いま私たちの暮らす世界は、なぜできたのだろう。そんな素朴な疑問を持ったことはありませんか?
“それは人間が他の生物より頭が良くて、勝ち残ってきたからだよ。”と言う人がいるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか?
そんな人類の歴史とこれからについて一石を投じたのが、歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリさんの著書「サピエンス全史」です。
この前編では、私たちはなぜ生き残れたのか?という人類の歴史の謎ついて、ざくっと紹介していきます。

Netherlands, Amsterdam, 24-04-2018.
Yuval Noah Harari. historian, philosopher, writer, futurologist, transhumanist. Known for the books Sapiens and Homo Deus.
Photo: Olivier Middendorp
1. 私たちはなぜ生き残れたのか?カギは”認知革命”!
冒頭でも書いたとおり、我々の祖先ホモ・サピエンスがここまで繁栄できたのは、他の動物よりも賢く生き残ってきたためだと、歴史の授業で習った人もいると思います。
まず前提として、人類の進化の歴史においてネアンデルタール人からホモ・サピエンスへとあたかも同じ生物が進化をしてきたかのような図を見たことあるかと思いますが、ネアンデルタール人 ≠ ホモ・サピエンスであるというのが最近の定説です。
直立しているホモ・サピエンスと、それ以前の背の曲がった猿人は別者であり、それらを滅ぼして、いまの人類があるということ。200万年前には、ホモ・ネアンデルタール、ホモ・エレクトスなどホモ属の人類はたくさんいて、ホモ・サピエンスはその一種類でしかなかった中で、他の人類を滅ぼして生き残ってきたということが分かっています。また、火を使えたのはホモ・サピエンスだけでなく、その他のホモ族も使えました。
サピエンスにはフィクションを信じる“認知革命”が起きていた
サピエンスとは“賢きもの”という意味ですが、サピエンスだけが唯一の人類となれたのはなぜでしょうか?
二足歩行で道具が使えたから?脳みそが大きく賢かったから?
ネアンデルタールの方が脳みそが大きく、彼らも道具や言語を操っていたことが分かっています。ならば、どこが違ったのでしょうか?
それは、サピエンスには“認知革命”が起こっていたからだと、ハラリ氏は言います。この認知革命こそ、ホモ・サピエンス最大の武器です。それは“虚構”、“妄想”つまり“フィクション”を作ることができる能力。ホモ・サピエンスが他の人類を淘汰した、1万3千年前の当時の壁画からはライオンの頭をした人の絵が残っていることから、この能力に長けていたことが証明されています。
なぜフィクションを作れるのかは不明
フィクションが言えると、それをみんなの共通のストーリー、例えば、「ライオンは我々の守り神でその神のいるこの地をみんなで守るべきだ!」という噂話を他者と信じることで、家族以外の人とも同じ目的に向かって連携することができるようになります。
他の人類は、家族と目の前にある真実しか信じることができず、まとまってもせいぜい数十人。しかし、口コミを信じるホモ・サピエンスはチームとして数百人単位で大きくまとまり、数の暴力で勝ち残ることができたというのが、我々が生き残ってきた大きな要因です。これにより、サピエンスより力が強かったネアンデルタールさえも駆逐してしまいました。サピエンスが現れた場所では、他のホモ族は1,000年足らずでほぼ絶滅しています。
なぜ、サピエンスだけがフィクション(虚構)を作れるようになったかは、分からないらしいです。サピエンスだけが脳の回路が進化したのは、偶然です。このフィクションを作り、信じる特殊能力によって、サピエンスの進化は加速していくことになります。
2. 農業革命は合理的だったのか?
我々の祖先が農業を始めたのは、定住して安定的に暮らすことができるからだと、メリットはよく語られますよね。一方で、狩猟・採取していた時代の方が栄養のバランス良く、狩りも3日に1回くらいやればよかったというメリットもあります。
さらに、実は農業の方が栄養バランスが悪く、農作業にかかる労働時間の方がよっぽど長いというデメリットがあったりもします。それにも関わらず、農業を始め、定住することで安定して数を増やすことができたのは、やはりフィクションを信じるチカラがあったためです。
小麦や米が最も賢い生物
農業が定着する前の人類は、「苗を育てれば、秋にはたくさんの食料が手に入る!」と信じない限り、その日の食料を求めて狩りに出かけてしまいますよね。
天災で収穫できないリスクを取りつつも、米や小麦を育て始めたのは、豊作やそれを叶えてくれる神を信じることができたからです。
余談ですが、こうして人類に育てさせることで拡大してき、今なお主食として残り続けている“小麦”が最も賢い生物だという皮肉もあります。
次回はこの続きから、加速するサピエンスの妄想力を解説していきます。本書、ユヴァル・ノア・ハラリさんの「サピエンス全史」に興味をもった方は、ぜひ手に取ってみてください!