5分で学ぶ『不愉快なことには理由がある』要約【幸せになれない理由、煩悩をなくす】橘玲の思想

girl in gray jacket whispering on boy's right ear 時代を生き抜く考え方・哲学

 

近代文明は驚異的な進歩を遂げたので、解決できる問題のあらかたは解決されてしまった。だとすれば、いま残っているのはその問題の解決が新たな問題を生み出すような、厄介なものばかりであろう。不愉快なことには、すべて理由があるのだ。

ーー橘玲

 

世界のさまざまな問題の原因や秘密を知りたいですか?

この記事では、橘玲さんの「不愉快なことには理由がある」を紹介します。本書は、日本のあらゆる問題を“進化論の視点”から考えてみようという内容です。テレビや新聞などのメディアでは、さまざまな日本の問題について議論を行っていますよね。そこから、新たに同じような議論を一つ加えても何の意味もありません。そこで著者の橘さんは進化論という知見から、マスメディアとは異なる視点を提供しよう!という目的で書かれたそうです。

この観点の優れた点は、政治や経済などの社会的な出来事など、今まさに起きている諸問題について、感情論ではなく“進化論”という科学的知見で分析している点にあります。それではさっそく、一緒に学んでいきましょう!

 

1. 世界の秘密はすべて解けてしまった

woman wearing white sweater carrying a daughter

 

私たちの感情は幸福や悲しみ、憎しみも歓喜や絶望も、政治や経済、独裁や戦争ですら、この世界で起きている様々な出来事は科学の統一的な原理によって説明できてきています。最近では、「心とは何か」ということさえも、科学的に解明できるようになってきたのです。これは決してSFの世界の話ではありません。グーテンベルクの印刷機やワットの蒸気機関、ニュートンの万有引力の法則やアインシュタインの相対性理論など、私たちの生活や世界の見方を根本から変えてしまうような発明や発見は、いくつもありますよね。

これらはパラダイム転換と呼ばれていますが、その中で最大の発見がチャールズ・ダーウィンの“進化論”です。進化論は、子孫を残すことに成功した遺伝子は、次の世代に受け継がれるという理論。単純にいえば、生き残った者が生き残るだけのことなので、ダーウィンの「種の起源」を読んだ当時の知識人たちは、なんでこんなことに気づかなかったのだろう!と愕然としたのもよく分かります。

その後、進化論は社会や文明も進化していくという社会進化論に拡張され、人種差別を正当化する優性思想を謳ったナチスによるユダヤ人虐殺へとつながったとの反省から、厳しい批判にもさらされました。

 

生物は遺伝子の単なる容れ物

現代では進化論は、そうした批判に科学的に答えていくことで、さらに鍛えられてきました。1970年代に生物学や遺伝学、ゲーム理論などを取り入れた進化生物学となり、1990年代には人の感情や心さえも説明する進化心理学へと発展しました。こうした現代の進化論の成果をまとめたイギリスの動物行動学者、リチャード・ドーキンス博士の「利己的な遺伝子」は、世界的に大ヒットしました。

ドーキンスは、進化するのは遺伝子で、生物は遺伝子の単なる容れ物に過ぎないと説いています。もちろん、1つ1つの遺伝子に進化への意志があるわけではなく、生き残った個体が次世代に遺伝子を残せるという単純原理によって、より環境に適した遺伝的プログラムが、受け継がれてきました。

 

現代のあらゆる問題や感情は、進化論で説明できる

さらに進化心理学では、キリンの首が長くなるような身体的特徴だけではなく、人間の心や感情もより多くの子孫を残すように進化してきたか説明しています。例えば、母親の子どもへの愛情を考えてみましょう。突然変異で子どもを愛せない遺伝的プログラムが現れたとしても、これを搭載した個体は、うまく子供を育てることができないので、その遺伝子は次の世代に受け継がれることなく途中で途絶えてしまいます。

対して、子供への愛情が強いほど多くの子孫を残せるとしたら、長い進化の過程で母親の愛情というものは徐々に強化されていくに違いありません。このように、現代のあらゆる問題や感情は、進化論を軸に説明できます。

 

2. 大富豪はマサイ族よりちょっとだけ幸せ

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ここからは“幸福”に関して、進化論から考えていきます。

私たちが日々抱える生きづらさは、進化心理学の観点から石器時代の脳が現代文明に適用できないからであると説明できます。石器時代の人々が幸福だったかは分かりませんが、アフリカのマサイ族の人生の満足度を調べると、お城のような豪邸やプライベートジェットなど望むものをすべて手に入れたアメリカの富豪たちと、ほとんど変わらないことが分かっています。

 

お金の多さと幸福感は直結しない

石器時代の人は狩猟と採取で食料を得ながら、家族を中心とする数十人の共同体で暮らしていました。彼らにとっては共同体に帰属していることが生きる術で、仲間から排除されてしまえば死が待っています。このような環境が400万年も続けば、利己的な遺伝子は仲間や家族といった共同体といることで幸福を感じ、共同体から排除されることを恐れるようにプログラムが進化していくはずですよね。

そこから古代エジプトやメソポタミア文明が発展し、貨幣が使用されるようになってから、まだ5,000年ほどしか経っていません。私たちはもともと、貨幣の多寡と幸福感が直結するようには進化できていないのです。ならば、人はなぜこんなにもお金を欲するのでしょうか。

進化論的には、貨幣の起源はお互いに利益を与えることにあります。人やチンパンジーのみならず、吸血コウモリでさえ親切にされた相手にお返しをすることが知られています。吸血コウモリは空腹が続くとすぐに死んでしまうので、飢えたコウモリは満腹のコウモリの胃の中のエサを譲ってもらえます。

 

今すぐマサイ族になれるか?

貨幣とは、親切とお金のやり取りを見える化したものです。貨幣が相手に対する貸しの証明なら、共同体の中でより多くの貨幣を持つ者が権力者になるのは当然です。古今東西を問わず、多くの社会が一夫一婦制を基本としつつも、権力者がハーレムをつくるように、ルールがなければ容易に一夫多妻制に移行します。貨幣の獲得は、より多くの子孫を残すことにもつながるのです。

しかし、現代の先進国では、一夫多妻は法で禁じられています。また、アメリカの富裕層を対象とした調査によると、その多くが贅沢な生活を維持するために膨れ上がる家計の支出により金銭トラブルに悩んでおり、資産100万ドル以上の上位層の約10%は、資産があらゆる問題を解決するよりもむしろ問題を増やしています。貨幣の多さが幸せに直結しないなら、幸福を手に入れるのは簡単です。富豪になれる確率は限りなくゼロですが、マサイ族を始めとした部族の自給自足の暮らしを明日から始めればよいのです。しかしそう言われても、幸福は相対的なものであるため、お金への欲望はすぐには捨てられませんよね。

 

大都市のホームレスは幸福度がより低い

マサイ族のような濃厚な関係の共同体で幸福度が高い理由は、他のマサイ族も自分たちとほとんど同じ暮らしをしているからです。そこでは自由や自立はもちろん個人という概念すらなく、人はただ家族や共同体から割り振られた役割を果たし、子供を産み、育て、老いて死んでいくだけです。現代的な暮らしをすれば、共同体から強い承認が与えられるとしても、そのような社会で今更暮らしたいと願う部族はほとんどいないでしょう。

ある幸福度調査では、ロサンゼルスなどの大都市のホームレスは、インドのスラム街で暮らす貧しい人たちよりも、幸福度が遥かに低いということがわかっています。スラムがある街には人々の強いつながりがありますが、都市の中で段ボールハウスなどに住む人たちは、互いに孤立し誰からの承認を得る機会などありません。東京やロサンゼルスなど豊かな都市の中で自分だけ貧しいことは、計り知れない絶望感です。相対的に、大都市のホームレスは幸福度が、低くなってしまうのです。

 

3. どれだけ修行しても煩悩は捨てられない

woman sitting on bench over viewing mountain

 

最後に、感情を進化論的に考えていきましょう。修行によって煩悩・欲望は捨てられるのかという問題についてです。仏教では修行による解脱、煩悩からの解放を解きますが、果たしてそんなことが可能なのかということを、進化論的に検証していきましょう。

 

心というシミュレーション装置

人は眠っているとき以外は、いつもあれこれと思い悩んで暮らしていますよね。そんな風に、私たちは人生の大半をシミュレーションに費やしています。シミュレーションとは、ある仮説を立ててその現実の結果を模擬実験などで予想すること。例えば、会社では新商品をいくらで販売したらライバルに勝てるかを何時間も議論し、家庭では生まれたばかりの赤ん坊を眺めながらこの子にはどんな未来が待っているのかと夫婦で語り合います。

これらは、すべてシミュレーションです。なぜ私たちはいつも思い悩んでばかりいるのかというと、新しい事態に遭遇すると、心というシミュレーション装置が無意識に駆動し始めるからです。では、人はなぜ心などという奇妙な能力を獲得したのでしょうか。

 

忖度が上手いのは遺伝?

それは前述のとおり、利己的な遺伝子の存在にとって、生き長らえて優秀な遺伝子を後世に残すのに有利だったからです。チンパンジーは人間と同じ社会的な動物であり、その生態を観察すると、単純なシミュレーション装置である心を持っていることが分かっています。群れを統率するのは、アルファオスと呼ばれる第1順位の雄ですが、すべてのメスを独占しているのではなく、他の雄にも生殖の機会は与えられます。しかし、弱いオスが交尾するには上位のオスからの暗黙の了解が必要で、他の方法としてはこっそり不倫するしかありません。

この時、チンパンジーは今ここでメスと交尾しても上位のオスに攻撃されないかどうか、様々な方法で知ろうとします。このシミュレーションが上手っであれば、体格が大きかったり腕力が強かったりしなくても、子孫を残すことができます。逆に、シミュレーションが下手であれば、上位のオスの気持ちを察することができず、場合よっては殴られて殺されてしまうでしょう。私たちが上司の顔色をうかがって、怒っていないか、これを言っても大丈夫かとシミュレーションするのと同じように、遺伝子的には上手にシミュレーションできることが生き残れるのです。

 

心とは、自分や相手の内面の実体化

また、シミュレーションにより相手の行動を的確に予想できるのは、異性の獲得だけではなく、狩りをする際に敵から身を守ることもずっと容易になります。ヒトの祖先は賢ければ賢いほど生きる確率が上がり、より多くの子孫を残せたはずです。人はさらに未来さえもシミュレーションすることができ、社会的な集団の中でより有利なポジションを獲得し、生存の確率を高めてきました。こうした複雑なシミュレーションの相互作用によって、自分や相手の内面が実体化したものを、私たちは“心”と呼んでいるのです。人は物心ついた時から死ぬ瞬間まで意識があり、このシミュレーションをひたすら繰り返しています。

仏教では、この終わりのないシミュレーションの連続を“煩悩”と呼び、修行によってシュュレーションの回路を遮断し、囚われのない心の静けさに至ることを目指してきました。しかしシミュレーションすること自体が心の本質だとすれば、私たちは心から逃れることはできません。仏教では、修行による解脱、すなわち煩悩からの解放を解きますが、シミュレーション機能を停止させてしまえば人はもはや人ではなくなってしまいます。解脱というのは人類の理想ではあっても原理的に不可能です。つまり進化論的に言うと、どれだけ修行しても欲望は消せないということです。

 

現代における進化論は、脳科学や遺伝学の研究成果とつながり、急速に発展してきました。さらに、ゲーム理論や行動経済学などの社会科学を発明し、人間と社会の謎を解明する統一的な理論を構築するというパラダイム転換が起きています。これらの知識を理解し、上手に取り入れながら、日々をハックしていきましょう。

今回は「不愉快なことには理由がある」を紹介してきました。橘玲さんには他にも理由があるシリーズがあったりと、大変興味深い書籍が多くあります。気になる方はぜひ手に取ってみてください。

 

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