写真引用:https://fahrenheitmagazine.com/
ジャン=ポール・サルトルを知っていますか?
サルトルは、フランスの哲学者、小説家、劇作家で、第二次世界大戦後の世界において、無神論的実存主義とマルクス主義の総合を試みて、世界的な影響を及ぼした人物です。
彼は、書物やペーパーナイフのような物体は、存在する前に本質(製法や性質の全体)をあらかじめ決めることができる。
しかし、人間は最初は何ものでもなく、後になって初めて人間になり、みずからつくったところのものになると考えました。
この思想は、「実存主義」と呼ばれ、多くの人々に生きる指針として読みつがれてきました。
この記事では、そんなサルトルの「実存主義」について、入門編としてざっくり解説していきます。短い記事なので、ぜひ最後までご覧ください!
1. サルトル、文学と哲学の世界へ
まずは、サルトルの人生を簡単に紹介します。
1905年、フランス・パリに生まれたジャン=ポール・サルトルは、幼少期に右目の視力をほぼ失い、左目だけで読み書きを行っていました。そんなハンディキャップを持ちながらも、サルトルは1924年にパリ高等師範学校に入学し、ここでメルロ=ポンティなどの知識人と出会います。
1931年には、高等中学校の教師となり、想像力の実験のために幻覚剤を使用するなど独自の探求を行いました。また、友人のレイモン・アロンの影響でフッサールの現象学に触れ、この時期に自身の思想が形成され始めます。
33歳の時に『嘔吐』を出版し、一躍時の人となり、これが彼の哲学的思想の基盤を築くきっかけとなります。
さらにサルトルは、『存在と無』などの哲学書や『自由への道』などの文学作品を執筆し、1964年にノーベル文学賞に選ばれるも、これを辞退します。彼の内縁の妻、シモーヌ・ド・ボーヴォワールとは、実存主義の立場から相互の自由を尊重する関係を築いていました。
2. 実存主義の理論
ここからは、実存主義についてです。
サルトルは実存主義を「無神論的実存主義」と「キリスト教的実存主義」に分けて考えます。
前者にはサルトル自身やハイデガー、ニーチェが含まれ、後者にはキルケゴールやヤスパースが含まれます。
彼は「無神論的実存主義」の観点から、人間は生を受けた瞬間には何の意味も目的も持っていないと考え、真の自己を後から自分で作らなければならないと主張しました。
この哲学は、「実存は本質に先立つ」という有名な言葉に集約されます。
つまり、人間は生まれながらにして個性的な存在でありながらも、その本質は後から努力して自ら見つけ出さなければならないとサルトルは述べています。
彼は、人間の存在を「対自存在」として定義し、対照的に物事や事物などは「即自存在」として説明しています。
ハサミなどの物は特定の目的で存在していますが、人間にはそのような初期の定義がなく、人生の意味は後付けで創られるべきものだとサルトルは考えたのです。
3. 自由と責任の哲学
サルトルは、人間が本来的に持つ自由について独自の見解を持っていました。
彼によれば、この自由は単なる楽観的な自由ではなく、全ての選択において自分で責任を持たなければならないという重い責任を伴ったものです。
自由と責任の問題は、サルトルの時代に限らず現代においても重要な議論の対象です。
また、サルトルは、個々の人間が独自の実存を持っていると考え、そのために他者と責任を分け合うことができないと述べました。
つまり、人間は自由を自分で選択して生きていかなければならず、その選択には避けられない責任が伴うということです。彼は、人間がこの自由を持つことを「自由の刑に処されている」と表現しています。
サルトルによれば、自由という未知の大海原に放り出され、選択を迫られる状況は大変なものです。
例えば、新卒で企業に入社し、何も教えられずに全責任を負わされるような状況は、まさに自由の刑に例えられます。
それでも、自分の本質を見つけるためには行為が必要であり、自由から逃れて何もしなければ、本質に触れることはできないと彼は考えたのです。
4. アンガージュマンとその影響
サルトルは、自由の中から生き方を選択し、その人生に拘束して積極的に社会参加する概念を「アンガージュマン」と呼びました。
彼自身はこの概念を実践し、ベトナム反戦運動やアルジェリア独立闘争に参加し、マルクス主義に傾倒するなど、社会的な活動に深く関与しました。
サルトルの思想は、ヘーゲルの歴史の弁証法、キルケゴールの個人主義、ハイデガーやフッサールの影響を受けて形成されています。これらの哲学者の影響を受け、サルトルは個人を重視しながらも、歴史への干渉を推奨しました。
一方で、このように実存主義は隆盛を極めるものの、その後に登場する構造主義によって勢いを弱めていくこととなります。
1960年代に登場した構造主義は、西洋哲学の流れを変え、我々が生きる現代に至るまでの哲学の歴史を塗り替えることとなりました。
今回の解説は、ここまでです。
実存主義はその周辺の考え方については、他の記事でも取り上げているので、合わせて読んでいただけたら嬉しいです。