斎藤幸平『人新世の「資本論」』要約(SDGs、マルクス資本論、ピケティ)

clear plastic bottle beside beach ハッとさせられる考え方・哲学


あなたはエコバッグやSDGsが、世界の環境問題を解決すると思いますか?

このドキッとする問いを投げかけるのが、今回紹介する「人新世の「資本論」」という本です。


著者の斎藤幸平さんは、現状の環境問題対策では根本的な解決にはならないとし、その解決策として「脱成長コミュニズム」を提唱しています。

それは、一体どういう概念なのか。

この記事では、気候変動問題の現状、グローバル資本主義の限界といった内容を含めて、環境危機を阻止するために、“いかに資本主義にメスを入れるのか”を紹介していきます。

man in black jacket sitting on white chair

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1. 地球は「人新世」の年代に入っている


産業革命以降のこの約200年の間に、人類は森林破壊や資源採掘などで地球環境に深刻な影響を与えてきたことはみなさん周知の事実ですよね。

コンクリートや廃棄物で地表は覆いつくされ、海洋にはマイクロ・プラスチックが大量に浮遊している…。

しかし何故でしょう、経済成長が人類の繁栄の基盤を切り崩しつつあるという事実にも関わらず、私たちはそれほど世界が変わっていないと感じ、この世界はこれからも続いていくと思い込んでいる節があります。

Earth rises above lunar surface


温室効果をもたらす大気中の二酸化炭素は、産業革命以前には280ppmだった濃度が、2016年には400ppmを超えました。

これは、実に400万年ぶりのことだそうです。

そして、400年前の平均気温よりも現在は2~3℃高く、南極やグリーンランドの氷床は融解し、海面は6m~20mも高くなっています。

 

人類の活動の痕跡が、地表を覆い尽くしてる時代 

人類の経済活動が短期的に地球に与えた影響があまりに大きいため、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンは、地質学的に見て、地球は新たな年代に突入したと指摘しています。

そして、それを「人新世」(Anthropocene)と名付けました。

人間の活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代という意味です。

black wooden bed frame with white bed sheet


それに伴う気候危機は、すでに始まっていて、かつてならば“100年に一度”と呼ばれるような類の異常気象が、今や毎年、世界各地で起きています。

一方で、こうした危機に対応するために、エコバッグやSDGsといった世界的な施策が取り組まれていて、失った環境をいつか取り戻せる日が来る…そう私たちは思っているかもしれません。

しかし、著者はそれこそが“害悪”だと述べています。

 

2. エコバッグやSDGsは現代版の免罪符?


買い物袋の有料化によって、すっかり浸透してきたエコバッグ、
他にもSDGs(持続可能な開発目標)やマイボトル、ハイブリットカー…。

これら環境問題に対する取り組みは数知れど、本書はそのほとんどが無意味だ主張します。

 

エコバッグやSDGsは、現代版“大衆のアヘン”

この記事後半にも出てくる、資本論を書いたマルクスは、資本主義の辛い現実が引き起こす苦悩から逃れるための“宗教“をかつて“大衆のアヘン“だと呼びました。

本書ではSDGsやエコバッグが、気候変動や環境破壊から目を背けるために、エコやってる感を出すための現代の“大衆のアヘン”だと述べています。

white plastic bag on white table


このような“エコ”という免罪符がもたらす満足感によって、環境を意識するどころか、むしろこれをやっていればよいと思考停止に陥る害があるとさえ言っています。

 

将来訪れる気候危機は、すでに始まっている

この論には賛否あると思いますが、どの国も経済成長を最優先に、気候変動や環境破壊といった問題先送りしているという事実は明らかです。

気候危機は、2050年あたりから突如として始まるのではなく、複合的な要因によってすでに始まっているにも関わらず!

なぜ、このような事態になるまでほっとかれてしまったのでしょうか。

その理由を明らかにするには、資本主義のグローバル化と環境危機の関係性を理解しなくてはいけません。

 

3. 犠牲を不可視化する外部化社会


大量生産・大量消費型の社会。

それは先進国の人々の豊かな生活を実現してきました。

しかしその裏で、先進国以外のグローバル・サウス(グローバル化によって被害を受ける領域・住民)の資源や労働力を収奪しており、代償を押しつけています。

例えば、私たちがワンシーズンで気軽に捨ててしまうファスト・ファッションの洋服を作っているのは、劣悪な環境下で働くバングラデシュの労働者たちです。

そして、その服の原料である綿花を栽培するのは、40℃の酷暑の中で作業をするインドの貧しい農民です。

インドではファッション業界の需要拡大に対応するために、遺伝子組み換えの綿花を導入し、その結果自家採取の種子が失われ、遺伝子組み換えの種子と化学肥料、除草剤を売り上げで買わないといけないという負のスパイラルに陥っています。

five people digging ground


また、南米のチリでは、先進国の“ヘルシーな食生活”を支えるアボカドを栽培するために、多くの水を必要とするのに加え、アボカドが土壌の養分を吸いつくすため、一度ア生産した土地では、他の作物の栽培が困難になるそうです。

そのチリを、かつて大干ばつが襲ったことがあります。

チリの人々は、先進国のために自らの食料生産や生活用水を犠牲にしてきたうえに、先進国の経済活動によってもたらされた気候変動による被害にも晒されているのです。

 

グローバル・サウスは不可視化され、私たちはその存在をすぐに忘れる

しかし、これらすでに平常運転となってしまった仕組みに、農民は依存せざるを得ないというのもまた事実です。

こうした耳の痛い指摘は、これまでにも何度もありましたが、私たちは心を痛めてはすぐに忘れてしまいます。

なぜなら、これらの出来事はグローバル社会の中で不可視化されているからです。

brown soil with green plants


社会学者シュテファン・レーセニッヒは、この例のように、代償を遠くに転嫁し、不可視化することが、先進国社会の「豊かさ」には不可欠と指摘。

そしてこれを“外部化社会”と呼び、批判しています。

資本主義は、常に「外部」を作り出し、そこに様々な負担を転嫁してきました。

 

資本主義の仕組みの限界

私たちの社会は、外部から採取することで繁栄してきたのです。

しかしそうした安価な外部リソースは有限であり、無限の価値増殖を目指す資本主義の仕組みには限界があり、脱経済成長が必要です。

他方、今まさに進行している気候変動ですが、食料やエネルギーといった生産・消費活動に結びついた環境負荷は不平等に分配されており、苦しんでない人にとってはどこか遠くの物語としか思えないという問題を抱えています。

日本のどこかで自然災害が起こっても、東京のスーパーの食品棚から直ちにモノがなくなる心配はないし、農業や漁業で取れ高が減っても明日の食事に困ることはなく、農家や漁業従事者にしか喫緊の課題にはなりません。

volcano eruption during daytime


しかし、都市部でも台風やなどで環境変化が可視化された昨今、私たちは待ったなしの二度と元の状態に戻れない地点、ポイント・オブ・ノーリターンを超えてしまうかもしれません。

私たちに残された時間は少ない。ならば、どうすればいいのでしょうか。

 

4. 今さらマルクス?「脱成長コミュニズム」が持続性のカギ


著者はここで意外な人物を登場させます。

共産主義の生みの親、資本論で有名なカール・マルクスです。

カール・マルクス 出典:wikipedia

マルクスと聞いて、アレルギー反応を示す人も多いでしょう。

マルクス主義といえば、ソ連や中国といった共産党による一党独裁政治や、スターリンによる粛清、毛沢東の大躍進政策がもたらした大飢饉など、大失敗のイメージ。

時代遅れ、かつ危険な思想だと思う人もいるかもしれません。

ところが、世界に目を向けると、マルクスの思想が再び大きな注目を集めているそうです。

近年、MEGA(メガ)と呼ばれる「マルクス・エンゲルス全集」の刊行に向けて、著者を含めた世界各国の研究者が参加する国際プロジェクトが進められています。

中でも注目すべき資料が、マルクスの“研究ノート”です。

マルクスは、その生涯で膨大なノートを作成していて、この中には「資本論」には取り込まれなかったアイデアや葛藤の記述もあるそうで、私たちはマルクスを誤解していた部分があるようです。

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その一つが、「脱成長コミュニズム」という考えで、これが本書の提唱する新しいコンセプトです。

これは、日本が描きがちなゆっくり衰退していく社会の成熟モデルなどとはまったく違い、また「コミュニズム」という言葉から連想してしまうような、「農村に帰れ」「コミューンを作れ」といった古臭い主張でもありません。

「脱成長コミュニズム」は、次の5つの柱からなります。

  • 使用価値経済への転換
  • 労働時間の短縮
  • 画一的な分業の廃止
  • 生産過程の民主化
  • エッセンシャル・ワークの重視

です。

ここではそれぞれを詳しくは解説しませんが、この考えは、資本主義は欠乏を生み出すシステムとの立場をとっています。

 

“公富 = コモンズ”という考え方

脱成長することで、資本家以外の99%の人たちは豊かになれるはずと問いかけます。

富は、「私富」や「国富」に現れてこない「公富」=コモンズがあり、例えば、水・電気のインフラや教育・医療・住居などをコモンズの軸にしたコミュニズムによって、土地・不動産や新製品といった希少性により価値を生み出す資本主義に対抗しています。

資本主義に囚われず、経済成長により“お金が潤うこと = 豊か”という固定観念を捨て、新製品・新サービスによって希少性を売りに資本を独占している企業の富を公共へ再分配し、GDPの増大ではなく、持続可能な経済へとシフトしていく。

トマ・ピケティは「21世紀の資本」の中で、世界の富の不平等化が進むのは、資産の運用から得られる収入が、労働から得られる収入より多いからだと指摘しました。

man in gray blazer raising drinking glass while sitting on sofa

アメリカの超富裕層はコロナ禍でさえ、資産を62兆円も増大させたそうです。

 

金銭的豊かさに依存した社会からの脱却でしか、環境保全は不可能

もはや一般レベルで優雅な生活を目指しても、格差は広がるばかりの世界になっていることは明らかです。

脱成長コミュニズムに似た話は、以前にもRethink Japanの記事で取り上げました。

[山口 周×波頭 亮] 文化・アートをRethinkせよ【前編】(Rethink Japan)

エッセンシャルワークの重視は、ブルシットジョブに通ずるところがあります。

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私たち自身も潤沢な生活を夢見て消費欲求のためにあくせくせずに、人としての基本的なニーズを満たしつつ、生活の質を向上させることを重視する社会を目指すことでしか、もはや環境保全は不可能なのかもしれません。

本書はすでに各国で、「脱成長コミュニズム」の種とでも呼べるような試みが行われていることも紹介しています。

ある研究によれば、「3.5%」の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、世界が大きく変わるそうです。

本書のような世界にいきなり舵を切ることは不可能でも、環境危機のことを考える上では非常に有用な論であることは間違いありません。

 

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