欲望や先入観によって、人はたやすく誘導されます。
本書では、海外の心理実験の結果をもとに社会から発信されたメッセージに隠された真の意味を解明していきたいと思います。
この記事では、中野明さんの書籍「図解影響力の心理学」を紹介します。本書は、
- もっと賢くなりたい
- 心理学に興味がある
- 影響力の心理について知りたい
という方におすすめです。突然ですが、次の質問に1秒で直感的に答えてみてください。
- A:無料でアマゾンギフト券1,000円がもらえる
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どちらがお得だと思いますか?
少し論理的に考えれば、差し引き1,300円の価値がある“B”の方がお得です。しかし、瞬時に選ぶ場合、無料という言葉が目に入り、直感で“A”を選んだ人も多いのではないでしょうか?
このように、私たちの身近な会話や日常の取引の中に、人をうまく操作しようとする力が働いています。では、これらの判断を間違わないためにはどうすればいいのか?
本書では、世界のビジネスで使われている心理操作の仕組みや罠を紹介しています。これを読むことで、他人の誘導に簡単に騙されなくなり、かつ潜在意識を操る心理学も学ぶことができます。
私たちの不合理な意思決定にはパターンがあり、悪意のある誘導から身を守るためには、人が特定の状況下で意思決定をする際に取る一般的な傾向やパターンについて知っておく必要があります。
この記事で、それらを一挙に学んでいきましょう!
1. 不合理の意思決定にはパターンがある
人間には、2種類の意思決定回路があります。
一つは直感に委ねて即座に判断する意思決定回路、もう一つは分析を重ねて論理的に判断する意思決定回路です。
心理学者・行動経済学者で、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン博士は、前者を「システム1」、後者を「システム2」と呼びました。
例えば、自動車で信号待ちをしているとき、青になってアクセルを踏むのはシステム1の直感的な判断です。
これをシステム2で論理的に思考したうえで行動していたら、後続車からクラクションを鳴らされてしまいます。
しかし、素早いシステム1には、特定の状況下で間違いを起こす傾向あります。
この間違いを、脳内でシステム2によって修正されないときに、人は間違った判断をしてしまいます。
私たちの不合理な意思決定にはパターンがあり、世の中にはそれをうまく利用して利益を得ようとする人が存在します。
悪意のある誘導には、自分の判断でその行為から身を守っていく必要があります。
つまり、私たちは人が特定の状況下の一般的な傾向やパターンについて知っておく必要があるということです。
2. 相手にイエスと言わせる6つの戦略カテゴリー
相手のリクエストに対して、あまり深く考えずイエスと言った経験はありませんか?
あるという方は、後から請け負ったことが面倒くさくなったり、後悔した経験もあるかもしれません。
アメリカの社会心理学者のロバート・チャーリーは、相手にイエスと言わせるために使う戦術には、およそ6つのカテゴリーがあると主張します。
- 返報性:他人から何かをもらうとお返しがしたくなる
- 一貫性:自分の信念を表明したとき、それに従って行動する
- 社会的証明:ある行動を取る人が多いとき、それを正しいと思う
- 好意:自分に好意的な人に対して、好意を持ちやすい
- 権威:権威のあるものにひれ伏しやすい
- 希少性:希少なものを重要視する
の6つです。
これらは単独ではなく、複数の要素が組み合わさって機能しています。ついイエスと言ってしまいそうな傾向だらけですよね。
6つのうち最も重要な原理
この中で、最重要な原理が“返答性”です。返報性のルールは、先ほども言ったように人が他人から何か恩恵を受けると、何か似たような形で解消しなくてはならないと考える傾向のこと。
チャルディーニ博士によると、返報性のルールが働く理由は、大きく二つ。一つは、親切を受けたままだと人は不快な気分になるから。
もう一つは、お返しを怠ると、社会集団のメンバーから嫌われる可能性が高まるからです。
つまり、不快な気分と自分の評判が悪くなる可能性が組み合わさって、返報性のルールが機能するのです。これは自分の嫌いな人であっても、例外ではありません。
また、この両者が協力に組み合わさると受け取ったもの以上のものを、返してしまったりすることもあるといいます。
誰かが私たちからイエスを引き出したいと考えたとき、返報性のルールが悪用される可能性もあります。
3. 損失を回避したいがために正しい判断ができなくなる
人は損をする事が大嫌いです。
それを避けようとした結果、正しくない判断をしてしまうことがあります。
この現象を理解するためにまず押さえておきたいのは、人は何を所有すると所有していなかった時よりも、その価値を高く評価するということ。
例えば、特定のブランドを熱烈に支持する人は、そのブランドの商品を所有していること自体が、熱烈な支持に少なからず影響していると考えられます。
このように自分の所有物を高く評価することを、保有効果と言います。
保有効果はものの所有だけではなく、人が生活する現在の状況にも適応できます。
例えば、私たちの現在の生活状況を所有していると考えてみましょう。
すると、その生活状況に保有効果が働き、人は現在の生活状況の価値を高く評価値がちで、結果として、人は現状維持を好む傾向が強まります。
このような現状維持を好む傾向を、現状維持バイアスと呼びます。この現状維持バイアスの背景に、保有効果があります。
では、保有効果はどういった理由で生じるのでしょうか?
損失回避性
最有力視されているのは、損失回避性です。
損失回避とは、損を極力回避しようとする人間の傾向のこと。
心理学者で行動経済学者でもある、ダニエル・カーネマンと エイモス・ベルスキーは1979年に「プロスペクト理論 リスク下での意思決定分析」という論文で、人は同じ規模の利得と損失の場合、損失の方を約2倍ほど重く受け止めるほど、現状も手放すことを損失と考え、大きな心的負担がかかります。
しかも、もし手放しでも現状よりもよくなる保証はありません。このことから、損失回避性が強力に働いて、現状維持バイアスが生じるのです。
つまり、損が大嫌いな人間の特性そのものが保有効果、現状維持バイアスを生み出しているということです。損は私たちの判断に、大きな影響を与えています。
4. フレーミングの違いによって思わずイエスと言ってしまう
次はフレーミング(表現の枠組み)について、解説していきます。
アメリカの心理学者ロバート・チャルディーニは、学生男女72名を対象にボランティアの参加者を募る実験を行いました。提案方法は以下の3種類で、被験者の提案の受け入れ割合を出しています。
- A:非行少年のグループを動物園に連れて行くボランティアに参加してほしいと提案
- B:少なくとも2年間、毎週2時間、非行少年のカウンセラーを務めてほしいと提案
→この提案を断られた場合、Aを提案 - C:AとBの2つを同時に提示し、このどちらかに参加してほしいと提案
すると最終的に承諾した割合は、
- A:16.7%
- B:50%
- C:25%
となりました。AとBを比べると、Bの方が約3倍も学生が提案を受け入れています。一体なぜでしょうか?
譲歩という贈り物
Aの提案は、本来お願いしたいことをシンプルに頼んでいます。一方で、Bでは本来したいお願いより先に、誰もが否定するような大きな要求をしています。
これは、拒否されるような提案から本来の提案へとフレーミングを変更したということ。
チャルディー二氏はこの結果の背景には、返報性のルールが働いていると主張しています。
お返しをしようとする返報性のルールには則っていないような気がしますが、実はこの実験では巧妙な形で被験者に贈り物をしています。
それは、譲歩という贈り物です。
受け入れがたい提案を先にすることで、本来の提案を小さな提案に感じさせ、結果として、相手に譲歩してくれたと思わせることができ、小さな提案の方を受け入れた人が増えたということです。
いかがでしょうか?
フレーミングの効果は絶大だということが、よく理解できたと思います。
5. 比較対象が不適切だと、適切な判断することができない
ここからは、トレード・オフ・コントラストを紹介します。
私たちは何かの価値を判断するとき、何らかの比較対象を基準にします。
例えば、買い物をする時などたくさんの種類を比較していいと思ったものを選択しますよね。
しかし、比較対象が不適切だと適切な判断をすることができません。この状況を、トレード・オフ・コントラストと呼びます。
例を見てみましょう。
ある実験で、被験者に2つのグループに分かれてもらい、電子レンジの選択を行ってもらいました。
片方のグループには、メーカーの異なる2種類の電子レンジから、どちらを購入するか選んでもらいます。電子レンジはいずれも通常価格から1/3値引きされています。
結果は、57%と43%大きな違いは出ませんでした。比較対象の違いがあまり分からず、適切に判断できなかった現れです。
もう片方のグレープには、先ほどの2つの電子レンジに加えて、片方の電子レンジと同じメーカーで10%だけ値引きした商品を選択肢に加えました。
結果は10%だけ値引きした電子レンジは、13%とあまり人気がありませんでしたが、この電子レンジと同じメーカーの電子レンジの人気が60%に増したのです。
適切なおとりを作る
つまり、おとりを作ることで、判断に適切な材料を増やし、トレード・オフ・コントラストを解消したのです。
一方で、判断材料のないメーカーは選ばれませんでした。
このように比較対象を設ければ、比較的簡単に選択を誘導することができます。
決して選択肢は多ければ多いほどいいというわけではありません。選択肢があまりにも多くなると、人はどれが良い選択なのか分からなくなり、選ばないという判断をするようになります。
ここにも損失回避性が働いています。
6. 人間の直感的な意思決定回路は、確率について考えるのは苦手
最後に、論理のトリックを紹介します。
これは、時に大きな間違った判断にもつながるため、理解しておくべき内容です。
ここで、一つの問題を出します。
ある町に2つの病院があります。大きな病院では毎日45人、小さな病院では毎日15人の赤ちゃんが生まれます。
赤ちゃんが男の子である確率は全体では50%ですが、実際の割合は日によって異なります。
そこで、両方の病院で1年間にわたって男の子が生まれた割合が60%以上だった日を記録しました。その日数はどちらの病院のほうが多かったでしょうか?
- A:大きな病院
- B:小さな病院
- C:どちらも同じ
いかがですか?
ちなみにこの問題を95人の大学生に提示したところ、Cと答えた人が56%で多数を占めたそうです。しかし、Cと判断した人はあるミスを犯しています。
それは、「少数の法則」の無視です。
少数の法則
少数の法則とは、母集団の数が少ないと偏った傾向が出やすくなるというもの。
例えば、コインを3回だけ投げた場合、裏ばかり出るなど偏った結果になる場合もあります。投げる回数をたくさん増やしていけば、表と裏の出る回数は次第に同じに近づいていきます。
これは、大数の法則と呼ばれ、数が多ければ平均へと収まっていきます。
先ほどの2つの病院のうち、小さい病院の方が母集団が少なく、少数の法則により小さな病院は、大きな病院より偏った結果が出る可能性は高くなります。
つまり、答えとしてはBの小さな病院が当たりになります。このように、人は確率を考えるのが得意ではなく、少数の法則を無視する傾向が強いです。
その分、可能性を評価する傾向が強くなるため、注意が必要です。
今回紹介した、中野明さんの書籍「図解影響力の心理学」についてまだまだ紹介できていない部分が多いです。おすすめの本ですので、ぜひ読んでみてください!