お金は神様と同じであり、宗教である。私たちは貨幣経済という奇妙な宗教の国に生まれた。
だから、私たちがこの世で生きていくためには、好む/好まざるにかかわらず、この奇妙な宗教の信者になるほかない。
幻想がはがれてしまえば、一万円札もただのゴミと変わらないにも関わらず。
ーー橘玲
この記事では、橘玲さんの「得する生活―お金持ちになる人の考え方」を取り上げます。
本書は、単にお金儲けの方法を書いているのではなく、そもそも貨幣とは何なのかという話から解説されています。
お金について考え直す機会になるので、ぜひ最後まで読んでみてください。
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1. 貨幣経済という奇妙な宗教の国に生まれて
神様と貨幣は、実はよく似ています。お金と神様は同じであり、どちらも宗教。貨幣が価値を持つのは、誰もがそれを貨幣と信じて疑わないからですよね。
一万円札に価値があるのは、それが高価な紙で作られているからでも、作るのに一万円かかるからでもなく、単に私たちが“福沢諭吉の似顔絵が書かれた紙きれ”に、一万円の価値があると信じているからです。
ただの紙切れに価値があるというのは、一種のホラ話。正直、石ころや貝殻でもOKです。
さらに現在では、銀行の預金通帳に打ち出された電子データの数字が、貨幣だと信じられています。
大事なのは、貨幣の材質ではなく、実体のないものに価値を認める信仰心。貨幣経済とは、貨幣を神様と崇める宗教なのです。
貨幣には、何の根拠もない
神のかたちをこの目で見ることができないのと同じように、貨幣の実在を客観的に証明することはできません。
もちろん理屈の上では、一万円札は日本国の資産を担保に発行されています。
かつては中央銀行が金を担保として保有していましたが、現在の担保は日本国債です。国債は国家の借用証書で、貨幣と交換してくれるもの。
貨幣は国債によって担保され、国債は貨幣によって担保されているのです。
ここで、何か矛盾に気づきませんか?
これは、新興宗教の教祖が、「私が神であることは、神である私が知っている」と言っていると同じ理屈。貨幣には、何の根拠もないのです。
貨幣制度は共同幻想によって支えられている
貨幣を神とするなら、貨幣経済は世界宗教と言えます。
地球上には国ごとに異なる神(貨幣)がいますが、その神々は、一定の比率で交換可能。
キリスト教でもイスラム教徒でも、貨幣を神と崇める世界宗教は共通です。
一方で、日本人が日本国を信用しなくなると、日本円という貨幣の価値が低下します。
日本の神を海外のもっと魅力的な神に交換したいと考えるからです。
国民が、お札を所詮紙きれに過ぎないと気づいた時に、貨幣制度は崩壊します。
幻想がはがれてしまえば、一万円札はただのゴミになります。
貨幣制度は共同幻想によって支えられているのです。
私たちが貨幣にとらわれているのは、夢や幻にとらわれるのと同じです。
貨幣経済の下では、貨幣という幻想を拒絶して生きていくことはできません。
経済学者のカール・マルクスは、“人間は社会的存在である”と言い、哲学者のマルティン・ハイデガーは、“実存は認識なくしては存在しない”と言いました。
どちらも言っていることは同じで、社会や世界は幻想でしかないが、私たちはそこでしか生きられないということです。
だからこそ、貨幣経済という奇妙な宗教の国で、上手に立ち振る舞うことのできる知恵が必要となってくるのです。
2. 金持ちと貧乏には経済的な理由がある
お金に関する世間の一般的なイメージとして、貧乏人は心が美しい、金持ちは性格が悪くずる賢く、悪い奴しかいないと思われがちです。
しかし、この認識は間違っています。
あらゆる社会調査によれば、成功者ほど他人を信頼し、貧乏人ほど疑い深く、猜疑心が強いという傾向が顕著に表れています。
同じように、高学歴者ほど他人への信頼度が高く、学歴が低くなるにつれて、他人を疑いやすくなるということが分かっています。
“人を見たら泥棒だと思え”と常に人を疑う事は、閉鎖的な村社会においては正しい行動ですが、現代のような開放的な市場経済では不合理な行動となってしまいます。
なぜなら、人を疑う傾向にある人は、仲間内でしか商売できず、共同体の外部で経済的な関係を築くことができないからです。
これではいつまで経ってもビジネスの機会を獲得できず、変化の激しい社会に適用するのは無理です。
他人に騙されないようにするためのコストが、ものすごく大きすぎるということです。
高い知性の持ち主は、より効率的な戦略を考えます。
彼らは一定の条件を設定し、それをクリアした人をとりあえず信頼します。
もちろん中には、詐欺師や嘘つきもいますが、相手が信頼に値しないとわかったらその時点で切り捨てれば良いのです。
騙されることによる損失は避けられませんが、そのデメリットを上回るほどの人間関係とビジネスチャンスが得られます。
誰もが騙されたくないとは思いますが、騙されるということは成功に必要なコストの一部であるのです。
大学教育は投資効果が高い
唐突ですが、教育を受けることのメリットは、なんだと思いますか? それは、人的資本の蓄積です。
人的資本とは、働いてお金を稼ぐ力のこと。
私たちが教育を受けて知識や技術を獲得すれば、それが労働生産性を高めて将来の賃金を上昇させます。
当たり前ですが、コンビニの店よりも、医者や弁護士プログラマーの方が給料が高いのは、彼らがより大きなお金を稼ぐ力、すなわち人的資本を持っているからです。
例えばアメリカでは、大学教育の投資効果がしっかりと調査されています。
高卒で社会に出た場合と大卒資格者の生涯収入の差を教育費用と比較した場合、その投資効果は年間10%を超えるそうです。
アメリカの大学生が借金をしでも高等教育を受けたがるのは、将来十分にお金が回収できる取引だからです。
また日本でも同じような調査が行われ、大学教育は年利6~9%の投資効果が期待できるという結果が出ました。
これは、現在の低金利時代を考えれば、圧倒的に有利な投資先です。
教育受けなくても低い確率で成功する人もいますが、効率的な労働市場においては、教育・技能・知識などの人的資本を持たない人が、平均より高い報酬を得ることは困難です。
関係資本は富を生む源泉
そして、経済学には人的資本のほかにも、関係資本という重要な概念があります。
よい関係資本を持つ人は、より多く収益を得る機会を獲得できる。
関係資本とは、ビジネス上での人的ネットワークであり、富を生む源泉になります。
ビジネスであれ恋愛であれ、良い人間関係は信頼によって育まれます。他人の信頼を得るには、約束を守らなくてはいけませんよね。
ビジネスにおいて、信頼とは一般的に裏切ることで失うものの多寡によって計測できます。
社会的に成功し、大きな資産を築き、仲間に恵まれた人は、今更他人を騙すことで得る少しの金よりも、それにより失うものが遥かに大きいため、自己の評判を維持するために積極的に約束を守ろうとします。
一方で、失うもののない人物は、簡単に約束を反故(ほご)にします。他人を裏切って手にする富のほうが魅力的だからです。
社会正義や清貧を語る人が、僅かなお金で手のひらを返したように人格を変容させるというのも珍しくありません。
20歳ならともかく、40歳を過ぎてイチから社会的な信用を得るのは難しいです。
人的資本の蓄積は、長期的な経済的成功をもたらし、成功者はお互いに信頼し合うことで関係資本を築き、収益を得る機会をより多く手に入れていく。
他方で、信頼を失った者は誰からも相手にされなくなり、人的資本も関係資本も減り、ますます貧乏になっていく。
これが、私たちの社会の身も蓋もない現実です。
3. クレジットカードが世の中のカラクリを教えてくれる
最後に、クレジットカードから世の中のカラクリを見ていきましょう。クレジットカードは世にも不思議な道具で、使えばタイムマシーンに乗ってお金が未来からやってきます。
例えば、一万円の買い物に、現金の代わりにクレジットカードで支払うと、財布の中の現金は減りません。
その代わりに代金の一万円は、あなたの銀行口座から後日引き落とされます。
ところで、なぜお店は代金を受け取らないで、商品を渡してくれるのでしょうか?
店側はあなたの預金通帳見たわけではなく、あなたの銀行口座には100円しかない可能性もあるにも関わらず。
それは、商品の代金はあなたではなく、クレジット会社から支払われるからです。
代金の一万円はクレジットカード会社からお店に支払われ、クレジットカード会社はあなたの銀行口座から一万円を引き落とす。
一見、何の変哲もない取引のようですが、ここにはクレジット会社の利益が見当たらないですよね。
もちろん彼らはボランティア団体ではないので、お店側から手数料を徴収しています。手数料率を5%とすると、クレジットカード会社からお店には9,500円しか支払われないです。
あなたの銀行口座からは一万円が引き落とされるので、差額の500円がクレジット会社の利益になります。
お店からすれば、一万円の商品を9,500円に値引きして売ったのと同じです。
時間にも値段がある
さらに、店側が払っているのは手数料だけでなく、クレジットカードを使う顧客に対して無料で時間を売っています。貨幣経済においては、価値のあるもの全てに値段が付けられます。
当然、時間にも値段があります。
いま目の前にある一万円と、1週間後に手にするはずの一万円では、値段が違うのです。
実は現在の一万円の方が価値が高く、1週間後の一万円の方が価値が低いです。
貨幣価値は、時間によって目減りするのです。目の前の一万円は、間違いなくあなたのものですが、1週間後にもらえるかもしれない一万円には、常に一抹の不安が付きまとっています。
誰も未来を正確に知ることはできないからです。この不安のことを、リスクと言います。
さらに、受け取った一万円を銀行に預けておけば利息がもらえることもできます。つまり1週間後に手に入るはずの一万円は、その間の利息分だけ損しているということになります。
例えば、1週間で1%の金利が付く世界だとすると、現在の一万円は1週間後には10,100円に増えているはずなので、受け取りが遅れると100円損することに。金融業では現在価値を、将来価値からリスクと利息を差し引いて求めます。
逆に、将来価値は、現在価値にリスクと受け取れるはずだった利息を加えたものであるというのが大原則です。
現在価値 = 将来価値 ー失うリスク ー その間で得られるはずの利息
あなたが死んでしまうリスク、相手が詐欺師であるリスクを加えた分だけ将来価値が高くなければ、現在と未来の貨幣の交換は割が合わないということです。
未来の価値を現在に換算したものを、割引現在価値と言い、すべての金融取引の基礎になっています。
これを踏まえると、全てのクレジットカードは、支払猶予期間をできるだけ長くするように使うのが、経済合理的で賢いということになります。
金融業は時間の仲介業
銀行は預金者から時間という原資を得て、それを元手に住宅ローンや企業向け融資にして販売しています。
時間の購入代金と販売代金の差額が、銀行の収益になります。
このように考えれば金融業とは、時間の仲介業であるということがわかります。
そして、時間にも値段が付いていることが分かると、クレジットカードの一括払いの場合は利息や手数料が一切不要というのが、驚くべきことだと分かります。
なぜなら、金融の世界では時間は無料で購入できないからです。
あなたがクレジットカード会社から時間を無料で買っているということは、どこかに時間を無料で売っているお人好しがいるということ。
それは、クレジットカード会社ではなく、お店側です。
現金払いのお客から一万円札を受け取り、それを銀行に預けておくと、0.5%の利息がついて、2カ月後には10,050円になるとすると、カード手数料5%と合わせて、差額は550円になります。
要するに、店側は一万円の商品を9,450円に値引きして売ったことと同じです。
時間が長い短いに関わらず、支払回数が2回以下でクレジット会社は利用者に手数料を取れないというルールがあるため、これを利用することで、無料で時間を購入する期間を大幅に伸ばすことができます。
一方で、しわ寄せを受ける販売店もお人好しではないので、利息分を価格に上乗せし、カード払いの客で損した分を、現金払いの客が埋め合わせています。
お金は手元に長く残っている人が、一番得しているのです。
本書、橘玲さんの「得する生活―お金持ちになる人の考え方」では、このほかにも各種金券、保険、宝くじ、住宅ローン等、知っておきたい「お金のヒミツと世の中のカラクリ」が多く解説されています。
興味のある方は、ぜひ手にとってみてください!