よく直感は当たりますか?
散々悩んだあげく、最初の直感を信じることはよくありますよね。そんな意思決定について、「直感 = ファスト」と「論理的思考 = スロー」に分けて解説しているのが、ダニエル・カーネマン博士の名著「ファスト&スロー」です。心理学の世界では、
- ファストな思考を「システム1」
- スローな思考を「システム2」
と呼ぶそうです。この記事では、システム1とシステム2を簡単に説明したうえで、システム1の気をつけるべき3つの短所について紹介します。直感の仕組みを理解して、上手に活用していきましょう!
1. ファスト&スロー、それぞれの特徴
まずは、ファストな思考「システム1」について。システム1とは、自動的で努力を必要としない、高速な思考のこと。例えば、1+1の答えや、人の表情から感情を察するなどのような、簡単で直感的な思考がこれに当たります。
それに対して、スローな思考「システム2」は、17×24を計算する、難しい文章を理解するというような複雑な思考や論理的な思考のことです。システム2は努力を必要とするので、1日のうちにたくさん使うと、脳が疲れて思考の精度が落ちていきます。そのため、私たちの脳はなるべく「システム2」は温存し、「システム1」で思考したがります。
つまり、私たち人間はあらゆる物事に対して、できるだけ直観的に簡単な思考で対応することを好むということです。
そして意外なことに、このシステム1は自動的で努力を必要としない割には、優秀です。例えば、
- 電話に出た相手の第一声を聞いた瞬間に、相手が怒っているということを高確率で察知できる
- 部屋に入った瞬間に、今まで自分の話をされていたということに敏感に気づく
といったことができた経験はありませんか?
このように、直感はとても優れているのです。なぜかというと、直感は過去のたくさんの経験によって養われているからです。過去の自分の失敗や成功によって、直感の正答率は高まります。しかし、このシステム1には、いくつか無視できない短所もあります。ここからはその短所を、本書から3つピックアップして紹介します。
2. 脳が都合よく考えてしまう、確証バイアスとハロー効果
システム1の短所の1つ目は、確証バイアスです。これは、自分が信じたことを裏付ける情報ばかりを正しいと思い込み、違う情報をシャットアウトしてしまうこと。
例えば、大企業に入れば安心と強く信じる人は、大企業に入ると有利な情報ばかりを鵜呑みにして、他の意見を聞いたり、客観的に考えたりできなくなります。このように、自分にとって都合が良い情報を受け入れやすい傾向を、“確証バイアス” と言います。
ハロー効果
続いて、2つ目の短所は、ハロー効果です。これは、ある人を評価するにあたって、その人の際立った特徴に強い影響を受けるという効果です。
例えば、イケメンなA君に対して、イケメンだから頭も良くてスポーツもできそうだと錯覚しやすいようなことです。よく第一印象が大事だと言いますが、それは第一印象によって良くも悪くも、ハロー効果があるからです。
例えば、以下のAさんとBさん、どちらに好意を感じますか?
- Aさんは頭が良くて、勤勉、頑固で、嫉妬深い性格。
- Bさんは嫉妬深くて、頑固、勤勉で、頭がいい。
おそらく多くの人が、Aさんの方に好意を感じたと思います。面白いことに、特徴は同じなのに、順番を変えただけで印象が変わってしまうのです。頭が良い、勤勉、頑固という順番で聞いたら、この頑固の意味は意志が強いというイメージになりやすいです。
それに対して、嫉妬深い、頑固と聞くと、頑固はわがままというマイナスなイメージになりやすい。また、その後に続く、頭がいいも、ズルがしこいというちょっとマイナスな部分を持ち合わせてしまいがちです。このように、第一印象などの1つの特長が、全体に大きな影響を与えるというのが、ハロー効果です。
3. それは合理的なのか?プロスペクト理論
システム1の最後の短所は、プロスペクト理論です。まずは、以下の2つの問に答えてみてください。
問1,あなたはどちらを選びますか?
- A: 確実に9万円もらえる
- B: 90%の確率で10万円もらえる
どうでしょうか、続けて問2です。あなたはどちらを選びますか?
- A: 確実に9万円を失う
- B: 90%の確率で10万円を失う
はい。おそらくあなたは、多くの人と同じように問1では、 Aの確実に9万円もらうことを選び、問2ではBの90%の確率で10万円を失うことを選んだのではないでしょうか。このように、私たちは失うことをとても嫌がる傾向にあります。これが、プロスペクト理論です。
合理的に考えれば、堅実な性格の人は問1でも問2でも、Aの選択肢を選び、ギャンブラー気質の人は、どちらもBを選ぶはずですよね?
しかし、現実にはほとんどの人が不合理な判断をしがちです。投資やギャンブルでなかなか損切りできないのも、このプロスペクト理論に基づき、自分の損失を確定させることを嫌うからです。
ここまで、システム1の短所を3つ紹介してきましたが、これらはシステム1が単純性と一貫性を好むという性質からきているものです。
ファストな思考を「システム」、スローな思考を「システム2」と呼ぶこと、システム1には気をつけるべき短所があることをざっくり理解できたと思います。さらに、それぞれの特徴を深く理解し、日々行っている意思決定をより有意義なものにしたいという方は、ぜひ本書も手に取ってみてください!
ダニエル・カーネマン
心理学者。プリンストン大学名誉教授。
2002年ノーベル経済学賞受賞(心理学的研究から得られた洞察を経済学に統合した功績による)。
人間が不確実な状況下で下す判断・意思決定に関する研究を行い、その研究が行動経済学の誕生とノーベル賞受賞につながる。近年は、人間の満足度(幸福度)を測定しその向上をはかるための研究を行なっている。