山口歴の作品に込められたメッセージとは?( ユニクロ、ブルーピリオドとコラボ、松山智一)

アート・デザインの豆知識

画像引用:http://www.meguruyamaguchi.com

一度見たら忘れない。

この独特な色彩と筆使いが特徴的な作品の作者は山口歴(ヤマグチメグル)。今、急激に人気を高めている若手アーティストの一人です。この記事では、そんな彼の経歴と特徴的な作成技法「カット&ペースト」に至るまでの苦悩を解説していきます!

 

1. ファミコン、ドラゴンボール好きの少年

山口 歴(ヤマグチ メグル) 出典:https://heapsmag.com/

 

山口歴は、1984年東京・渋谷生まれのアーティスト。ファッションデザイナーである両親の影響もあり、幼い頃は“ドラゴンボール”の作者・鳥山明(とりやまあきら)先生に憧れて、小学生の6年間を絵画教室に通った絵が好きな少年でした。

その教室ではゴッホなどの印象派の西洋画を学び、数々の表現技法に関心を持ちつつも、ストリートのグラフィティにも強い興味を示します。山口は特にゴッホの筆使いに衝撃を受けたらしく、この頃から筆が作り出すの軌跡や集積に興味があったことが伺えます。

 

裏原からニューヨークへ

山口にとって、90年代から2000年代初頭にかけての裏原宿のストリートカルチャーを肌で感じたことは、のちの作風に大きく影響を与えることに。高校卒業後、東京藝術大学を目指すも三浪した山口。当時父親が運営していたオゾンロックスというブランドを手伝うことになり、スタジオに出入りするクリエイターたちと触れ合って刺激を受けます。

同期の芸大生が卒業する年、彼らのほとんどが画家などのアーティストにはならずに就職していく姿に疑問を抱き、悶々とした日々を山口は過ごしていました。そして2007年、23歳の時に憧れの現代アーティスト“Matzu”こと松山智一(まつやまともかず)のアシスタントになるために、単身ニューヨークへ渡米を決めます。

松山智一氏 出典:https://www.gifu-np.co.jp/

 

2. ニューヨークでの下積み時代と師の教え

出典:https://heapsmag.com/

 

スタジオでの1日8時間の作業や語学学校、夜中は自身の作品制作に追われた当時を、「“純粋にカッコイイものがつくりたい”というハングリーさしかなかった」と山口は振り返る。3枚は作品を提出する月があったり、村上隆の分厚い本を渡されて感想文を課されたりと、さながら大学のような宿題もあったそうです。

それは、美大に行かなかった山口にとっての大学でした。多忙な日々を送りながら、山口は5年間Matzuのアシスタントを務めることに。「カッコイイ作品をつくり続けていれば、いつか必ずスポットライトが当たる順番はまわってくる。そのときのために、常に準備しておけ」というMatzuの言葉を胸に活動を続けます。

 

ドアをノックし続ける

どんな経験も未来に繋がると信じ、ドアをノックし続けることの大切さを認識している彼に2011年、グラフィックデザイナーの友人と1年間かけて自身のウェブサイトを作ったことで転機が訪れます。

完成させたウェブサイトは、「誰に見せても恥ずかしくないものを。」という師の教えに従って作ったもの。それを見た東京の現代アートギャラリーからグループ展への参加の声がかかり、それまでに描き溜めた8枚の作品全てが初日で完売するという事態に。

芸大入試に失敗して、10年目の出来事でした。それから徐々に知名度が上がり、学生時代を含めて15年ほどの下積みを経て現在に至ります。

 

3. 筆の動きを立体に昇華させる「カット&ペースト」

山口の立体作品 出典:筆者撮影

 

大きなブラシで勢いよく描いた筆跡(ブラッシュ・ストローク)を、パソコン上で緻密にコラージュして再配置する「カット&ペースト」は、山口独自の技法です。HIP HOPのテクニックであるサンプリングから着想を得たものですが、ニューヨークでのアシスタント時代、師匠・松山の留守中、壁や床を汚さないように貼り付けた養生シートの上に飛び散った、乾いた絵の具を貼り合わせたことから生まれたそうです。

 

ハングリーさが表れる作品

サンプリングの上手さは、日本人の特徴だと山口は認識しています。大胆でアグレッシブな筆の動きと、繊細で複雑な工程によって作り出される丁寧さの複合的な魅力を持ち、エッジの鋭さや、極彩色も特徴的です。

色が重なるグラデーションは、作品の部位によっても様々に様相を変え、観る者を圧倒。この技法により山口は、キャンバスに限らず彫刻、ビルの壁面等、様々なものを制作しています。

 

出典:https://heapsmag.com/

「固定概念にとらわれず、けれど軸はブレずに。貪欲に、カッコイイものをつくり続ける。」と語る山口。ハングリーな姿勢が表れる作品は、見る者を魅了します。

 

4. ユニクロなどの様々なブランドとのコラボレーション

《OUT OF BOUNDS NO.63》(2018年)アクリル絵具、エポキシ樹脂、木版 出典:http://www.meguruyamaguchi.com/

 

山口の代表作「OUT OF BOUNDS」シリーズは、「固定概念、ルール、国境、境界線の越境、絵画の拡張」というコンセプトのもと、キャンバス上に描くのではなく、筆跡自体をキャンバスにしてまるで空間に浮いているような立体的な作品。

山口は「自分の中のブレイクスルー的な作品」と語るほど重要なシリーズです。ブレイク後は、イッセイ・ミヤケ、NIKE、STUSSY、アウディといったハイブランドとのコラボレーションから、UNIQLOやファレル・ウィリアムズが手掛ける『Billionaire Boys Club』やALIFE、OAKLEY、BAKE CHEESE TARTといった新興ブランドまで、アパレルを中心に幅広くブランドからのオファーが殺到することになります。

 

様々なブランドとのコラボで人気が急上昇

2017年に行われた「イッセイ・ミヤケ・メン」とのコラボでは、コラボアイテムを販売しただけでなく、銀座の店舗『エルトブ テップ イッセイ ミヤケ / ギンザ』のメインウィンドウに書き下ろし新作が飾られ、店内にはシリーズ作品「OUT OF BOUNDS」も展示されました。

また、現代アートをタイアップするコラボアイテムの発売が続くUNIQLOとは2018年以降、毎年コラボアイテムを発売しています。

出典:https://www.uniqlo.com/jp/

アップカミングアーティスト(今後さらなる飛躍が期待できるアーティスト)である山口。

セカンダリー市場(オークション)での出品は少なかったですが、年々上がる人気に伴い、本格的にオークション出品され始めた2019年以降は高額落札の実績も増えています。

 

積極的なチャリティー活動

2020年5月、新型コロナウイルスの影響により公衆衛生環境が変わったことに対して、山口は自身の母親のファッションブランド「0008」とstudio Roosiと共同制作したマスクを日本で1,000枚無料で配布することを自身のInstagramで発表します。

マスクは配布即日で予定枚数に達し、終了してしまうほどの人気を見せました。さらにアメリカでは、Black Lives Matter活動支援の一環として、チャリティーオークションに新作《REVISUALIZE NO.1(2020)》を出品約250万円(23,000ドル)で落札された売上は、NAACP(全米黒人地位向上協会)に全額寄付されました。

 

 

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