングもする必要があります。
12分のジョギングで集中力が高まる
他にも、10歳の子供たちを調査した研究では、4分間運動しただけで、その後1時間の集中力が高まったという結果があります。
別の調査では、12分のジョギングをすると、特に視覚的な集中力が高まりました。
これにより、ゲームの画面を見つめている時に目に見えたものを捉え、それが何なのかを素早く理解することができます。
また、12分程度のジョギングですが、長くやるほど効果は上がり、数ヶ月続けると集中力UPの効果はさらに上がります。
さらに、毎日体を動かしている子供や若者の方が、ストレスに強いことがわかっています。ストレスに強い方がゲーマーとしても、当然有利。
その他にも、同時にいろいろなことができるマルチタスク能力や、情報を整理して計画し他のことに気を散らさない計画実行能力など、様々な能力も運動によって上がることが分かっています。
ちなみに、中学1年生を調査したところ、とても簡単なテクニックを使うだけで、テストの成績が10%も上がることが分かりました。そのテクニックとは、座らずに立ってテストを受けること。
しかし、この10%UPがゲームの世界では、結果に大きな影響を与えます。運動によって、実力には確実に差は出てくるのです。
6. スマホの餌食
突然ですが想像してみてください。
ワクワクするようなアイデアを思いつき、それを書き留めようと机に向かったとします。しかしその時、誰かがお菓子とジュースと漫画を渡してくれました。
「どうしても食べたくなった時は、お菓子を1個だけ食べていいよ。漫画は本当に休憩したくなった時だけ読んでもいいよ。」
その人が部屋から出て行った後、あなたはさっきまで集中しようとしていたのに、今はお菓子と漫画を見つめています。
さてこの後すぐに、ノートにアイディアを書き留めて、どうしても休憩が必要になるまで集中できるでしょうか?
なぜスマホは手元に置いてしまうのか?
可能性が高いのは、アイディアのことを忘れてしまい、お菓子を食べながら何時間も漫画を読んでしまうこと。
このように想像するだけで、集中することは難しいとわかります。しかし、お菓子と漫画をスマホにしたらどうでしょうか?
漫画は近くに置くと集中できないと分かっているのに、スマホはすぐそばに置いたままにして、しょっちゅう着信音が鳴ってもしっかり集中できると思っている人が大勢います。
先ほど説明した通り、ご褒美のシステムは私たちにいいことをさせるためにあります。
しかし、今の生活のために作られたシステムではないため、ろくなことをしていないのにご褒美をもらえてしまうことがあります。お菓子やジュースや漫画が良い例です。
そして、それらと同じように、脳のご褒美システムを利用しているのがスマホです。
10代はドーパミンに弱い
タブレットやパソコンなど、スクリーンがついていて着信音のなるデバイスも同様。今の子どもや若者は、これらのデバイスの格好の餌食になっています。
なぜ子どもや若者に限定しているかというと、10代の子どもの脳はご褒美に非常に弱いからです。
私たちの脳は生きている間ずっと成長を続けます。よく脳は後ろから前に向かって成長すると言われますが、一番前の方にある前頭葉が完成するのは25歳くらいになってからです。
前頭葉は、衝動を抑えたりブレーキをかけたりする脳の部分で、人との交流において大切な役割を果たします。25歳より若い人たちは、衝動のコントロールがまだあまりうまくできません。
しかし、ドーパミンを放出する脳内システムなどは、子どもの頃にはすでに機能していて、10代の頃は活発すぎるくらいです。ブレーキはまだ作っている最中なのに、今すぐ何かをしたいという衝動は、立派に機能している。
これこそが、子供や若者がスマホの餌食になってしまう理由です。
ちなみに脳がいいと思うことをすると、ご褒美がもらえると言いましたが、より多くのドーパミンが出るのは、実際に何かを手に入れた時ではなく、もうすぐ手に入るかもと思った時です。ここも、押さえておきたいポイントです。
長期的な報酬
ここまでの話を聞くと、スマホやタブレットパソコンが敵のように思えてきてしまうかもしれませんが、もちろんそうではありません。デジタルデバイスは便利で勉強にもなり、楽しく過ごさせてくれます。すぐに調べ物ができるのもいいです。
つまり、スマホの良い面を取り入れながらドーパミンの罠にはまらないようにすることが大切です。今の子どもたちは、すぐにご褒美をもらうことに慣れてしまっています。
楽しくなるまで、つまらない時間を待つことができません。これは非常にもったいないことです。
何でも上手くなりたければ、我慢強く練習する必要があります。地道に積み重ねて上手くなってからやっと楽しくなり、そこでご褒美がもらえるのです。
そこからさらに上手くなりたいという気持ちも生まれるでしょう。この経験の少ない若者は、スマホの餌食となってしまうのです。
今回紹介した、アンデシュ・ハンセンさんの「最強脳 『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業」についてまだまだ紹介できていない部分が多いです。おすすめの本ですのでぜひ読んでみてください!