ゲルハルト・リヒターの代表作を解説【前編】(独自のペイントで世界が注目)

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画像引用:https://blog.kenfru.xyz/

写真の上から描かれた、風景に馴染む独特のペインティング。

この作品の作者は、ゲルハルト・リヒター。

独自のペインティング方法で「絵画の可能性」追求し、常に批評を浴びながら注目を集めつづける現代アーティストです。

この記事では、彼の一貫したテーマであるシャイン(仮象 = 光)やドイツという国に生まれたこと、同時代のアーティストからの影響などを紹介します。

これを読めば、リヒターというアーティストについて、ざっくり網羅的に知ることができます。

 

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1. ドイツを代表する芸術家・リヒター


ゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter)は、1932年ドイツのドレスデン生まれ。

2021年で89歳を迎えた、現役の現代アーティストです。

出典:https://www.greelane.com/


20世紀後半における新欧州絵画の先駆者であり、世界から注目を集める「ドイツ最高峰の画家」と呼ばれています。

彼の作品は世界中の美術館に所蔵されており、有名なものとしてはケルン大聖堂の内部にドイツ政府からの依頼で制作したステンドグラス(2007年に完成)があります。

ケルン大聖堂のステンドグラス 出典:https://www.koelner-dom.de/

ドイツのライヒスターク(国会議事堂)の正面入口にも、ドイツの国旗をモチーフとした作品「黒、赤、金」が飾られているなど、多くの国家的なプロジェクトを手がけていることは、彼がドイツを代表する芸術家であることを表しています。

黒、赤、金 出典:http://saihashizume.com/

2020年には、リヒターをモデルにした映画「ある画家の数奇な運命」が公開されことでも、話題になりました。

抽象表現主義からの影響

旧東ドイツ領に生まれたリヒターは、20歳からドレスデン芸術大学で美術の専門教育を受け、さらに西ドイツ旅行中に出会った抽象表現主義に強い影響を受けることとなります。

1959年、27歳のときにドクメンタ2(ドイツで5年に1度開かれる国際美術展の第2回)を訪れ、ポロックやフォンタナの作品に刺激を受け、西ドイツへの移住を決意。

1961年、ベルリンの壁が建設される半年前に、29歳で西ドイツ・デュッセルドルフへ移住し、現在はケルンを拠点に活動しています。

1960年代から、アブストラクト・ペインティングやカラーチャート、何層にも重ねた色が響きあう抽象画など、一貫して絵画の本質を追求しながら様々な試みに挑戦し続け、独自の作風を展開しています。

マルセル・デュシャンからの影響を強く受けるリヒターは、1962年に新聞写真を基にした「机」という作品の発表に際して、

「かつて画家は外に出てデッサンした。われわれはシャッターを押すだけ。」

と語り、写真をキャンバスに描き出すという独自のスタイルを生み出しました。

 

2. リヒターの作風は、“スタイル・レス”


1964年、32歳の時にはミュンヘン、デュッセルドルフ、ベルリンで個展を開催。

以降、現在に至るまで目覚ましい活躍を見せています。

作品制作のみならず、1971年39歳のときにはデュッセルドルフ芸術アカデミーで教授に就任し、1994年まで同校で教鞭を振るっていました。

現代アートの国際展にも数多く参加しており、1972年には西ドイツの代表として第36回ヴェネチア・ビエンナーレに参加、1997年の第47回では金獅子賞に輝いています。

ドクメンタにも6回参加しており、1997年には日本の高松宮殿下記念世界文化賞を受賞しています。

アトリエにて(1997)
©The Sankei  出典:Shimbunhttps://www.praemiumimperiale.org/

ゲルハルト・リヒターの代表的な作品シリーズ

この素晴らしい経歴の裏には、以下のような代表的な作品シリーズの精力的な制作活動がありました。

  • 鮮烈な色の組み合わせ「アブストラクト・ペインティング」
  • 模写した精密な写真のイメージをぼかす「フォト・ペインティング」
  • カラーチップを配列した幾何学の絵画「カラーチャート」
  • スナップ写真の上に油彩やエナメルを描く「オーバー・ペインテッド・フォト」
  • グレイ1色のみで展開する「グレイ・ペインティング」
  • ガラスや鏡といった反射素材を用いる「ミラー・ペインティング」
  • 自ら収集した写真素材の集積「アトラス」

 

一人の画家としては異例なほどさまざまなスタイルを駆使し、一貫して「絵画の可能性」を追求しているリヒター。

2012年に競売大手サザビーズがロンドンで行ったオークションで、エリック・クラプトンが所有していたリヒターの抽象画「Abstraktes Bild (809-4)」が約2,132万ポンド(約26億9,000万円)で落札されました。

Abstraktes Bild(809-4)(左)とエリック・クラプトン(右) 出典:https://news.sky.com/


この金額はその当時、生存する画家の作品としては史上最高額でした。

リヒターの作風は「style-less(スタイル・レス)」と呼ばれるほど、手法やコンセプトが多様で、人物などの具象画からカラーチャートのような抽象画、伝統的なキャンバスを用いた平面から巨大なガラスを使った立体作品まで、留まることを知りません。

 

3. 代表的な7つの作品シリーズ


ここからは、先ほどの彼の代表的な作品シリーズ7つを、より詳しく解説していきます。

「アブストラクト・ペインティング」シリーズ

リヒターの作品は世界中のコレクターやセレブに愛されていますが、中でも高い人気を誇るのが「アブストラクト・ペインティング」シリーズです。

Abstraktes Bild, Gerhard Richter, 2014, chromogenic print mounted on aluminium, 92 x 126 cm] 出典:https://www.tokyoartbeat.com/


作品数が最も多いシリーズで、44歳の時の発表以来、40年以上にわたって制作されてきました。

1982年には同シリーズ群をドクメンタ7に出品。

スキージ(シルクスクリーンで使うゴムベラ)やキッチンナイフなど、時代によって常に新たな画材を用いながら、色彩や筆致による絵画的な画面を構成してるのが特徴です。

 

「フォト・ペインティング」シリーズ

「フォトペインティング」は別名・写真投影法とも呼ばれています。

新聞や雑誌のスナップを模写した油彩画のシリーズで、オリジナルの写真を忠実に描きながら、輪郭を微妙にぼかすことによって、ぼやっとした不明瞭なイメージを浮かびあがらせています。

バラ(1994)  出典:https://media.thisisgallery.com/


このシリーズの作品はリアルそのものではなく、現実そのものではなく写真としての像を想起させます。

フォトリアリズム(スーパーリアリズム)の作品のように実写らしく描かれた絵画は、まるで現実のように見えてしまうものですが、ピンボケやブレを意図的に加えることで、“現実を写そうとした写真のような絵画”を生み出しています。

 

「オーバーペインテッド・フォト」シリーズ

「オーバーペインテッド・フォト」は、写真の上に油彩やエナメル重ねることで、具象を写すはずの写真を抽象的な絵画へと変換しています。

9. Nov. 1999(1999) 出典:https://www.gerhard-richter.com/


リヒターの根底にあるテーマのひとつに、“写真と絵画の境界の探求”があります。

写真を用いた作品の中には、写真のような絵画を、さらに写真に撮るといった横断的で複雑な試みも行なっています。

 

「カラーチャート」シリーズ

さまざまな色のカラーチップをモザイクタイルのように並べたシリーズで、画材店にある色見本帳を基に、絵画として構成しています。

1960〜70年代にかけて、集中的に制作されました。

1025 Farben (357-3), (1974)  キャンバスにラッカー塗料 出典:https://namiberlin.com/

リヒターは、

「デュシャン以来、作られるものはレディメイドだけである」

「デュシャンが登場して、絵画は死んだ」

と語っており、市販されている既成の色見本帳と絵具からつくられたこのカラーチャートには、マルセル・デュシャンの「レディメイド(既製品)」の考えをオマージュしていると言えます。

この試みはケルン大聖堂のステンドグラスにも応用され、高さ22mの大画面に、約11,500枚の72色の正方形ガラスが敷き詰められました。

配色にあたっては、主観的な判断を排除するため、色の配置はコンピュータの乱数発生装置を用いて精密に計算されています。

 

紹介が長くなってきたので、前編はここまで。残りの3シリーズは後編で。

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