この記事は前編につづき、佐藤可士和さんのデザインの特徴を解説します。
反復と連続による無限の増殖で、広告の概念を覆してきた可士和さん。その仕事の幅は、広告に止まらず、企業のトータルブランディング、空間へと範囲を広げています。
この後編では、もはやジャンル、“デザインすることを、デザインする”ところまで登りつめた、可士和さんの歴史と特徴を紐解いていきます!
1. ユニクロとの出会い、柳井社長の言葉
可士和さんは、2006年にUNIQLO(ユニクロ)のクローバル展開に合わせて、ブランディングのトータルディレクションを依頼されました。これをきっかけに、私たちがよく目にする、赤の下地に“カタカナ”と“英語”の2種類のシンプルなロゴマークが誕生することに。
また、クローバル展開するうえで“日本発の丁寧なものづくり”を押し出すために、世界共通でカタカナのロゴを使いつつ、それだけでは伝わらないため、英語も併せて用いるというユニークな使い方になったそうです。
ここで逸話を1つ。ユニクロのロンドン店ができた時、そのオープニングイベントの帰りに、可士和さんは柳井社長から「これまで0から100まで手を出していたのをやめて、プロデューサー側に回ってくれ」と言われたそうです。これからどんどんグローバル展開していく中で、今のやり方では回せなくなるからと。
それを言われた可士和さんは、自分が手を出さないとデザインのクオリティが下がるのでは?という懸念があったため、少しも手を出してはいけないのかと聞いたそうです。
答えは”ダメ”。「何でですか?」と聞くと、柳井さんは「触ると目が鈍るから」と。その言葉が、可士和さんの中にガーンと響いて、何度頭の中を巡ります。
それ以降、可士和さん自ら手を動かさずに、方向性だけ伝える仕事も増えていくのですが、コンセプトを研ぎ澄ませて相手に伝えると上手くいくと発見もあったそうです。ディレクション側に回ることで、“よりドライに判断できるようになった”と語る可士和さんですが、きっかけは柳井社長の一言だったのです。
2. 風景やコミュニケーションをつくるロゴデザイン
セブンイレブンのロゴデザインも、可士和さんの仕事として有名ですよね。2010年ごろ、セブンイレブンの40周年に合わせて、バラバラであったコンビニ商品のロゴデザイン、フォントをジャンルごとに分別し、統一した全面リニューアルに取りかかります。
耐久テストを繰り返して、切り落とされた洗練されたデザインが、コンビニの陳列棚に並ぶことで、それ自体が広告や風景となるデザイン。中でも面白いのは、各々の商品のパッケージ写真の上から、ゴシックなどのシンプルな太字でその商品名を表示していることです。
美術大学では、「ビジュアル」と「キャッチコピー」は同じこと言ってはダメで、相乗効果を狙えと教わるそうですが、それからしたらこれは0点。
なぜこのデザインに統一したかというと、いつの間にかテレビではタレントが言ったことに全てテロップで出るようになっていて、そういう情報の取り方に現代人はなったのだと気づいたからだそうです。一目で分かる“こしあんぱん”の上から、太ゴシック体で“こしあんぱん”と書く勇気。
しかし、今の世の中は“こしあんぱん”に“こしあんぱん”と書くことで、スピード感が倍になる。カッコよさげなパッケージデザインと、“こしあんぱん”に“こしあんぱん”と書いたデザイン、どちらが売れるかといったら、“こしあんぱん”なのが事実です。
これも反復の手法のひとつで、可士和さんとしては、時代の流れにデザインを置きにいっている感覚だそうです。
3. コーヒーマシンに、テプラを貼られる世界観
今治タオルのロゴデザインも、実は可士和さんです。夕日が沈むようなロゴをしていますが、5秒で水に沈む吸水性が今治タオルの認定ルールであり、それをロゴ化。ロゴデザインについて、可士和さんは「誰でも描けるものでないと、記憶に残らない。データが飛んでもバックアップいらずで、すぐ再現できるくらいシンプルなものを目指している。」と語っています。
機微とか行間をなくすことで、強いデザインになっている。誰でも描けるというのは、描き終わったあとの議論で、大企業においてトップダウンでそれをやってのけるのが、可士和さんの真骨頂です。余談ですが、佐藤可士和展では、タオルでできる最大サイズの今治タオルのロゴを見ることができます。
セブンカフェが始まった頃に、コーヒーマシンのRがレギュラーなのかライトなのか分かりにくく、各店舗でテプラを貼られて話題になったことを覚えていますか?
これは、全体としての世界観を突き詰めた末のデザインであり、普通のデザイナーならシールが貼られたら怒るところ、より上位のコンセプトを大切にする可士和デザインではそれすら“現象”の一つとして、良しとされるのです。
初めから大きな文字で分かりやすかったら、プレミアム感が損なわれていたでしょうし、結果として「50億杯を突破」していることがすべてを語っています。
ここで、余談をもうひとつ。セブンイレブンのティッシュ箱は取口を剥がすと、ロゴがなくなってどこの製品か分からなくなるという特徴があります。
「家に入ると、ロゴが邪魔でティッシュケース着けたくなるなら、最初からロゴが無いデザインをした方がリピーターが増えると思った。」可士和さんは、ロゴが使われるあらゆる場面を想定し、商品単体では終わらない、コミュニケーションだったり、風景だったりまでを想像しながらデザインしているのです。
4. どんどんスケールが拡大していく可士和デザイン
「宇宙から見たらどうかとか、スケールが大きければ大きい方がいいと思っている。」と語る可士和さんは、最近ではコラボや、みんなに考えてもらうデザインが増えてきました。仕事のスケールがどんどん大きくなって、コンセプトフォーカスになったきっかけの1つは、間違いなく先に挙げたユニクロ柳井社長の言葉でしょう。
団地の未来プロジェクトでは、社会課題に対して、最初から完全オープンイノベーション型にしようと思い、そのプラットフォームをデザインして、どうぞアイデア出してくださいというスタンスをとっています。「自分も壊しながら、まだ未踏の範囲までスケールするとゾクゾクする。」これからも世界を破壊しながら、拡大していくその仕事に目が離せません。