この記事では、橘玲さんの書籍「バカが多いのには理由がある」を紹介します。衝撃的なタイトルの本書。“バカ”という強い言葉が使われていますが、最初に本書でいう“バカ”の定義を押さえます。バカとは、“ファスト思考しかできない人”のこと。対して、賢い人は訓練によって、スローな思考が身についている人のことです。
行動経済学という言葉を聞いたことありますか? 最近では認知度が高まってきている学問ですが、経済学に心理学を導入したもので、人間の行動のクセを解明していく学問です。
そのクセの一つが、思考のクセであり、人は思考するときにファストな早い思考(直感的な思考)と、スローな遅い思考(論理的・合理的な思考)を使い分けているのです。私たちの思考のクセとは何なのか、具体例を交えながら、学んでいきましょう!
1. ファスト思考のクセ
ファスト思考は、物事に対してすぐに答えを出すことができ、認知負荷が低く、楽で簡単に物事を考えることができるため、快適。対して、スロー思考は直感で解くことができない問題に遭遇した時に、私たちは用いるため、認知負荷が高く大変です。そのため、人は無意識のうちにスローな思考方法を避けるクセがあります。
例えば、以下の問いに5秒以内に答えを出してみてください。
Q. パッドとボールの合計金額が11,000円で、パッドはボールより1万円高い。ボールの値段はいくらでしょう?
1000円と即答してしまったあなたは、この問題をファスト思考で解いています。ボールの値段が1,000円の場合は、バッドの値段はそれよりも1万円高い11,000円で合計12,000円になってしまいます。
正解は、ボールが500円で、パッドが10,500円。ゆっくり考えれば、誰にでも分かる問題ですが、すぐに答えを出すとなると、引っかかってしまう人もいるのではないでしょうか。
このように、人は直感で考えるファスト思考と、合理的に考えるスロー思考のを使い分けながら生きています。しかし、本来であればスロー思考を使って考えるべきことをファスト思考を使って考えてしまう、ファスト思考しか使えない人います。本書では、こうした人のことをバカと定義しているのです。
1対1の因果関係があると思い込む
ファスト思考それ自体、悪いものではないです。問題は、本来はスロー思考で答えを出すべきことに対して、スロー思考は疲れるからと、楽なファスト思考のみを使って答えを出し、正しいと信じてしまう。直感がすべてだと、信じ込んでしまう点にあります。
例えば、ある民族で、治療法が確立されていない病気は、薬が効かない恐ろしく強烈な呪いで、呪術によって回復すると直感的に思い込んでしまい、より数多くの犠牲が出てしまうことがあります。
因果関係がないことに、直感的に無理やり因果関係を作り出してしまう。あらゆる事柄に対して、原因と結果を”1対1で対応している”と考えてしまうことに問題があります。このあたりの思い込みについては、「ファクトフルネス」という書籍に、詳しくまとめられているので、気になる方は見てみてください。
2. ファスト思考が優位だった時代
本来であれば、複雑な要因が絡み合って結果が現れているはずのことに、なぜ私たちは早まった回答を導きやすい、ファスト思考を使ってしまうのでしょうか。その理由を著者の橘さんは、進化論を使って説明します。
私たちの思考や感情は、200万年以上続いた旧石器時代に作られ、以降ほとんど変わっておらず、旧石器時代の厳しい環境に最適化された思考が、ファスト思考だと言います。茂みで物音がした時に、それが何かじっくりと考えるスロー思考を使って考えていたら、飛び出して来たライオンに食べられてしまいますよね。だからこそ、直感を信じて逃げ出せるファスト思考の持ち主が、子孫を残すことができ、その子孫が私たちです。
本来であれば、生き延びる上で重要であったファスト思考が、今の文明が発達し複雑化してしまった社会では、返って誤った認識を生んでしまう場面が多くなってしまっているのです。
直感的な判断を合理化する
例えば、相対性理論などがその最たる例です。相対性理論は光の速さに近づくと、時間や空間が歪むことを証明していますが、明らかに直感に反する現象です。直感で理解することは不可能なので、ファスト思考しか持たない人は、この考えを受け入れることができません。
また、ここまでの話を聞いて、直感にしか頼れない人ってバカだなと思った方も、あなた自身の脳に騙されているだけかもしれないです。なぜなら、脳は直感的な判断を、後付で合理化してしまうクセを持っているからです。あなたは自分では論理的に考えていると思っていることが、他の人から見たら全然成り立っていないような論理で、直感に後付けで理由を加えているだけかもしれません。
しかし、それは仕方がないことです。地球が誕生してから今までを1年間として考えると、エジプトやメソポタミアに最初の人類最初の文明が誕生してから、わずか30秒しか経っていないです。スロー思考は、この最後の30秒で初めて必要になった思考方法で、人は今も生活の99%以上をファスト思考で済ませているのです。
私もあなたも、著者本人も、人はみなファスト思考に偏ったバカということを理解し、その上でスロー思考が使えるバカにならなくてはなりません。そのために大切なことが、2つあります。
3. スロー思考が使えるバカになる方法
スロー思考が使えるバカになる方法は、大きく2つあります。
バカだと受け入れること
1つは、自分がバカだと受け入れること。ファスト思考をついつい使ってしまう生き物だということを認識することが、第一に大切なことです。その意識さえあれば、自分が何かを決断する時に、直感に頼ってしまっていないか、自分が考えている論理は客観的に見ても、本当に正しいのかを改めて見直そうとすることができるはずです。
いつファスト思考に頼ってしまうのか知る
もう1つは、人間がいつファスト思考に頼ってしまうのかということを理解することです。これによって、注意するべきときは、どういうときなのかを知ることができます。その時は、大きく3つ、
- モチベーションが低い時
- 自分の知識が足りない時
- 感情的になっている時
です。
モチベーションが低い時
モチベーションが低い時は、その物事に対して真剣に考えようとしていなかったり、真剣に考える体力がなかったりする場合を指します。
例えば、仕事から疲れて帰ってきたときに、妻から子供をどの塾に通わせたらいいかという相談を受けたとします。仕事で疲れているあなたの頭では、一から塾の情報を調べて比較検討するような体力が残っていないため、 CMなどによって好意的な情報を刷り込まれていたり、パンフレット自体のデザインが綺麗なことに引っ張られて選びがちです。
自分の知識が足りない時
自分の知識が足りない時は、知らない分野のセミナーなどでよく起こります。
例えば、不動産投資のセミナーなどに行って、自分自身に不動産投資の経験がないと、話の内容がよく理解できないことがあると思います。通常であれば、よく理解できない投資に手を出すべきではないと判断を下すのが合理的です。
しかし、話している人の堂々とした立ち居振る舞い、自分が知らない知識を持っていることに対する尊敬、理解できるように丁寧に書かれたメリットの部分だけを拡大解釈し、複雑に書かれたデメリットを読み飛ばしてしまうことによって、騙されてしまうのです。
このように、わざとファスト思考を使わせようと、複雑な説明をあえてすることがあります。
感情的になっている時
感情的になっている時は、あくまで例え話ですが、日本人が中国人に劣っているという研究結果が発表されたとしたら、愛国心が強い人は激しく感情が揺さぶられ、研究結果を受け入れることができないと思います。
研究結果が統計的な事実だとしても、私の日本人の友人は優秀だと言ったり、研究結果を否定するために、ネットや書籍で日本人が優秀だというデータを調べ、自分自身を安心させようとします。
しかし、“研究結果を否定する”という前提がある状態で情報を集める限り、確証バイアスと呼ばれる、自分が信じている情報を集めやすくなるという人間の性質によって、日本人が優秀だというデータを集めやすくなるので、集めたデータは偏りのあるものになりがちです。
これ以外にも、ファスト思考を使ってしまうような場面は多数存在します。より詳しく知りたい方は、ダニエル・カーネマン博士の名著「ファスト&スロー」もおすすめです。
4. ファスト思考と上手に付き合う
ここまで、ファスト思考のデメリットを中心に解説しましたが、ファスト思考はそれほど悪いものではなく、私たちが生きていく上で欠かせないものです。
そもそも、ファスト思考を使って下された直感的な判断は、大体が適切な判断であり、常にスロー思考を使っていては、何をするにも時間がかかってしまいます。直感を信じることも、時には大切であり、日常的に私たちが行っていることです。
マーケティングはファスト思考
すべての問題を論理的に考えるスロー思考ばかり使うのではなく、ファスト思考で考えた際に陥りがちなミスを意識して、避けることが大切です。特に、詐欺だけじゃなく、幅広いマーケティングの世界で、ファスト思考のクセは狙われています。
本当は要らないものを、買わされたりすることがよくありますよね。それを逆手にとって、マーケティングやセールスライティングを知ることで、あなたが欲しい商品の本当の価値が見えてきます。今この商品を買いたいと思っているのは、自分の意思なのか、それともマーケティングの手法によって錯覚させられているのか、しっかりと認識できるように、これらの知識を学ぶことも必要でしょう。
今回紹介した、橘玲さんの書籍「バカが多いのには理由がある」では人間の思考のかたよりが、どのような形で現実に現れてきているのかを、政治・経済・社会・心理の4章に分けて解説しています。
ひとつ一つが短編のコラムのように独立しているので、時間がない時にパラパラと興味のあるところだけ読むことでも楽しめます。興味のある方は、ぜひ手にとって読んでみてください!