水野 学 × 山口 周『世界観をつくる』(センスよくブランディングするための知識)

person holding string lights on opened book わくわくするデザインの豆知識

 

この記事は、水野学さんと山口周さんによる対談の形式の書籍 「世界観をつくる」の紹介です。

水野学さんは、中川政七商店や茅乃舎など、数多くのブランディングやデザインを手がけたクリエイティブディレクター。山口周さんは電通、ボストンコンサルティンググループなどを経て、独立研究者・著作家・パブリックスピーカーとして活動されていて、「ニュータイプの時代」「ビジネスの未来」 などの著書があります。

 “世界観” とは、どういう意味なのか? それは、私たちの社会や組織が新しい世界を構想する力です。

 

今日の世界においては、正解が供給過剰になっていて、その価値を下げています。一方で、解決すべき社会問題はどんどん希少化し、価値が上がっています。要するに、正解を出せる人よりも、問題提起できる人の方がずっと希少で、価値がある状況です。

ここで言う、“問題”とはありたい姿と、現在の姿のギャップ」。ありたい姿が明確に描けていれば、そこに必然的に問題は生まれてきます。いま多くの業界・領域で、この問題が希少化しているのは、私たちの社会や組織が新しい世界を構想する力 = 世界観を失ってきているためです。

では、どうすれば世界観はつくれるのでしょうか?

 

1. 意味をつくる

black and gold analog watch

 

日本企業はずっと“役に立つ”という価値で戦ってきましたが、その価値は過剰になってしまい、意味があるという価値が希少になりました。“意味があることこそ、重要である時代”に変わったのです。

“役に立つ”と、“意味がある”の違いがよく分かるのが、山口周さんの著書「ニュータイプの時代」 に出てきた、スイス時計のエピソード。もともとスイスの時計職人の人たちは、意味なんて考えずに役に立つ時計をひたすら作っていました。重力を分散させる「トゥールビヨン機能」や、自動巻きである「パーペチュアル」といった機構を生み出し、歯車という機械を使って高度なものを追求していたのです。工程はものすごく複雑で、価格も200〜300万円します。

そこに突然、大量生産できて、安価で、精度も勝る、“より役に立つ” 日本のクォーツ時計が登場。このとき、スイス時計会社もクォーツ式で行くという選択肢もあったはずです。しかし、自分たちの組織能力や職人さんたちのことを考えた時、やっぱり違う戦い方をしないと産業を守れないという結論になったのではないでしょうか。結果、スイス時計会社は持つ人にとって意味がある、自己表現としての時計をつくるという方向に転換をしました。そして、その転換に成功した企業が、一流のブランドになっていったのです。

ロレックスが供給調整しながらほぼ値崩れすることなく、デイトナなどの人気が上がる一方なのはこういった背景があるんですね。

 

あらゆる産業で“意味”の台頭が起きている

silver DSLR camera

車やカメラ業界でも同じことが起こり、日本が安価でクオリティの高い“役に立つ”製品を作るようになったことで、ヨーロッパではポルシェやライカといった企業がブランド化していく方向に進みました。そう考えると、今の日本産業が置かれている状況は70〜80年代の欧米諸国と同じ。“役に立つ”ことのみを追求してきたがゆえに、行き詰まった状態と言えます。

韓国では高性能で値段の安い電化製品が作られ、中国からは優秀なドローンが登場。日本はかつてヨーロッパにしたことを、アジアの他の国にされています。つまり、“意味がある”方向に転換できるか、どうか真価が問われている状況にあるのです。

日本における“意味がある”会社の例として、バルミューダがあります。他社製品なら2,000円で買えるトースターを2万円で売りだしたりして、10年間で売り上げが1,000%成長しています。機能ではなく「意味がある」というニッチを追求する、SNSの力で世界中に商品を届けることで、十分に多く人に売ることができるのです。

 

2. 物語を作る

soup in white ceramic bowl

 

スープストックの創業者である遠山正道さんが、三菱商事の社内ベンチャーとしてスープストックを立ち上げた時のエピソードです。遠山さんが出した企画書は 「スープのある1日」という物語でした。単価がいくらのスープを何店舗くらい展開するかとったマーケティング的なことは一切書かず、田中さんという女性がスープを飲んでホッとするという物語だけが書かれていました。この世界観は、スープストックで今でも共有されています。迷った時には、そこに立ち返るようにしているのです。

もう1つ事例を紹介します。電通にいた佐藤雅彦さんが手掛けたカローラツーのコマーシャルは、性能や機能はさほど強調していません。しかし、カローラツーに乗るとこんな日々が訪れるかもしれないと思わせるような物語を表現。小沢健二さんの音楽の力の抜けた自然なたたずまいが、自動車の性能は成熟したし、もっとラグジュアリーにしても意味がないという世界観を表しています。

 

当時のテレビコマーシャルの長さは30秒でしたが、今は15秒という長さが基本ですよね。15秒では“役に立つ”ことなら端的に伝えられますが、 “意味がある”ことは本1冊分くらいの内容なので15秒に納めることはとても難しいです。

一方で、Webでは時間の制限がないため、ストーリーを持っている人にとっては表現の場を広げることができるとてもいい時代になりました。今は情報があふれているため、みんな自分にとって価値がない情報は脳内でシャットアウトする癖がついています。

多くの予算をかけたコマーシャルですら、見た記憶はあるけど肝心の「何のCMだっけ?」ということは覚えていないのはよくあること。反対に自分にとって意味があると思えれば、自ら検索し、わざわざ情報を取りにきてくれるのです。

 

3. 未来をつくる

two white starbucks disposable cups

 

レッドオーシャンは競合がたくさんいて、勝ち目がない。敵が少ないブルーオーシャンを目指せという話はよく聞きますが、やりようはあるそうです。レッドオーシャンに飛び込み、世界観で成功した例が「スターバックス」です。

スターバックスは、有名タレントがスタバのコーヒーを飲むような、ユーザー像を強制的に押しつけるコマーシャルを出してはいませんよね。六本木ヒルズでラテのグランデサイズをテイクアウトして、片手にブリーフケースを持って早足で出社する人の姿。そういう日常のシーンそのものが、スターバックスにとって最高のコミュニケーションメディアになっています。

一番強力な意味伝達媒体が“顧客のふるまい”なのです。スターバックスの例はこちらの記事で、詳しく紹介しています。

person standing near the stairs

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この例からわかることは、どんなに真っ赤なレッドオーシャンでも、意味を作ればやりようあるということです。既存のものでみんな十分と思っているものでも、物語やシーンを提供できると値段も倍にできます。値段が倍にできるということは、お客さんが半分になっても売り上げを伸ばせます。日本は人口が減っていくのが明らかなので、国全体として意味で価値を上げる方向にシフトしていかないと未来は先細りです。

 

ということで、今回は水野学さんと山口周さんの書籍 「世界観をつくる」の中から、特に印象的なエピソードを取り上げました。デザインの中に織り込まれた言葉以上の情報が世界観であり、ブランドであると言えます。世界観を作ることが、企業にも個人にもこれから生き残るための戦略です。水野さんと山口さんの対話は、密度の濃い話ばかりでした。興味を持った方は、ぜひ実際に読んでみてください!

 

 

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