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この記事は、歴史的建造物や大自然を布やプラスチックで覆うアートで有名なブルガリア出身の現代アーティスト、「クリスト」の特集です。
彼は不運にも本記事を書いていた2020年5月31日、84歳で逝去。いちファンである筆者にとって、大変ショックなニュースでした。
クリストはなぜ建物を包み、大自然を覆うのか。追悼の意も込めて、彼の人生をかけた代表作とその特徴を紹介していきます!
1. 刹那のインスタレーションに人生を賭ける
クリスト・ヴラディミロフ・ジャヴァチェフは、1935年生まれブルガリア出身の現代アーティストです。
若い頃にオーストリアとスイスで過ごした後にフランスに移住、クリストが母親の肖像画制作引き受けたことがきっかけで、妻であるジャンヌ=クロード・ドゥナ・ドゥ・ギュボン(1935 − 2009年)と出会い、長年二人で芸術活動を展開してきました。
二人が初めて大規模に実施したインスタレーション(空間芸術)は、1968年にスイスの首都ベルンにある美術館を2430平方メートルの布で包んだもの。
その後も、1985年にパリ最古の橋ポンヌフを包んだ作品や、1995年にドイツ首都ベルリンの旧ドイツ帝国議会議事堂を包んだ作品など大規模な“梱包”が彼らのトレードマークとなります。
大規模な作品は、準備に数年〜数十年を要します。
その時間の大半は、設置する場所の地元行政・住民などとの交渉(しばしば反対運動や「これは芸術か否か」といった論争が巻き起こる)と、美術館や政府や企業などから一切の援助を受けることなく集める高額な資金調達です。
彼らは公開プレゼンによる説得や、作品のイメージを写真にコラージュ作品などをパトロン(資金援助する協力者)に売ることで、少しずつ作品の実現に歩みを進めていきます。
そして実現した作品のほとんどは、わずか数週から数か月で撤去されてきました。
実現できるまでの途方もないプロセスと、刹那に現れる現実離れした心揺さぶられる圧倒的な作品。
その一連の流れすべてと、彼らの生き様そのものが作品であると言えます。クリストは生前に自らの作品について、「場所を借りて、数日の間だけ穏やかな騒ぎを起こす」と説明しています。
2. クリストの近作の一部を紹介
ここからは、クリストの作品を一部紹介していきます。
2016年に発表した「The Floating Piers」では、イタリアのイゼオ湖でポリエチレンのキューブの上に10万平方メートルのオレンジ色の布を敷き詰め、水面を歩けるようにしました。
島と島を布で結び、水面を歩いて行き来できたのです。
2018年にはロンドンのハイドパーク内にあるサーペンタイン・レイクで、7500個以上のドラム缶をつなぎ合わせて作った台形の造形物を浮かばせた「The London Mastaba」を発表しました。
包むだけでなく、巨大な造形物を出現させ、瞬く間に何事もなかったように消える。製作から解体までのプロセスも美しい、クリストの近年の力作と言えます。
また、クリストは死の直前にフランス・パリでの「L’Arc de Triomphe, Wrapped(包装された凱旋門)」を構想中でした。
3. かつては日本にもあったクリストの作品
ここまでで紹介した作品の他にも、
- 島々を水面に浮かぶピンク色の素材で囲む
- オーストラリアの海岸を一面の白で覆う
- 米カリフォルニア州の丘に39キロに及ぶ布のフェンスを設置する
など、クリストは様々なインスタレーションを制作してきました。
中には、日本で行われたものもあります。
1991年の作品「アンブレラ」は、カリフォルニア州と日本の茨城県でそれぞれ同時に巨大な黄色と青の傘を設置するもので、わずか18日で撤去されました。日本らしい民家の風景と、鮮やかな青い傘との対比が面白い作品です。
日本では459人の地権者から許可を取り、その過程で6000杯もの緑茶を飲んだとのこと。
制作費は2600万ドル(約28億円)かかり、全額自費でまかなったそうです。
クリストはかつて「美術手帖」のインタビューで、
二度と見られないことを知っているから、たくさんの人が見に来るのです。
プロジェクトは所有できない、買えない、入場料も取らない、すばらしく非合理なものです。
ありふれていない、役に立たない(ユースレス)ことこそが、クオリティーを支えているのです。
ーークリスト
と語っています。
ダイナミックで創造的、現地のみならず世界中の多くの人々を楽しませてくれたクリストは、インスタレーションにおける歴史的人物であったことは間違いありません。