本書が人口減少社会を乗り越えるための、道筋を示すものとならんことを切に願う。
この記事では、河合雅司さんの書籍「未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起こること」を紹介します。本書は、
- 今後の日本で起こることをエビデンスベースで知りたい
- 今後日本企業はどうなっていくべきか知りたい
という方におすすめです。
少子化による人口減少は今後の日本に何を起こすのか、具体的にはなかなかイメージできないと思います。本書は、そんな人口減少後の日本のリアルを教えてくれます。この内容を押さえておくことで、人口減少とは何なのかが、より理解できるので、ぜひ最後までご覧ください!
1. 少子化がもたらす最大の弊害
まず、人口減少日本のリアルについて、少子化による影響を働く人の視点から見ていきます。大多数の人は高校や専門学校大学を卒業する20歳前後で社会人になるので、20年後の20代前半が現在と比べてどれくらいの水準になるかを計算してみましょう。
厚生労働省の人口動態統計では、2021年時点における20代前半の人数は、1997年〜2001年生まれの5年間の出生数を合計すると分かり、593万3690人です。一方で、2021年の0歳〜4歳である2017年〜2021年生まれは、438万2242人。両者を比べると、20年後には20代前半が26.1%も少なくなることが分かります。
多くの会社は何年も先まで見越して人事計画を立てますが、わずか20年で新規学卒者が3/4になったのでは、計画を見直さざるを得なくなるでしょう。短期間でここまで減ると、大企業や人気業種であっても求める優秀な人材を十分に採用できなくなります。
これほどの若年世代の現象が待っているのに、年功序列や終身雇用を無理に続けようと単純に定年年齢を引き上げたなら、若手に閉塞感が広がります。採用が減り、新規が不足すれば、組織にマンネリ化も加速します。
少子化がもたらす最大の弊害は、各所で若い世代が極端に少ない状況が状態化し、社会や組織の勢いが削がれること。同じようなメンバーで議論を重ねていても、同じようなアイデアしか生まれてきません。日本経済に新たな成長分野がなかなか誕生しなくなったことと、少子高齢化は決して無関係ではないです。
マーケットの縮小
また、多くの企業経営者にとって大きな関心事は、マーケットの縮小です。日本は加工貿易国ですが、実態は内需依存度の高い国です。国内マーケットの縮小が、そのまま経営上の打撃となる企業は少なくありません。
しかし、どう縮小するのかを具体的に理解している人は案外少ないと著者は言います。実は、人口減で消費者の実数が減るということ以上に、消費力が衰えるダブルの縮小が起こります。
人口はただ減るだけでなく、少子高齢化しながら減っていくためです。国立社会保障人口問題研究所の推計によると、子供や勤労世代などは減るのに65歳以上の高齢者数だけは2042年まで増え続けます。
しかも、高齢化のスピードはどんどん加速していきます。高齢化率は2022年9月現在で29%。これが2050年代には38%程度にまで上昇すると想定されます。約4割が高齢者になるのです。
あなたが日常的に乗る電車の座席で、10人中4人が65歳以上だと想像すると、その割合の高さが分かると思います。では、消費者の4割が高齢者にもなるマーケットとはどんな姿なのでしょうか?
高齢消費者は消費をしない
高齢消費者の実態を、考えてみましょう。
高齢になると、一般的に現役時代に比べて収入が減ります。その一方で、人生100年と言われるほど超長寿時代となり、いつまで続くかわからない老後への不安は募るばかり。
医療や介護にどれだけ費用がかかるか予想がつかないため、気前よくお金を使うわけにもなかなかいきません。若い頃に比べて消費する量は減り、住宅取得やマイカーの買い替えといった大きな買い物の必要性も乏しくなります。
80代にもなれば、生活圏は狭くなり外出率自体が低くなるでしょう。消費力の低い80歳以上の人口は2040年に1578万人となり、総人口の14.2%を占めます。これは危機的な状況と言えるでしょう。
2. 若者の製造業離れ
天然資源に乏しい日本は、ものづくりの国です。近年海外に拠点を移した企業も多く、日本のGDPにおける製造業の比重は下がってはいますが、それでも2020年時点において約2割を占めており、依然として日本の中心的な産業であると言えます。
新たなイノベーションや技術を生み出す製造業は日本の砦とも言える存在であり、日本経済にとって2割以上の意味を持っていると著者は言います。そんな日本の製造業は、いま世界的に過渡期にあります。カーボンニュートラル、人権尊重、DXといった事業環境の大きな転換期を迎えているためです。
ロシアのウクライナ侵攻による資源高や半導体などの部品素材不足、あるいはサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ対策といった様々な課題にも直面しています。
こうした喫緊の課題への対応の困難さもありますが、それに加えて日本の製造業には、今後人口減少の影響が大きくのしかかってきます。
製造現場の急速な高齢化
まずは、製造の現場の人手不足。経済産業省などの2022年版ものづくり白書によれば、日本の就業者数は2002年では6330万人でしたが、2021年には6713万人に。しかし、この間製造業の就業者数は1202万人から1045万人へと、157万人減っています。
もちろん、就業者の総数が減ったことが直ちに問題というわけではありません。機械の高度化に伴ってオートメーション化が進み、昭和時代のように生産ラインに多くの女性就業者が並んで作業するという光景はほとんど見かけなくなりました。
さらには、製造拠点の海外展開によって職場そのものが大きく減ったという要因もあります。就業者の総数が長期下落傾向をたどったのは、自然の流れと言えます。では、何が問題なのかといえば、年齢構成の変化です。
いま製造の現場が、急速に高齢化しています。2022年版ものづくり白書によれば、34歳以下の就業者を2002年と2021年度で比較すると、この20年ほどで121万人も減少しています。製造業全体で見ると2021年時点の34歳以下の就業者は25.2%でしかありません。
オートメーション化や工場の海外移転などによって、就業者数を減らしコストカットをしてきた企業が多いのですが、結果として若い就業者を減らすことになったのです。
工場勤務に将来イメージが湧かない
いくらオートメーション化を進めていっても、全ての工場が人を全く必要としなくなるわけではありません。日本の製造業全体として、最低限必要な人数というものがあります。それが確保できなくなってきているのです。
長期にわたって、若者が製造業から離れていったことの弊害は大きいです。国内工場が相次いで封鎖されたこともあり、次の世代の若者たちは先輩などから工場における仕事の内容を聞いたり、工場そのものに接したりする機会が少なくなりました。
それは、工場に勤務した自分の将来像が、つかみづらくなったということ。きつい仕事の割に給料が安いといった必ずしも事実ではない、勝手なイメージの広がりをこのまま許すことになれば、製造業を身近に感じない人がますます増えます。
3. 革新的ヒット商品が誕生しなくなる
一方で、製造業が新規学卒者に不人気になったのかといえば、そうでもありません。2022年版ものづくり白書によれば、製造業における新規が不足者は2013年の13万人から増加傾向にあり、2020年は16万5600人となっています。
全新規学卒者における製造業への入職割合も、この数年は12%前後を維持しています。新規学卒者の就業が増えているにも関わらず、34歳以下の就業者の割合が減るというのはなぜか。
それは、退職です。
若い世代で退職する人が多く、新規学卒者の就業が多少増えたぐらいでは、穴埋めできていない状況です。若い就業者が計画通り採用できず定着しないともなると、必然的にベテラン勢に頼ることになります。
老後の生活費不足を働くことで補いたいと考える人が増えていることも手伝い、製造業の65歳以上の就業は2012年頃から2017年まで上昇カーブを描きました。
2022年版ものづくり白書によれば、2002年は58万人だったのですが、2021年は91万人にまで増えました。これは製造業全体の就業者の8.7%にあたります。日本の製造現場の1割近くは、高齢者によって支えられています。
製造部門の開発力の劣化
製造の現場と並び製品規格開発部門も、人口減少の影響を大きく受けます。製造業の製品企画開発に携わる専門家や技術開発者の中高年齢化は、新しいを着想する力や社会の新しいニーズを取り込む力を弱め、新技術や新商品を開発する力の衰退を招く方向へと作用しやすくしてしまいます。
資源小国の日本は、今後も知恵と技術によって国を起こすしかなく、人口が減少するほど技術立国であることの意味は大きいです。製造業における技術力や開発力の劣化は、その企業だけの問題にとどまらず日本という国にとっての死活問題にもなります。
そうでなくとも、先述したように製造業はカーボンニュートラルやDXといった事業環境の大きな転換期を迎え、製品規格や技術開発部門はその対応に追われています。高品質のものを安価で提供すれば売れた時代は終わり、各国ごとのニーズに対応したカスタマイズ製品の開発も求められます。
開発の最前線が、中高年齢社員中心でマンネリズムの試合を許す組織文化では、若い開発者が躍動する外国企業に太刀打ちできません。まさに、各企業が総合力で勝負しなければならなくなってきており、求められるのは若者の突破になっています。
そんな時に、社会や人々のニーズの変化に敏感である若い研究者や技術開発者を十分確保できないようでは、勝負になりません。1990年代半ば以降の日本のものづくりの衰退の要因は、ここに根ざしていると言ってよいと著者は言います。このままでは、ますます革新的なヒット商品が日本から誕生しなくなるでしょう。
4. 量的拡大モデルと決別する
人口減少に打ち勝つには、発想の転換が必要だと著者は言います。
まずすべきことは、量的拡大というこれまでの成功モデルとの決別です。
現在は会社案内のフロントページに、業界シェアナンバーワンとか何々地区で売上トップといった大きな見出しの文字が踊っているケースが多くあります。人口がどんどん増えていた時代には、売り上げを伸ばすことが、そのまま利益の拡大を意味していました。
しかし、国内マーケットが急速に縮小する社会においては、パイの奪い合いをしても誰も勝者にはなれません。パイの奪い合いを続けていくことが、いかに無意味なことかは、金貨が100枚入っている器をイメージして考えれば理解しやすいです。
転用や撤退も考える
金貨は、人口すなわち国内マーケットのこと。現状において、業界トップの企業がシェアの半分である50枚、2番手企業が35枚、3番適量が15枚を手に入れていたとします。人口減少とは、数十年後に金貨70枚のゲームに変わるということです。仮に業界トップ企業がシェアを50%から60%に増やしたとしても、得られる金貨は42枚でしかなく、現状より8枚減っています。
金貨の絶対数がどんどん減っていく社会においては、シェアが100%になろうと、手にできる金貨は年々少なくなっていきます。拡大どころか現状維持すらできないというわけです。
国内需要においてはシェアの拡大モデルでは、限界があります。こうした点を踏まえず、生産体制強化のための設備投資や店舗数の拡大をしている企業が少なくありません。目の前の需要に応えある時点までは、売上高を大きくすることはできるでしょう。
しかし、人口減少社会では、そうした投資はいずれ経営の重荷となります。拡大のための投資を一切すべきではないとは言いませんが、今後の人口の変化に応じていつでも転用や撤退ができるようにしておく必要があります。
今回紹介した、河合雅司さんの書籍「未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起こること」ついては、ごく一部しか紹介できていないです。おすすめの本ですのでぜひ読んでみてください!