人間はどうせ死ぬのだから、今を楽しみ今を充実させた方が、先の心配をするよりよほど現実的だということです。
この記事では、和田秀樹さんの書籍「どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使い切る」を紹介します。本書は、
- 老後の生き方に不安がある
- 今を充実させて生きたい
という方におすすめです。死というものは、みんな怖いもの。死なずに元気に生きていくために、色々なことを我慢している人も多いかもしれませんが、いくら我慢して健康になることをやったところで、死ぬこと自体は誰にも避けられません。
著者は、多くのお年寄りを診察してきた中で、我慢している人の方が後悔するのだということを感じたそうです。本書はやりたいことをやって楽しんで、人生を生きることを教えてくれる本です。それではさっそく、中身をみていきましょう!
1. 著者の体験談
2019年のお正月に、著者はこんな体験をしたそうです。
喉が異常に乾き、10分おきに水を飲まないといられない。夜中に何度もトイレに立つ日が続き、1ヵ月で体重が5キロ減。バイト先の病院の先生が採血をしたところ、血糖値が660mg/dlもあり、重度の糖尿病でした。
著者はたまに血液検査をしても、ここまで血糖値が高かったことはありませんでした。体重も激減していることから、膵臓がんの可能性が高いと言われ、様々な検査を受けることに。また、インスリンの分泌がかなり低下していたので、膵臓がんなら末期と言えるような状態でした。
著者はこの時、「あぁ、私はもう死ぬのか。これまでか」と思ったそうです。以前から血圧が高いと言われていたので、長生きはできないと多少は思っていたものの、58歳だった著者にとって死は遠いものと感じていました。はっきりと自分の死を覚悟したのは、この時が初めだったそうです。
治療をしないという選択肢
当時、著者はたまたまガン放置療法で知られる近藤誠先生と本を作るために何度か対談をしていたこともあり、ガンが見つかっても治療を受けないと決めました。手術や抗がん剤化学療法を受けると体力がひどく落ちて、やりたいことができなくなってしまうからです。
当時は抱えていた仕事がたくさんあり、まだまだ書きたい本もありました。また、膵臓癌も最初の1年くらいはそれほどの症状が出ないこともあるので、治療は何もせず好きな仕事を思いっきりしよう、お金を借りるだけ借りて、撮りたい映画を撮ろうと思ったそうです。
リアルに自身の死に直面したことで、残りの人生をどう生きようかと真剣に考え、どうせ死ぬんだから、自分の好きなことをやり尽くそうと開き直ることができたそうです。結果的に、ガンは見つかりませんでしたが、この時の考えは、いまも著者の人生観の中に生きづいています。
今日という日の花を詰め
ヨーロッパの格言に、“カルペディエム”というものがあります。これは、今日という日の花を詰めという意味。要するに、死は必ず来るから、それは仕方ないものと覚悟して、今という時を大切に楽しく生きなさいということです。
これはまさに、著者の言いたいことです。どうせ死ぬんだから、どう投げやりになるのではなく、自分の命には限りがあるから、自分の好きなように人生を生きたい。死を見極めると、本当にやりたいことが明確に見えてきます。同時に、どうでもいいこともわかります。だから時間を無駄にすることもないです。
2. 死にたくないと思うほど人生の幸福度は下がる
著者は膵臓ガンを疑った時期に、一度自分の死を覚悟しました。
そのため、その後コロナが流行りだした時も、動じることはありませんでした。どうせ死ぬんだから、ジタバタしてもしょうがない。いつまで生きられるのかわからないのだから、旅行するのを控えたり外食するのを我慢したりするのはやめようと決め、思った通りに行動したそうです。
例えば、80歳の人がコロナが怖いからと、行きたい旅行にも行かないで、そのまま亡くなることもあるでしょう。それで本当に、死ぬ時に後悔はないでしょうか?
コロナによる弊害
コロナにはかからなくとも、高齢者が外出もしないで、家に閉じこもり誰とも会話せず不安を煽るようなテレビ番組ばかり見ていたら、筋肉も脳もあっという間に衰えてしまいます。
若いうちなら回復も見込めますが、高齢者の場合引きこもり生活が長引くと足腰や認知機能にダメージを与え、結果的に“フレイル”と呼ばれる心身の虚弱状態を招きます。
フレイル状態になると、全体的精神的な活力が低下し、病気にかかりやすくストレス状態に弱くなるとされています。感染が落ち着いたからといって、どうぞ旅行や外食を楽しんでくださいと言われたところで、それがすぐにできるほど簡単に回復できる状態ではないです。
実際に、高齢者が3年近くも自粛生活をしていたために、足腰がめっきり弱くなって歩けなくなったり、転倒して骨折し入院生活を余儀なくされたりするような事例は数えきれません。
著者はこのコロナ自粛をきっかけに、200万人ほど要介護者が増えることになるだろうと推測しています。
若い世代からは、高齢者を守るために大したリスクもない私たちが我慢しなければいけないのか、といった不満の声も上がりました。自粛などしたくない高齢者も、外では肩身が狭く、家に引き込まれざるを得なかったのです。
そして3年近くも自粛生活を強いられ末に、要介護状態に陥っていくのだから、高齢者はコロナ政策による被害者とも言えます。
どうせ死ぬんだから
著者は高齢者が生き生きと人生を楽しむためのヒントとして、高齢者に向けた一連の本を出版しています。それらが多くの読者に受け入れられているのは、多少早く死んでもいいから、好きに生きたいと望む人々の鬱憤がたまっていたことが要因かもしれません。
残念ながら、人は必ず死ぬもの。死なない人はいません。また、人はいつ死ぬかもわかりませんが、歳を取れば取るほど、死ぬ確率は上がります。だからこそ、ある年齢になったら自分の死を覚悟しなければいけません。いつ死ぬかわからないと思えば、生きている今を楽しまないと損だと思えるはずです。
例えば、今日美味しいものを食べに行こうと誘われた時に、今日そこに行かないと一生その食事に出会えないかもしれません。もし老後もケチケチ節約していて、貯金が思いのほかたまっていたら、一度は運転したかったポルシェを買おうとか、元気なうちに夫婦で世界一周旅行に行こうなどと思うでしょう。
どうせ死ぬんだからと思えば、好きなことができるものです。さらに、もう死んでもいいやって思うことができれば、人はかなり思い切ったことができます。逆に、死にたくないと思えば思うほど、人生の幸福度充実度が下がってしまうものです。
3. 血圧を下げすぎると転倒リスクが上がる
高血圧は動脈瘤でもない限り、今はよほどのことがない限り生命を脅かすものではなくなりました。高血圧が恐いのは、動脈硬化を進行させる危険因子だから。動脈硬化が原因で引き起こされる脳梗塞や心筋梗塞などは、直接死につながる怖い病気であることは確かです。
ただし、一般に歳を取るにつれて、血圧は自然と高めに推移していく傾向にあります。加齢に伴う動脈硬化のため、血液が流れる血管の内腔が狭くなるので、血液が上がるのは適用現象である可能性もあります。
それに逆らって、無理に正常値に近づけようとすると、逆に弊害が現れることも少なくありません。例えば、降圧剤を飲むと、活力が奪われて体がだるくなったり頭がぼんやりしたり、足元がおぼつかなくなったりすることがあります。
それでも医者に血液は正常な方が脳卒中を起こすリスクは低いと言われて服薬を続けていれば、脳卒中ではなくふらついたことが原因で転倒することも考えられます。
脳卒中を起こすリスクとふらついて転ぶリスクでは、転ぶリスクの方がはるかに確率が高いです。さらにその時に、骨折すると寝たきりになる可能性が高く、急速に認知症が進む場合が少なくありません。
正常値が示すもの
著者が勤めていた病院に、併設の老人ホームに入居していた高齢者を定点観測したデータがあります。それによると、高血圧群だけは生存率が低く、動脈硬化や脳梗塞の発症が多かったものの、境界高血圧群と正常血圧群には、生存率動脈硬化の発症に差がありませんでした。
要するに、上の血圧を必死に129以下にしようが、高圧剤などを飲まずに160ぐらいの高めでほったらかしておこうが、それほど影響はなかったということです。検査結果の正常値は高齢者にとって、絶対的な指標にはなり得ない可能性があります。
もしも、血圧が高いと診断され処方された高圧剤を飲んで、頭がシャキッとしない、体がだるい、買い物に行くのも億劫だなどという症状が出るようなら、いわゆる正常値は、その人にとっては異常値なのかもしれないです。
4. コレステロール値は高い方がガンになりにくい
血圧や血糖値と同じように、コレステロールも低い方が良いというのは常識です。
確かに、心筋梗塞や狭心症はコレステロール値が高いほど起きやすくなりますが、世界中で正常値よりも少し高めの方が長生きするといった疫学的なデータがいくつも出されてもいます。
コレステロール値が高い方が免疫力が高く、ガンになりにくいことが分かっています。コレステロールはがん細胞の元になる出来損ないの細胞をやっつけてくれるNK細胞の重要な材料。おそらく、コレステロール値が高い人ほど、免疫活性が良いということになるのでしょう。
さらに、コレステロールは男性ホルモンや女性ホルモンを作る材料にもなります。コレステロール値が高い方が、性ホルモンの分泌が良いので、若々しさを保つこともできます。特に、男性は男性ホルモンが不足すると、女性と比べ物にならないほど老化が進んでしまいます。性欲だけでなく、意欲が衰え、筋肉量が減り、人付き合いが億劫になり記憶力や判断力も低下してしまいます。
コレステロール値が低いとうつ病にかかりやすい
また、コレステロール値が低いとうつ病にかかりやすいという調査データもあります。コレステロールには、脳にセロトニンを運ぶ働きもあるため血中で一定のコレステロール濃度が保たれていないと、セロトニンがうまく運ばれず脳が機能しません。
実際に、著者が多くの高齢のうつ病患者を診断してきて思うことは、コレステロール値が高い人の方がうつからの回復が早く、低い人は回復が遅いということだそうです。血圧・血糖値・コレステロール値は現代医療では3大悪のような扱われ方をしていますが、果たしてそれでいいのかと著者は警鐘を鳴らしています。
何が患者さんにとって有意義であるか
1974年から89年の15年間にわたって、フィンランド保健局が血圧・血糖値・コレステロール値などが高い40~45歳の男性1200人を対象に行った調査研究では、4ヶ月後の健康診断に基づいて数値が高い人には薬を処方し、塩分制限などの健康管理を厳しく行う介入群600人と健康管理には全く介入しない放置群600人に分けて、追跡調査を行いました。
その結果、ガンによる死亡率だけでなく心血管系の病気の罹患率や死亡率、自殺者数に至るまで介入群の方が放置群より高かったのです。こうしたデータを示すと、数値にこだわる大学病院の医師たちの一部からはデタラメだと反発があるそうですが、残念ながら日本の医学部からは一つも反証は出ていないそうです。
大切なのは、何が患者さんにとって有意義であるかを考え、それを治療に活かす努力をすること。そして、有意義な治療法はどういうものなのかを考えることは、他人である医者でなくまずは患者さん自身が自分ごととして考えるべきだと著者は言います。
5. 健康診断の数値と実際の健康はあまり関係性がない
なぜ、医者は血圧や血糖値やコレステロール値を下げようとするのでしょうか?
それは、アメリカの医療原則を適用しているからです。アメリカ人の死因の第1位は心疾患で、血圧や血糖値やコレステロール値を下げることにつながると考えられています。
ところが、日本人の死因の第1位はガンですが、癌で死ぬ人は心筋梗塞で死ぬ人の12倍います。アメリカ人と比べて、失業構造も食生活も体格も違っているのに、アメリカ型を取り入れているのはおかしいと思いませんか?
異常値と病気の因果関係
しかし、それが日本の医療の現状です。著者は、そもそも健康診断は受けない方がいいとすら言っています。健康診断で示される数値のほとんどは健常人、すなわち慢性的な疾患などを抱えていない人の平均値を中心に据え、上下95%の範囲に収まっている人の値を基準値とし、その範囲から高すぎたり低すぎたりして外れた5%の人を異常と判定するもの。
例えば、コレステロール値が異常として引っかかったとしても、それは平均値から外れているというだけで、明らかに病気になるというエビデンスがあるわけではありません。健康診断では、50~60項目の検査をするのが一般的だと思いますが、その中で病気との因果関係が明らかなのは、血圧や血糖値赤血球数などせいぜい5項目ほどです。
それ以外の項目の数値に関しては、よほどの異常値でない限り、将来の寿命に関係しているというエビデンスはありません。異常値と判定されてもその後ほったらかしにしておいた人が、心筋梗塞にならないのに、正常値だった人は突然心筋梗塞になったりもします。
そのくらい、健康診断の結果と実際の健康状態がリンクしていないのです。診断結果に一喜一憂するより、健康診断など受けない方が精神衛生上良いと著者は言います。何より、異常値と判断された数値を改善しようと努力することが、かえって健康を損ねてしまうことがあるというのが大問題です。
健康診断は、病気ではない人を病気にしている面がある。血圧や血糖値が高いことが、どこまで体に悪いのか本当に治療が必要なのか、本当のところは分かっていないにもかかわらず。簡単に薬を出す。健康診断は、病気を見つけて薬を売りつけるための道具になっているという印象が拭えないと、著者は指摘します。
今回紹介した、和田秀樹さんの書籍「どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使い切る」ついては、個人的な見解も混じっているため、どこまで参考にするかは、個々の裁量に委ねられる面が大きいです。しかし、こうした考え方もあるのだと知ることが大切だと思います。まだまだ紹介できていない部分が多いので、ぜひ一度読んでみてください!