みなさんは、見えない未来への不安はありませんか?
この記事では、漠然とした未来に対する答えを示してくれる、成毛眞(なるけ まこと)さんのベストセラー「2040年の未来予測」を紹介します。成毛さんは、マイクロソフト日本法人第2代代表取締役社長を務めたこともある、ITやテクノロジーに非常に詳しい方です。
生き残るため、幸せになるためには、環境に適応しなければならない。生き残るのは優秀な人ではなく、環境に適用した人であることは歴史が証明している。
環境に適応するには、環境を知ることが不可欠だ。最悪の事態を想定しながら未来を描いておけば、あなたに待ち受ける未来は何も知らずにいた時とは違ってくるはずだ。
ーー成毛眞
成毛さんは、こうした強いメッセージを掲げ、私たちに未来を知ることの重要性を説いています。あなたの未来にどのような可能性とリスクがあるのかを、この機会に理解していきましょう!
1. スマホが瞬く間に変えた日常
2021年現在、電車の中を見渡してもゲーム機や本を持ち歩いている人は、めっきり見なくなりましたよね。スマートフォンが普及したためです。日本でAppleのiPhoneが発売されたのは、2008年7月。今からたった13年前は、スマホがない景色が日常だったのです。発売当初は、「こんなおもちゃみたいなもの、誰も使わねぇだろ!」とか、「今の携帯電話で十分じゃないか?」という意見がありました。新しいテクノロジーが出たとき、世の中の大多数は、まず懐疑的もしくは否定的です。
これと同じ話については、以前「2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ」を取り上げたときにも話題にしましたが、テクノロジーが大衆化するにはステージがあり、それが世に出た頃は懐疑的になるのが常です。
過去の例でいえば、19世紀末にカメラ、20世紀初頭に映画、20世紀終わりにテレビゲームが登場した際は、いずれも当初は受け入れられませんでした。そして、新しいテクノロジーのありがたみがわかったときには、すでに陳腐化しています。テクノロジーだけでなく、様々な事柄は気づいたときには手遅れになっている場合が大半です。
一方で日本には、今でも気づいている確実にやってくる未来があります。人口やGDP(国内総生産)も増えず、老人ばかりの国になるということです。こうした確実な未来に備えて、取り返しのつかない事態にならないためにも、テクノロジーの未来を知り、活用することが大切になってきます。
2. 6Gがもたらす世界観
これまでの10年よりも、これからの10年の方が、世界は大きく速く変化します。
これまでの10年間の変化は、情報通信の大容量・高速化によってもたらされました。パソコンやスマホで、ストレスなく動画を見られるようになりましたし、家に居ながらビデオ会議だってできるようになりましたよね。そしてその恩恵は、今後ますます大きくなります。
例えば、2030年ごろには第6世代移動通信システム“6G(シックス・ジー)”が始まると言われています。これは、ダウンロードに5分かかっていた2時間映画が、0.5秒もかからなくなる世界です。6Gの通信環境も急に整うわけではありませんが、2030年ごろから登場するはずなので、2040年には当たり前になっている可能性が高いです。遠隔手術が可能になる、自動運転車が普及するなど色々言われていますが、私たちの細かな日常も変わっていきます。暮らしのあらゆる機器がインターネットにつながることで、“自分が入りたいときに自動で沸くお風呂”、“前に立つだけで服を試着したり、健康診断できたりする鏡”、といったものも実用化されているでしょう。
さらに著者はこの頃には、自動運転の空飛ぶ車や、ドローンでの配送も世界では当たり前になっているはずだと言います。空飛ぶ車の事業は、「2030年」でも紹介しましたが、世界中の名だたる企業が開発に参入しています。
アメリカのモルガンスタンレーは、2040年までに空飛ぶ車の全世界の市場規模が1兆5000億ドル、日本円にして約150兆円に成長し、世界全体の国内総生産の1.2%を占めると予測しています。
3. 誰もが名医の治療を受けられる
医療分野では今後、AI(人工知能)による医療技術が成長すると言われています。
医師は知識に加え、長年の診察経験に基づいて病気の原因を特定しますが、1人の医師が一生に診察できる患者の数には限りがあります。一方、AIにその経験を学ばせることができれば、患者と同世代のデータを集めたり、過去の病歴を集めたりしながら、精度の高い診療が誰でも受けることができるようになります。
ちなみに画像診断の世界では、すでにAIが人間を凌駕しています。X線写真やCTスキャン、MRI(磁気共鳴画像装置)、超音波画像などの診断の精度は、人間がどうあがいてもAIに勝てません。その先には、診察の際のしぐさや声色、表情からも定量的に解析できるようになっているかもしれません。
さらに2040年は、これまでなら重篤化していた手の施しようがなかった疾患も治る可能性が飛躍的に高まります。なぜなら、遺伝子治療が活発になるからです。遺伝子を分析すると、将来どんな病気にかかる可能性があるのか、どんな体質なのかがわかるようになってきたというのは、すでにご存じの方もいるかと思います。
4. クリスパー・キャス9の衝撃
遺伝子治療の発達により、2040年にはガンなど疾患特有の遺伝子の変容を、AIが早期に見つけてくれて治療できることが、当たり前になっているはずです。そしてそれは、遺伝子を自在に切り貼りする、ゲノム編集技術が可能にします。
この技術は、人間を構成するのに必要な遺伝子群であるゲノムを改変するもので、1953年にDNA構造が明らかになった時点で、この技術の構想はできていました。細胞内の病変部分と、正常な遺伝子を入れ替えることができる夢のような治療法です。しかし、必ずしも狙って部分を改変できず、膨大な時間と手間がかかり、正確性にも長年問題がありました。
そこで2012年に登場したのが、クリスパー・キャス9(ナイン)という、今や代表的な遺伝子編集技術です。これにより、簡単に改編したい遺伝子情報の場所を特定し、削除したり置き換えたりすることができるようになってきました。現在世界中の研究室で、当たり前のように遺伝子を編集されたマウスやハエなどが使われているほどに、遺伝子編集は身近な技術になったのです。
5. 原因不明の難病が治るかもしれない
さらに注目するべきは、再生医療です。再生医療の発達により、パーキンソン病やアルツハイマー病が治せるかもしれないです。
人間の体というのは、約37兆の細胞からできていて、それぞれの細胞の役割は最初から決まっています。つまり、心臓の細胞は心臓にしかなれないし、肺の細胞は肺にしかなることができません。しかしiPS細胞の登場により、治療に必要な細胞を再生できる可能性が出てきました。iPS細胞は、例えば脊髄損傷のような、決定的な治療法がない怪我にも光を射しています。
iPS細胞は、すでに脊髄損傷し手足が麻痺したサルに細胞を移植して、一定の成果が出ています。また、この再生医療により、難病の原因解明も飛躍的に進んでいます。通常、パーキンソン病やアルツハイマー病などの発生の原因を調べるためには、生きた神経細胞が必要です。患者の脳から取り出すのは難しく、原因解明が進まなかったのですが、iPS細胞で患者の別の部分の細胞から神経の細胞を作り、研究することで、難病の仕組みや治療法の発見が期待されているのです。
さて後編では、2040年の経済がどうなっているのか、について内容を紹介してきます。本書、成毛眞(なるけ まこと)さんの「2040年の未来予測」には、この記事では紹介しきれない内容が詰まっています。興味のある方は、ぜひ手にとってみてください!
出典:https://www.sankei.com/ 成毛眞(なるけ まこと)
書評サイト「HONZ」代表。
アスキーなどを経て1986年にマイクロソフト株式会社入社。
1991年よりマイクロソフト代表取締役社長。
2000年に退社後、同年5月に投資コンサルティング会社インスパイアを設立。
元早稲田大学ビジネススクール客員教授。