みなさんは、どんな時に家具を購入しますか?
一度購入したら何十年と長く使い続ける可能性のある買い物であるため、デザインや機能性、価格などを考えれば考えるほど悩んでしまい、これだという決定打はなかなか見つけにくいものです。
愛情を持って長く使い続ける家具を見つける方法はなかなか難しいですが、1つの基準として、その家具の持つ“ストーリー性”というものを大切にしてみてはいかがでしょうか。
そこで、日本が誇る技術である成形合板を用いて数々の名作家具を生み出してきた天童木工について、筆者が実際に工場見学して触れたその“ストーリー性”について書きたいと思います。魅力的に感じていただけたら、ぜひ工場に足を運んでみてください。
1. 天童木工の工場見学に行く
天童木工はその名のとおり、山形県の天童市にある家具メーカーです。柳宗理設計のバタフライスツールを知っている方も多いと思います。
1940年(昭和15年)に天童町(旧)他10ヵ村の大工・建具・指物の業者が集まり、天童木工家具建具工業組合を結成したところから始まります。第二次世界大戦中は木製のおとり戦闘機(そこにわざと攻撃させる目的の偽物戦闘機)を製作しており、戦後は日本で初めて高周波発振装置(高周波で合板を折り曲げる装置)を導入し現在のメジャー製品である成形合板家具の本格生産に着手していきます。
私が訪れたのは大寒波の影響で大雪の跡が残る2017年1月末でした。見学は事前予約制で、こちらから希望日時の1週間以上前に、メールで連絡して日程を調整します。見学時間は1時間弱で、事前に入口付近にある家具のギャラリースペースで15分程度説明を受け、その後工場見学です(1日に2回見学する熱狂的なファンもいるそう)。
2. 工場見学のはなし
内部は人と機械の分業が工程ごとにはっきりしており、張地の裁縫や単板の選別、ヤスリがけ等は手作業、ビスの穴あけなどは機械と思ったり手作業の工程が多い印象を受けました。特に仕上げの作業は職人が目を光らせて作業していたのがカッコ良かったです。また、製作過程での廃材が少ないこと、職員がこまめに掃除をしていることもあり、工場内の床はとても清潔に保たれていました。
高温・高湿で自在に折り曲げる成形合板は、治具(ジグ)と呼ばれる型枠(下) で板を挟み込むことで型どおりの形に定着させます。治具は金属製であれば耐久性・精度が増しますが、ほとんどの治具はあえて木製を使うことで、その時々で修正をかけながら使い、大切に使えば30年は持つそうです。
最近では、圧密加工に手間がかかったり柔らかく厚みが約半分になったりと、時間もコストもかかる日本固有のスギを使った成型合板にも挑戦しているそうです。
3. 天童木工のこだわり
名作家具にはデザイナーの版権が切れたものを他社が安く生産する、リプロダクトやジェネリックと呼ばれる手法があります。他社の成型合板家具も生産しようと思えばできますが、天童木工ではオリジナルしか生産していないそうです。
何をもってホンモノと言うかは難しい話しですが、とにかく自社の製品しか作らない。それは職人としてのこだわりであり、自社の技術を守り継承していくという長い目でみたときに大切にすべきことを知っているからなのではないでしょうか。
ちなみに私のお気に入りの天童木工の家具は、剣持勇デザインの柏戸イスという寄木によるマッシブな形が特徴的な椅子で、いつか手に入れたいと思っています。