あなたにとって、今の職場がベストだと思いますか?
この記事では、サイエンスライターである鈴木祐さんのベストセラー「科学的な適職」を紹介します。本書では、自分にぴったりの仕事を選ぶための5つのステップが紹介されています。これらのステップを実行すれば、適職に就ける確率が上がるというのが本書の主張です。
いまの仕事を、好きだから、お金が稼げるから、流行りだからといった理由で選んでしまっている方に、ぜひ読んでほしい一冊です。それでは、中身をみていきましょう!
<鈴木祐さんの書籍はこちらでまとめて紹介しています>
1. 幻想から目覚める

まずは、私たちが適職探しで陥りがちな、よくある間違いを知っておきましょう。本書ではそれらを、“7つの大罪”としてまとめています。適職探しでよくある落とし穴7つを知り、冷静に仕事や職場を選んでいきしましょう。
好きを仕事にする
仕事を好きにするに関しては、自分の好きなことを仕事にしようがしまいが、最終的な幸福度は変わらないというデータがあります。
なぜなら、好きを仕事にしようとする人たちは、理想が高すぎて常にもっといい仕事があるでは? もっと満足できる仕事があるのでは? と、常に頭の片隅で考え続けてしまい、結局自分が今ついている仕事に満足できない傾向にあるからです。
好きを仕事にしようというアドバイスは、間違っていることになります。
給料の多さで選ぶ
給料の多さで選ぶに関しては、給料が多いか少ないかは、私たちの幸福や仕事の満足度にほとんど影響がないというデータがあります。
私たちは給料が増えれば増えるほど幸福感が増していくと考えがちですが、実際には給料が増えれば、その分だけ責任や労働時間が増えるなどのマイナスの要素もどんどん大きくなっていきます。
一方でお金による幸福感は、年収700万以上ではあまり変わらなくなるそうです。
仕事の楽さで選ぶ
仕事の楽さで選ぶについては、楽すぎる仕事は、幸福度を大きく下げてしまうというデータがあります。
人間は簡単すぎるとやる気を失ってしまうもの。体を鍛えるために筋トレやランニングで適切な負荷を与えなければならないのと同じように、私たちの幸福感も適度なストレスがなければ実現しないのです。
業界や職種で選ぶ
業界や職種で選ぶことに関しては、仕事を選ぶときにこれからどのような業界が伸びるだろうかと考えて仕事を選んでも、意味がないということです。
なぜなら、たとえ専門家であったとしても、将来伸びる業界など予測ができないからです。10年後の仕事はこうなるとか、未来の働き方はこう変わるといった未来予測をよく見かけますが、これらは大抵当てにならないということが、データで証明されています。
今はIT業界が伸びているので、日本のIT企業に就職する人が多いかもしれませんが、例えばグーグルが新しいサービスを始めると、日本企業など太刀打ちできないうちに、一瞬にして日本のIT業界自体がオワコンになってしまうということもあるでしょう。
実際にWeb制作などを行う会社は、以前は非常に儲かっていたそうですが、現在では自動的にウェブサービスを作ってくれる技術が開発され、あまり稼げなくなったという話はよく聞きます。素人の私たちが、この業界が伸びると予測して判断することは無理なのです。
性格テストで選ぶ
性格テストで自分の性格を分析し、それに基づいて仕事を選ぶという方法もありますよね。しかしこれらはフロリダ大学が行ったメタ分析によって、予測能力はほぼゼロであるということが証明されてしまいました。巷に溢れる性格テストは、ほぼ意味がないのです。
直感で選ぶ
私たちを幸福にしてくれる仕事を選ぶのは、とても難しい作業です。自分の好みや給料の多さなどをあてにしてはいけないのなら、いっそのこと直感で選んでしまえと思うかもしれません。
確かに、直感の方が大事というのは、研究データによっても示されています。
例えば、チェスなどでは直感に従った方が優秀な成績が出せるということがわかっています。しかし、直感が正しく働くには次の3つの条件を満たす必要があります。
- ルールが厳格に決まっている
- 何度も練習するチャンスがある
- フィードバックがすぐに得られる
この3つはチェスそのもので、仕事探しには全く当てはまりません。適職選びに正解のルートなどなく、どんな会社に入るのも一発勝負で選んだ企業が正解だったかどうか分かるには、数カ月かかりますよ。
このような悪条件のもとでは私たちの直感力は正常に働きません。仕事選びに直感を用いるのは正しくなさそうです。
適性に合った仕事を求める
適性というフレーズも、キャリア選びの世界ではよく耳にしがちです。この世界のどこかには、自分が生まれ持った能力にぴったりの仕事が存在していて、それさえ見つけてしまえば生き生きと働けるという考え方です。
企業側も面接をしたり、インターンシップを行ったりと、適性のある人材を見極める努力をしています。しかし結論を言ってしまうと、心理学者が行った研究の中で最も精度の高い研究によると、私たちの仕事のパフォーマンスを事前に見抜くことはできないことが分かっています。
つまり、自分がこの職業に向いていると思ってその職業についたとしても、実際にその仕事でパフォーマンスを出せるかどうかはほとんど関係がないということです。
逆に、プログラミングが好きで、プログラマーになった人は同じ好きな者同士の中では大して成績は変わらないということもあります。強みを基準にして仕事を探すことは、必ずしも得策ではないということです。
仕事選びにおける7つの大罪は、職業選びの際り陥りがちな罠です。自分が当てはまっていないか、ぜひチェックしてみてください。
2. 未来を広げる

次に、自分の未来を広げるための、仕事の幸福度を決める“7つの徳目”について、解説します。ありがたいことに、研究によって幸福な仕事に必要な7つの条件が分かっています。
それは、自由、達成、焦点、明確、多様、仲間、貢献の7つです。私たちはこれらの条件を満たす仕事を選べば、幸福になれるのです。自分の仕事や転職したいと思っている仕事が、これらに当てはまるのかどうかチェックしてみてください。
以下、深堀していきます。
自由について
ここでの自由とは、自分に仕事の裁量権があるかどうかです。作業を実行するスケジュールを好きに設定できる、タスクの内容を好きなように選ぶことができるといったことで、思っているよりも大事なことです。
不自由な職場は、タバコよりも健康に悪いということが分かっています。あなたが仕事を決めるときに労働時間はどこまで好きに選べるか、仕事のペースはどこまで社員の裁量に委ねられるのかという2つのポイントだけはできる範囲で必ずチェックしてみてください。
達成について
達成とは、前に進んでいる感覚が得られているかどうかです。人間のモチベーションが最も高まるのは、少しでも仕事が前に進んでいる時です。この感覚があれば、やる気が出ます。仕事の内容よりも、達成感が得られるかどうかに注目しましょう。
焦点について
ここでの焦点とは、自分のモチベーションのタイプを把握することです。人間のパーソナリティには、攻撃型と防御型の2つに分けられます。
攻撃型とは、目標を達成して得られる利益に焦点を当てて働くタイプで、競争に勝つのが大好きです。
防御型とは、目標責任の一種と捉えて競争に負けないために働くタイプで、自分の義務を果たすのが最終的なゴールでできるだけ安全な場所に身を置こうとするタイプです。
自分は攻撃方だと思う方は、進歩や成長を実感するやすい仕事を選ぶのがよりいいです。自分は防御型だなと思う方は、安心感と安定感を実感しやすい仕事を探しましょう。
明確について
明確とは、なすべきことやビジョンがはっきりしていることです。私たちは曖昧なことよりも、はっきりしていることを好みます。例えば、給料がはっきりしている、やるべきタスクがはっきりしている職場というのは、社員の幸福度が非常に高いです。
多様について
多様とは、一言でいうと作業のないよりバリエーションがあるかどうかです。人間はどのような変化にもすぐに慣れてしまいます。日々の仕事が単調ならば楽でいいと思うかもしれませんが、毎日同じことをやっているとモチベーションや達成感が感じられず、幸福度は下がってしまいます。
日常の仕事でどれぐらいの変化を感じられるか、ということを常にチェックしてみてください。
仲間について
仲間が大切なことは、当たり前だと思っているかも知れません。しかし、あなたが思っている以上に仲間は大切です。
職場に友達が3人以上いれば、仕事のモチベーションは700%上がるというデータがあります。また、人生の満足度も96%上がることが分かっています。今の職場に友達を3人以上作ることを目指してみましょう。
貢献について
貢献とは、どれだけ世の中の役に立っているかということです。研究データによると、消防士や理学療法士といった自分の働きが他の人にどう貢献しているのかが見えやすい職業は、満足度が高いということが分かっています。
一方で、他者に貢献している感じが少ない職業は満足度が低いということも分かっています。自分の仕事がどれくらい他人の生活に影響を与えられるかということを、常に考えてみましょう。
3. 悪を取り除く

ここからは、最悪な職場に共通する8つの悪についても知りましょう。これも、落とし穴を避ければよいので、これらが含まれている仕事をできるだけ選ばないことで、幸福は簡単に跳ね上がります。以下、掘り下げていきます。
ワークライフバランスの崩壊
例えば、休日に業務連絡が普通にある、休暇中であるにもかかわらず仕事が当たり前といった、常に仕事のことが頭から離れない環境は、ワークライフバランスを崩壊させやすいです。まずは、オンとオフがはっきりとした仕事を選ぶようにしましょう。
雇用が不安定
急な解雇や減収、仕事が途絶えてしまうといった不安があると、メンタルに悪いということは納得できると思います。最近ではフリーランスは自由でいいという話をよく聞きますが、裏を返せば安定しにくいということにもなります。
長時間労働
長時間労働と健康のリスクの具体的な数値の関係は、週の労働時間が40時間を過ぎたあたりから体が壊れ始め、55時間を超えると確実に心は崩壊に向かうというデータがあります。
厚労省は80時間を超える残業を過労死ラインと定めていますが、この基準よりもかなり低い段階から早期死亡リスクは高まります。また、これらの知見は世界中で共通しているため、かなり精度の高いものとなっています。私たちは、普段から働きすぎなのです。
シフトワーク
シフトワークが体に悪いのは、体内時計のリズムを破壊するからです。私たちの体は、日の入りとともに睡眠を促すホルモンを分泌し、体を休めてコンディションを調節するように設計されています。
それなのに、シフトワークで人体のリズムを乱してしまうと、睡眠の質が下がってメンタルと体の両方に悪影響を及ぼしてしまいます。もちろん医療職など社会的に貢献度が高い仕事もありますが、一方で体には大ダメージを与えるというのも事実です。仕事を選ぶ時には、必ず考慮すべきポイントとなってきます。
仕事のコントロール権がない
これは、7つの徳目である“自由”の反対です。裁量権がなく、ただやらされるばかりの仕事では、幸福度が下がってしまうのは当たり前ですよね。
ソーシャルサポートがない
ソーシャルサポートがないとは、例えば組織内の競争が激しすぎる、交流イベントがない、フィードバックの明確な仕組みがない、困ったときは組織が助けてくれるというメッセージがないといったことです。自分の職場に当てはまるかチェックしてみてください。
組織内に不公平が多い
これも当たり前で、組織内に不公平が多いような職場では、幸福度を感じられるはずもありません。
通勤時間が長い
データを見てみると、通勤時間が長くなるほど人生は不幸になるという結果が出ています。なぜなら、長時間の通勤には、私たちのライフスタイルを蝕む作用があるからです。
特に影響があるのが、睡眠時間の減少です。日本人の通勤時間の平均は、往復で1時間17分なので、大まかに計算すると年間で通勤時間のせいで約63時間もの確保できる睡眠時間が消えているというデータがあります。
4. 歪みに気づく

次に、バイアスを取り除いてもらいます。バイアスとは、人間の脳にもともと備わっているバグのことです。このバグのせいで、私たちは正しい仕事を選ぶことができないです。このバグを取り除くためのテクニックとして、リリースと転職ノートを学んでいきましょう。
具体的にはまず、1日の終わりに自分がその日に行った就職や転職に関する意思決定の内容を、ノートに三人称で書き出します。そして、そのノートは最低15分以上をかけ、2段落ぐらいの文章で仕上げます。例えば、自分を彼という三人称に置き換えた文章の具体例を見てみましょう。
- 就職サイト経由で、衣料メーカーから求人のメッセージが来た。
- とりあえず彼がネットでその起業について調べてみたところ、さまざまな取引先があり、いまの会社の製造ラインの一部も担っていることが分かった。
- これは彼が重んじる多様(日常の仕事でどれぐらいの変化を感じられるか)の考え方にも一致することから、インターンへの参加を決めた。
- 彼が期待するのは、どこまで多様性があるかどうか。そこを見極められるかがポイントだ。
このように記録を取ることが、リリースと転職ノートというテクニックです。三人称で客観的に付けるメリットは、意思決定の記録を後から改ざんできないということです。人間は自分の記憶を都合よく書き換えてしまうという性質があります。そのため、客観的な事実としてノートに残しておく必要があるのです。
5. やりがいを再構築する

最後には、1~4のステップで選んだ仕事が本当に正解だったのか、仕事の満足度を判断してもらいます。
ここまで、仕事の幸福につながらない要素を省いて、仕事の満足度を高めるポイントを取り入れて、幸せを破壊する原因を積極的に避け、さらには適職探しを間違わせる”思考のゆがみ”を正してきました。その結果、選んだ仕事が本当に正解だったのかを検証するのです。
その方法は、仕事満足度尺度。
これは、あなたが仕事からどれぐらいの幸福感を得られているかを数字で計ることができるテストで、全64問で構成されていて、これらの質問に1~5の点数をつけて採点し、合計点を計算する。そこから、幸福度を測るというものです。
海外の論文がベースですが、本書では日本語訳が載っています。興味のある方は本書を手にとって、実際に取り組んでみてください!
今回紹介した鈴木祐さんの「科学的な適職」は、仕事の適性を客観的に、冷静に決めるためにとても有用だと感じました。本書の内容をいきなり全てチェックすることは難しいかもしれませんが、部分的にでも、ぜひチェックを進めてみましょう。