ハイデガーの論理をわかりやすく解説!(死と向き合い、後悔なく生きる哲学)【時間と存在】

時代を生き抜く考え方・哲学

 

人間は死への存在である

マルティン・ハイデガーは、20世紀を代表するドイツの哲学者であり、その思想は多くの人々に影響を与えています。彼は、存在論の分野で多大な功績を残し、代表作の「存在と時間」で知られています。

この記事では、ハイデガーの主張する「死への存在」という概念や、その思想がもたらす意味について解説していきます。また、哲学初心者でもわかりやすく、興味深い内容となっています。ハイデガーの哲学に興味がある方は必見、ぜひ最後までご覧ください!

 

1. フッサールの後継者

マルティン・ハイデガー 出典:https://book.asahi.com/

 

マルティン・ハイデガー(1889年~1976年)は、ドイツの実存主義哲学者。

彼は存在論の分野で多大な功績を残し、現象学で有名なフッサールの後継者として、1928年にフライブルグ大学教授に就任。同大学の大学総長まで歴任しますが、同時期にナチスに入党していたことが問題視され、その翌年には大学総長を辞任しています。

その後は山登りをしながら、執筆活動を継続。また、「人間の条件」という書籍で有名な、ハンナ・アーレントと愛人関係であったことも有名な話です。ハイデガーは1923年に、ベルリン大学での講義で自身のルーツについて以下のように語っています。

 

探究における同伴者は、若きルターであり、批判はルターが憎んだアリストテレスであった。衝撃を与えたのはキルティゴールであり、私に目をはめ込んだのはフッサールである。

この発言からも、フッサールの現象学に大きな影響を受けていたことがうががえます。

 

ハイデガーの哲学は、現象学的存在論と表現されます。この思想が誕生した20世紀初頭当時のヨーロッパの時代背景としては、科学的な技術革新や社会の組織がマスメディアの台頭、情報の伝達速度向上などにより、世の中が急激に便利になっていた時です。

一方で、その利便性の反動から、人間は主体的な判断がどんどん出来なくなり、受け身になって個性が失われていく、没個性、平均化の傾向が叫ばれていました。

20世紀初頭と比べてさらに便利になった現代においても、大量の情報が飛び交い、世の中の風潮や空間が形成される世界で、受け身の姿勢、没個性、平均化が進んでいくことは想像しやすいと思います。そのような鬱屈とした空気感が、20世紀初頭のヨーロッパにも蔓延していたのです。

また、1923年のドイツでは、ハイパー・インフレが起こり、それまで信頼されていた貨幣の価値がまたたく間に失われることがありました。それと同時に、科学がいくら発展しても、一向に世の中は平和に向かわず、戦争が続き、宗教の力は弱まり、科学への不信感、先行きに対する無力感や不安が広がっていきました。

 

2. 時間に投げ込まれた存在

brown-and-white clocks

 

先行きが見えない時代にまず登場したのが、サルトルに代表される「実存主義」です。これは、簡単に言えば、“人間とは何者か?”という哲学の命題を重視し、それによって人間の進むべき道を提示しようとした試みです。

ハイデガーはその中でも、特に人間の存在に着目した哲学者であり、その存在を解き明かす鍵として、それまで哲学ではあまり触れられなかった時間を採用したことに特色を持ちます。彼の代表的著作が、「存在と時間」であることも、それを表しています。

 

彼の哲学によると、人間とは“時間の中に放り込まれた存在”。現在の自己から過去をみると、過去に存在した様々な時間や歴史が、自分に流れ込んできていることが感覚として理解できます。

それは、国としての時間、民族としての時間、宗教としての時間など様々な時間が流れ込むことによって、自己を形成していると考えたのです。この考え方を紐解くと、ハイデガーがナチスに傾倒したことも、少し理解できます。

 

ハイデガー哲学の肝は、この時間に投げ込まれた人間から見る“未来”にあります。人間を世界に投げ込まれた目的も、理由もない存在だと仮定して、その上で未来にあるものを考察することで、必然的に人間の本質が見えてくる。そのように言うのです。ハイデガーが未来に見たものは何だったのでしょうか。

また、彼の執筆した書籍が難解だとされる理由はたくさんありますが、とにかく造語が多いことや、彼の厳密さを好む性格が挙げられます。一方で、逆にこれがハイデガーが人気を博した要因ともい言えますが、既存の言葉をわざわざ別のカッコいい造語に言い換えて表現するため、それを理解するのに時間がかかります。

例えば、ハイデガーは人間のことをわざわざ「現存在」と言います。これは、“人間”と表現した場合の個々人の個性を一括りにしてしまう危険性を避けるためだと考えられます。他の哲学者にはない独自の表現を多用する彼の著書は、哲学の鉄壁として今でも多くの読者を置き去りにしています。

 

3. 人間は死への存在である

man holding gray dagger

 

ハイデガーによると、人間はこの世界に突然目的も理由もなく投げ込まれた存在。彼はこの存在を、「世界ない存在」と表現します。確かに、私たちは何か明確な意志や目的をもってこの世界に生まれた記憶はないですよね。しかし彼は、だから人間には生きる意味や目的はないと結論づけることなく、

「人間は単に存在しているだけの存在ではなく、決断により自己を自由に選び取るものである。」

要するに、人はこの世に投げ込まれた瞬間は、何かの意図や目的はないけれど、生きていく中の自身の決断によって、生きる意味を選び取ることができると主張したのです。これはサルトルが、「実存は本質に先立つ」と表現したことと、非常に近いです。

 

時間に投げ込まれている

ハイデガーはさらに、「人間は死への存在である」と定義しました。彼の考えでは、世界に投げ込まれた人間は、“時間に投げ込まれている”とも捉えられます。その人間の目の前から続く時間の先、未来には避けられないものとして確実に“死”が待っています。

私たちはみな言うまでもなく、1分1秒と死に向かって歩みを進めていますよね。ハイデガーはその事実と真正面から向き合うことで、“真の自己”を取り戻すことが可能と考えたのです。死はその存在を覚えるたびに、不安や恐怖、悲しみといった感情とともに私たちの目の前に現れます。

しかし、それらと向き合って日々戦い続けることは、非常にしんどく、多くの人は日常的にその不安から目をそらし、紛らわせるために、どうでもいいことで気晴らします。

 

4. 存在忘却の時代

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科学技術により近代化が進んだ現代では、日々の仕事などに忙殺され、本来の自己と向き合う時間はありません。人間は本来「死の存在」であるということを忘れ、だらだらと生きてしまうことが多い。毎日、「いつか死ぬんだ!」と心に留めて生きている人なんて、スティーブ・ジョブズくらいなはずです。

このような人間本来の目的を見失い、没個性化して生きる人のことを、ハイデガーは「ダスマン」と名づけました。または「非本来的な生き方」と表現されます。さらに、このように環境に影響され、自己固有の存在を忘れやすい現代を、「存在忘却の時代」とも呼びます。用語が多いですね…。

 

要するに、自己の存在を取り戻すためには、刻々と迫る死をまっすぐ直視し、積極的にそれを引き受けることが重要だと、ハイデガーは言います。

現代社会では、人間は世の中に都合よく使われ、世間の他者や事物に注意を払いながら生きている。それによって、没個性化・平均化が進み、本来的な思考を失ってしまう。非本来的な生き方をすればするほど、いざ死を迎え、それを直視した際に、本来的な人生を選んでこれなかったことを後悔するのは、容易に想像できます。

 

5. 死ぬ瞬間の5つの後悔

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オーストラリアでターミナルケアの現場で働き、多くの方の死を看取ってきたブロニー・ウェアが記した「死ぬ瞬間の5つの後悔」では、死ぬ間際の後悔として共通するものが大きく5つあると提示されています。

  • 自分に正直な人生を生きればよかった
  • 幸せをあきらめなければよかった
  • 働きすぎなければよかった
  • 思い切って自分の気持ちを伝えればよかった
  • 友人と連絡を取り続ければよかった

 

これらはまさに、生きている間に、日々死と向き合えなかった後悔とも取れる表現だと理解できます。

ハイデガーは、この世界に目的もなく生まれた人間は、ただ単に存在するだけの事物とは違い、決断することで自己を自由に選び取ることができる存在だと主張しましたよね。何も考えずに生きていれば、簡単に没個性化・平均化していき、不安を紛らわしながら、安心して生き長らえることができるかもしれません。

その状況から脱して、死と向き合っていくことのは非常に難しいです。それは、没個性化から抜け出し、周囲と違う道に歩みを進めることにもなります。すると、それまでよりもさらに大きな不安や孤独に苛まれることになるでしょう。

それらを引っくるめても、積極的に死を引き受け、強く生きることが必要だと、ハイデガーは説いたのです。これは現代人の心に深く突き刺さる一方、分かっていてもできないという大きな課題でもあります。

 

いつか死ぬということをしっかりと意識し、今と真剣に向き合い、本来の自己目的を選び取って生きていく。それによって訪れる恐怖や孤独は、積極的に引き受けていく中で、自分の信念を貫く。

強い意志を持ってこの世を去っていた多くの哲学者の存在は、その一人であるセネカが言うように、「心強い話し相手」になります。こうした偉人たちの言葉を胸に、日々を過ごしたいものです。

 

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