ゲルハルト・リヒターの代表作を解説【後編】(すでに美術史に名を残す画家)

わくわくするデザインの豆知識

ゲルハルト・リヒター『8枚のガラス板』2012年 ガラス 画像引用:https://www.cinra.net/

色々な角度で設置された“だけ”の複数のガラス。

実はこれ、大変有名な現代アートです。

この記事では、前編に引き続き“ドイツ最高峰の画家”ゲルハルト・リヒターについて、解説していきます。

出典:https://www.greelane.com/


リヒターは自身の作品について、「私の絵画における中心的な問題は光(シャイン)である」と語っています。

シャインとはドイツ語で、光のほかに“見かけ”という意味もあり、リヒターのシャインとは「可視像を支える不可視な面(スクリーン、水面、鏡面、レイヤー)」のことです。

シャインという視覚性自体はレディメイド(既成)であり、リヒターが制作しているのは、シャインを出現させるため様々な方法にすぎないと言っています。

前編では、代表的な7つの作品シリーズのうち4つまで紹介しました。

この後編では、冒頭のガラスの作品を含む残り3シリーズ紹介とリヒターの作品が見られる場所、より深く知るための映画を紹介していきます。

 

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1. 代表的な7つの作品シリーズ


それでは、残りの3つのシリーズを紹介していきます。

「グレイ・ペインティング」シリーズ

色が細かく分けていくカラーチャートと対照的に、グレイ(灰色)のみで構成されるシリーズです。

Grau / 灰色(1972)  出典:https://www.gerhard-richter.com/


アメリカを代表する現代音楽家であるジョン・ケージは、

「私には何も言うことはない。だからそのことを言う」

という言葉とともに、自身を超越する「無」の概念を提唱し、無音の楽曲「4分33秒」などを発表しました。

これに影響を受けたリヒターが、絵画がイリュージョニスティックに機能することを阻止するために選んだ色が“グレイ(灰色)”。

グレイはまさに“無”を表現しているのです。

無を白色や透明ではなく、灰色で“無”を表現しているところが面白いですよね。

 

「ミラー・ペインティング」シリーズ

「現実と仮像」というテーマも意識しているリヒターは、鏡やガラスなど反射する素材を、作品に積極的に取り入れてきました。

「“何をどう見るか”にこそ意味がある」

と語るリヒターは、重ね合わせて立てかけただけのガラスを作品として発表。

これには、約35%は鏡のように像を映し、65%は向こう側が透けて見える特殊なガラスを使用しています。

8枚のガラス(2012)@東京国立近代美術館「窓展」 筆者撮影


リヒターは絵画制作と並行して、50年以上ガラスの作品も生み出してきました。

抽象絵画を超えて再び現実を対象とするにあたり、もはや恣意的に対象を選ぶことはできないと感じたリヒター。

ぼんやりと像を映し出すガラスは絵画のようにも見え、本来絵画に描くべき像が、無作為に無限に生まれます。

ここに、“何をどう見るか”を鑑賞者にゆだねるというリヒターの姿勢が表れています。

 

「アトラス」

制作の材料として写真を用いてきたリヒターは、自身が収集した写真素材を「アトラス」として整理しました。

(Zeitungs- & Albumfotos / 新聞とアルバム写真) 1962-1966 出典:https://www.gerhard-richter.com/

それぞれの写真を50cm x 60cm 〜 73.5cm x 51.7cmのボール紙に貼り付け、時系列ではなくイメージの種類ごとに分類しています。

規格化された膨大なイメージは、それ自体が抽象作品のようでもあり、リヒターの作品の源泉を知ることのできる重要な資料でもあります。

  • 家族アルバムに貼られるようなスナップ写真
  • 殺人事件が掲載された新聞記事のスクラップ
  • 海や山の風景写真


など、さまざまなイメージで構成される「アトラス」は、リヒターの厳格な指示により展示されるほか、コラージュなどと合わせて作品集としてもまとめられています。

以上、前編と合わせて7つの作品シリーズを紹介しました。

 

2. ゲルハルト・リヒターの作品はどこで見られる?


日本国内では美術館が所蔵しているリヒター作品は少なく、美術館やギャラリーで不定期に開催されている展覧会で、作品を目にする機会が多くなると思います。

2005年には、石川県・金沢21世紀美術館と千葉県・DIC川村記念美術館で回顧展が開催されました。

DIC川村記念美術館は、ロスコ・ルームがあることをこちらの記事でも紹介しました。

なぜ値段が高い?5分で学ぶ 、 マーク・ロスコ(最も有名な抽象画家のひとり)

その他有名な作品については、複数のアーティストと合わせたテーマに沿った企画展などで見られることもあります。

日本の美術館に収蔵されているのは、次の2点のみです。

「14枚のガラス / 豊島」(愛媛県・豊島)

瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)には、大型の立体作品「14枚のガラス」があります。

14枚のガラス/豊島(無目的のために)(2011)  出典:http://setouchi-art.org/


リヒターは2011年の秋頃に瀬戸内海に初めて訪れ、穏やかな海に囲まれた静かな無人島を気に入り、展示スペースのデザインも行っています。

190cm x 180cmの特殊なガラス板を、少しずつ角度を変えて並べた本作。

現存するリヒターのガラス作品としては最大です。

瀬戸内国際芸術祭と合わせて、一度足を運んでみる価値があると思います。

 

「ステイション」(高知県立美術館)

シャガールの世界的なコレクションで有名な高知県立美術館。

ドイツ表現主義やニュー・ペインティング(新表現主義)の収蔵も多く、2019年に開催された展覧会「ニュー・ペインティングの時代」では、バスキアやキーファーと合わせて、リヒターの作品が一般公開されました。

Station / ステイション(1985)  出典:https://www.gerhard-richter.com/


1985年に発表された油彩画で、大画面にぶつけられた制作の痕跡が生々しく感じらます。

 

3. もっと深くリヒターを知るための3つの映画作品


1960年代から現在まで、50年以上にわたって活躍し続けているリヒターの人生や作品は、映画にもなっています。

手軽により深くリヒターを知るために、これらの映画を鑑賞するのはおすすめです。

ある画家の数奇な運命

2020年に日本でも公開された「ある画家の数奇な運命」は、リヒターの半生をモデルにした長編映画です。

第91回アカデミー賞外国語賞にノミネートされた名作で、「善き人のためのソナタ」で有名なフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督が制作指揮をとりました。

リヒターへの何週間にもわたる長期間の取材をもとにして制作されていますが、

「人物の名前は変えて、何が事実か事実でないかは、互いに絶対に明かさないこと」

が映画化の条件とされており、ドキュメンタリーではなくフィクションとして制作されています。

作中に登場する作品は、退廃芸術としてナチスに破壊されたものも多く、カンディンスキーやモンドリアンといった巨匠の名画が高度な技術で再現されていることも見ものです。

リヒターの「フォトペインティング」は、実際にリヒターの制作を手伝っていた弟子のアンドレアス・シェーンが描いたもの。

限りなく本物に近い作品と合わせて、リヒターをモチーフにしたストーリーが楽しめます

 

ゲルハルト・リヒター・ペインティング

リヒターの制作の裏側を追ったドキュメンタリーで、2020年には日本語字幕付きのDVDも発売されています。

監督のコリンナ・ベルツが、ケルン大聖堂のステンドグラス制作のドキュメンタリー等でリヒターと親密な関係を築いてきたからこそ実現した、3年以上にわたる密着取材。

その成果である本作をは、アトリエで制作している様子や、若かりし頃のインタビューも収録されていて、作品がどのように生み出されているのかを深く知ることができます。

 

アートのお値段

「マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して」でアカデミー賞にノミネートされたナサニエル・カーン監督による、アートとお金の関係をめぐるドキュメンタリー映画。

著名なギャラリストやコレクターのほか、ジェフ・クーンズやジョージ・コンドなど超一流アーティストが登場するほか、リヒター本人や作品も出てきます。

出典:https://www.pen-online.jp/

世界のアート市場について知ることができる良い入門映画になっています。

 

約90歳にして、なお芸術的探求を続けるアーティスト、リヒター。

作品は世界の主要な美術館・ギャラリーに収蔵されており、存命でありながら、すでに美術史の文脈に位置づけられています。

企画展やアートオークションなどで見られる機会はたくさんあると思うので、ぜひ一度実物をみて、感じていただきたいです。

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