この記事では、橘玲(たちばな あきら)さんの書籍「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」を紹介します。
世の中では、グローバルな能力主義を生き抜くための自己啓発がブームになっています。将来的にAIに仕事を代替されないために、頑張ってスキルを磨こう!という自己啓発本が、書店にはたくさんありますよね。
しかし、”自己啓発”というのは、少しうさんくさいものです。本当に自分は変われるのか? 本当に自分の能力は向上するのか?という疑問が尽きません。
本書はそんな自己啓発に、異議を唱えています。さっそく、詳しく内容をみていきましょう!
<橘玲さんの書籍はこちらでまとめて紹介しています>
1. 世界で生き延びるたったひとつの方法
自己啓発のプロたちは、“やればできる!”と僕たちを鼓舞します。しかし、この本は真っ向から対立する主張、“能力は開発できない”と主張しています。自己啓発は、意味がないというのです。
なぜなら、努力しても私は変われないから。この主張は著者が勝手に言っているのではなく、進化論の観点から説明できます。しかし、努力しても無駄なのか、結局生まれつきの才能なのかと絶望する必要はありません。今のあなたでも、成功を手にする方法はあります。
著者は、残酷な世界で生き延びるための成功哲学はたった二言で表現しています。「伽藍を捨ててバザールに向かえ!恐竜のしっぽの中に頭を探せ!」
プラットフォームを使い倒せ
恐竜のしっぽと言われても、何のことか分かりませんよね。言い換えると、
「今の世の中は、頭のいい人が医者や弁護士などの高収入の仕事を独占している。だからみんな自己啓発によって自分の能力を高めて、高収入の仕事に就こうとする。しかし、能力の大半は遺伝であるため、努力では自分を変えられない。
大半が高収入の仕事には就けず、コンビニバイトのような誰にも出来る単調な仕事に就かざるを得ない。それが嫌なら自分の好きなことで生きていく方法を見つけるしかない。今の時代、アマゾンやグーグルといったプラットフォームを使えば、工夫次第で自分の好きなことで生きていける道は探せるよ!」と言っているのです。
今の世の中は、人間の様々な能力の中でも特に、言語的知能と論理数学的知能の2つだけを評価しています。要するに、言葉を操る能力が高い人と数字を操る能力が高い人が勉強ができるとされ、高学歴になって高収入の仕事に就く。そんな世の中です。
みんな自己啓発本を読み、勉強頑張って良い仕事に就こうとしますが、勉強はかなりの部分が才能や環境で決まるため、個人の努力じゃなかなか克服できません。
自分の適性に合った成功哲学をつくる
一方で、昔に比べてグーグルやアマゾンといったプラットフォームを活用して自分の好きなことで生活する方法は、見つけやすくなっています。
例えば、音楽を例に取りましょう。音楽でメジャーデビューすることは難しいけれど、YouTubeで自分の音楽を配信して少数のファンを持ってCDを制作してアマゾンで月20万円くらいの生きていくためのお金であれば工夫次第で手に入ります。
漫画家や小説も同じです。ジャンプに連載できるような漫画家は一部だけど、Twitterやpixiv、YouTubeで自分の描いたオリジナルの漫画を公開する。すごく人気がでなくても、少しファンがつけば何とか生活してくことも可能でしょう。
適正に欠けた能力は学習や訓練では向上しないため、自己啓発には意味がない。やってもできないという事実を認めてその上で、どのようにやっていけばいいのかという独自の成功哲学を作っていくべきという教訓です。
2. 適性のない能力は努力で向上しない
能力について、もう少し深掘りしていきましょう。なぜ自己啓発は意味がないのか、みんな実践しても成功できないのか。主な理由は次の2つです。
- 知能の70%は遺伝で決まる
知能だけでなく、ほとんどの能力も遺伝の影響を受けます。
- 性格の半分は子育てなどの環境の影響を受けるが、半分は遺伝決まり変わらない
このほかにも本書の中には、能力は向上しないあらゆるデータが書かれているので、興味がある人は読んでみてください。
やってもできないことも多いと認める
これら2つは、行動経済学によって立証されています。行動経済学では、遺伝的な影響を教育では変えることができない大量の証拠を積み上げています。
それらを踏まえ、著者はこう主張します。適正に欠けた能力は、学習や訓練では向上しない。やれば出来ることはあるかもしれないけれど、やってもできないことの方がずっと多い。
この主張は多くの有識者が主張していることで、例えば、
- リチャード・ドーキンス:利己的な遺伝子
- スティーブン・ピンカー:人間の褒賞を考える
などの本が有名です。
好きなことで生きていく
知能や性格は、努力によって変わらないとするとこんな疑問が湧いてきます。
- 努力が無意味なら、私たちは一体何を支えに生きていけばいいのか?
- 知能や性格が遺伝で決まるなら、人生に希望なんて持てないんじゃないか?
- それでも、自分は変われると信じていたほうが幸福なのか?
一つ言えることは、事実を知り、認めることは重要だということです。人生やればできると信じている人にとって、この事実は人生そのものが台無しになってしまいます。
それよりも、やってもできないという科学的な事実を認めた上で、どのように生きていくかの成功哲学を学んでいくべきです。その成功哲学とは、自分の適した環境、好きなことで生きていく方法を探すということです。
3. 才能をどう見極めるか
最後に、全体の考察をしていきます。
ここまで身も蓋もない話をしてきました。この本では適正に欠けた能力は向上しないと言っていますが、そもそも自分に向いているかどうかの適性を判断することが難しいのではないでしょうか。
サッカー選手でも漫画家でも、自分には才能・適性があると判断する期限はいつがいいのかが、難しいですよね。自分に才能があると追い続けて、10年20年真面目にやっても売れないこともあります。逆に3年間頑張って才能がないとやめてしまったが、本当は才能があって、あと1年続けていたら売れていたという可能性もあります。
打席に立ち続ける
つまり、才能の損切りが難しいということです。クリエイターならば、いつ売れるかわからない。先があると信じ続けて一生売れないこともあるし、逆に才能があっても才能がないと判断して途中で諦めてしまうこともあります。
また、人間は自分には才能がないと認めたくない生き物ですし、現状維持バイアスと言って、現状維持しようとする本能を持っています。その結果、ずるずるとある分野で一生売れない人で終わることも。
これに対しては、ひろゆきさんがよく言うように、働いて安定した収入を得ながら、やりたい活動を続けることがよいのではないでしょうか。才能があるか/ないか、いつそれで売れるか分からない。細々と続けていくことで、同年代で売れずに諦める人が増え、相対的に成功の確率は上がります。
以上、橘玲(たちばな あきら)さんの書籍「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」から、遺伝的に適正の欠けた能力といかに折り合いをつけていくかを説明してきました。興味のある方は、ぜひ本書を手にとってみてください!