画像:KYNE/カイカイキキギャラリー 筆者撮影
どこか物憂げで、クールにすました女の子。「何を考えているんだろう?」とその不思議な雰囲気に惹かれませんか?
作品の作者は、KYNE(キネ)。いま人気急上昇中のアーティストです。
この記事では、KYNEの作品のルーツや魅力を紹介し、なぜこのような作品スタイルになったのかを解説します。
KYNEは今、人気急上昇中のアーティストなので、その作品背景を知ることで、アートのトレンドをキャッチアップできます。
それでは、さっそく掘り下げていきましょう!
1. 日本画をベースにストリートへと昇華
KYNE(キネ)は1988年生まれ、福岡を拠点に活動するアーティストです。大学時代は日本画を学び、その後地元で描いていたストリートアートが話題となったことをきっかけに、2006年頃から本格的にアーティスト活動を開始。
日本画を学んだ影響もあり、平面にモノクロの人物画を描く、余計な要素を削ぎ落としたシンプルかつミニマムな表現が特徴です。
なぜ日本画を学んでいたのかというと、過去のインタビューでは、
もともと油絵をやっていたんですが、絵の具を重ねて立体的に描くところが合わないなと思ったんです。
もうひとつの理由が、高校もデザイン科専攻だったんですが、高校の同級生にすごく写実が上手な油絵を描く友だちがいて、いまその友だちはプロの画家になっているんですが、それもあって油絵だと絶対勝てないから別のことを勉強しようと思って、たまたま選んだのが日本画でした。
ーーKYNE×NONCHELEEE 人気イラストレーター2人のルーツをたどる
と、語っています。
作品の主なモチーフは女の子
作品の主なモチーフとなる女の子は、いつもクールでどこか物憂げな表情を浮かべています。2010年頃に確立したこのポートレート画は「KYNE girl」と呼ばれ、ステッカーを福岡の電柱やビルの壁などあらゆる場所に貼っていくなかで、ストリート界隈での認知度が上がっていきました。
シティポップな雰囲気と、リアルなストリートカルチャーの世界からそのまま飛び出してきそうな女の子は、時代を反映するアイコン的な身近さを感じさせます。
2. 80年代カルチャーから多大な影響を受ける
絵を描く際には、シャープペンシルでスケッチブックに下絵を描くところから始めるそうです。
それをスキャンしてPCに取り込み、徐々に線を減らしながら洗練させていく。下図をきっちりつくってから原寸大に落とし込む日本画をベースとしたプロセスとのことですが、まさに引き算の美学ですね。
作品の中で描かれる女性について、過去のインタビューで以下のように語っています。
ネットで見つけた素材、実際の人物などの髪型やポーズを参考にすることはありますが、顔を似せることはないですね。
喜んだり、悲しんだりといった感情がこもらないようにもしています。
見る人がその時々でいろんな感情を汲み取れるようにしたいので。
――Casa BRUTUS
あえて特定の表情を感じさないように描き、まるで光の当たり具合で表情が変わる能面のごとく、鑑賞者の心に感情を想像させるのが、KYNEスタイル。
一目見れば「KYNEだ!」と分かることも、アーティストとしては作品の印象を強くする重要な要素です。
また、好きな漫画やバイクからインスパイアされた80年代カルチャーの要素を取り入れていることについては、いくつかのインタビューで「80年代の大衆文化から受けた影響は大きい」と語っています。
全身を描かず、レコードジャケットのようにも見えるアートワークは、当時の時代の空気感やノスタルジックな雰囲気を与え、作品をいっそう味わい深いものにしていますよね。
ストリート界隈での人気はもちろん、大手オークションにも度々出品されるなど、今やファインアート界でも着実に知名度を上げ、日本のみならず海外からも注目を集めています。
3. 福岡・東京でスタジオ兼ショップの「ON AIR」を運営
2017年には、福岡で人気のイラストレーター、NONCHELEEE(ノンチェリー)とともに、スタジオ兼ショップの〈ON AIR〉をオープンしています。
ことの発端は、東京で活動するアーティスト・ZMURF(ズマーフ)との飲みの席で、それぞれが選曲した音楽をかけながら、「このままラジオにしたいね。」と思いついたためだそうです。
そこから、ZMURFが東京で展開していた番組の福岡版として、KYNEとNONCHELEEEとで新たな番組がスタートすることに。
ラジオの収録スタジオとして始まり、アトリエ、ショップと様々な目的を兼ねたスペースが「ON AIR」です。カルチャーの発信地する知る人ぞ知る場所として、オープン以来、感度の高い人たちを魅了しています。
さらに2019年には、東京・代田橋にも同スペースをオープン。オープニングパーティーではTOWA TEIもDJとして出演したほか、ON AIRのクルーで現代美術アーティストの加賀美健とのコラボレーションも行われました。
4. KYNEの近年の主な活動状況
福岡・UNION SODAにて、「STAY GOLD MEGURU YAMAGUCHI × KYNE」を開催
2017年5月、KYNEの活動拠点である福岡で、ブラシストロークのアートで有名な山口歴さんとの初の合同展が開催。本展のために制作された新作や、二人の貴重なコラボレート作品、シルクスクリーンのリミテッドエディションも特別に展示されました。
飛ぶ鳥を落とす勢いの二人のコラボは、いま考えても贅沢なものであったに違いありません。
渋谷の「RAYARD MIYASHITA PARK」内のアートスペース「SAI(サイ)」でオープニング個展を開催
2020年7月に、渋谷の宮下公園の再開発で商業施設「RAYARD MIYASHITA PARK」がオープンしました。その内にあるアートスペース「SAI(サイ)」のオープンに際して、KYNEの東京で二度目となる個展「KYNE TOKYO 2」を開催。
それまで背景を描いてこなかったKYNEにとって、ミヤシタパークを描いた初の試みとなる作品などを発表しました。
福岡美術館にて、「KYNE《Untitled》2020年」が開催
2020年からは福岡市美術館で、「KYNE《Untitled》2020年」がスタート。
「(コロナにより)いろいろなことを諦めないといけない中、何か新しいことがしたい!」
という美術館側とKYNEの熱意が重なり、幅約13メートル、高さ3メートルの巨大な壁画ペインティングが誕生しました。過去最大となるこの作品で描かれたテーマは、「公共性と自由」。
※公開は2022年12月末まで終了しています。
シンガーソングライター、iri(イリ)のジャケットを担当
80年代カルチャーに影響を受け、当時の音楽をこよなく愛するKYNEが、2017年に手掛けたのが、シンガーソングライター、iriのEP『life ep』のジャケットです。
特定の誰かを描くことが少ないKYNEですが、アーティスト本人をモデルにイラストを描き下ろし。2021年10月には、iriのデビュー5周年を記念したアルバム「2016-2020」でもジャケットを担当しています。
福岡のストリートカルチャーを出発点とし、世界から注目されているアーティスト・KYNE。カルチャー界隈からの絶大なる支持を下支えに、これからのさらなる飛躍に目が離せません!